既存のクルマを電気自動車に!? 改造EVが町にあふれる日(前編)
2019/03/28
普及に向けた動きが加速をみせている電気自動車だが、気候変動への対策を考えたとき、まだまだその速度は十分とはいえない。そこで、EVの普及に取り組む環境コンサルタントの村沢義久氏が提案するのは、既存のクルマを電気自動車にしてしまう「改造EV」だ。
新車EVだけでは足りない
筆者はCO2の削減をライフワークとし、そのための手段として太陽光発電と並んで電気自動車(EV)の普及・推進に努めている。特に力を入れているのが、改造EV、つまりガソリン車のエンジンをモーターに積み替えた車だ。筆者自身も昨年9月、改造による「ビートルEV」を手に入れた。
オズコーポレーションによる「ビートルEV」 出所:筆者撮影(筆者所有)
日本を走る車の数は約7800万台。対する新車EVの年間販売台数は10万台にも満たない。これではCO2削減の効果はほとんどない。販売される新車が全てEVになるのはまだ先のこと。
そこで必要になるのが、既存の車のEVへのコンバート(改造)である。それを事業としてやっているのがオズコーポレーション(横浜市、古川治社長)。
CO2削減のためには、大衆車を大量に改造したいところだが、残念ながら現時点では改造費がかかり過ぎて採算が取れない。これまでは、「多少金がかかっても改造して欲しい」というクラシックカーのオーナーをターゲットにし、ホンダ「シティカブリオレ」ダットサン「フェアレディ」「スバル360」「イセッタ」「メッサーシュミット」等多数のクラシックカーをEV化してきた。
そのオズコーポレーションが、これまでの経験を活かしてフォルクスワーゲン「ビートル」を手掛けることになった。そこで、筆者はその「ビートルEV」1号車を購入することにしたという次第。
改造EVでは、車体は元の車をそのまま使う。だから、いわゆる「手作りEV」と違って、衝突安全性や耐久性について全く心配ない。主たる改造作業は、エンジンとガソリンタンクを外し、モーター、バッテリー、制御機器などを搭載するだけだ。
中古「リーフ」の
バッテリーを再使用
この車の大きな特徴は日産「リーフ」のバッテリーパックを分解して、中身をリユース(再利用)していること。初期型「リーフ」のバッテリー容量は24kWhだが、この車では、その半分の12kWh分を搭載している。ただし、モーターと制御系は新規調達したものだ。
「ビートルEV」1号車の概要は以下の通り。
●元の車は1977年型(オークションで入手)
●モーター:最大出力100kW(136馬力)
●バッテリー容量12kWh(「リーフ」のモジュール24個)
●航続距離は実測ベースで80~100km程度
筆者の住む軽井沢では、ベンツやBMWなどの高級車が幅を利かしている。そんな町でひときわ目立っているのが、クラシックボディの我が「ビートルEV」だ。
CO2ゼロFun to Drive!
実際に運転してみると、EVの素晴らしさが良く分かる。元のガソリン車よりはるかにパワフルであり、信号で止まった後など、アクセルペダルをグッと踏み込めば一気に加速する。
ベースの車は4速MTだが、EVではギアチェンジは必要なく、筆者は、発進から停止までずっと3速固定で走ることが多い。モーターは、ガソリンエンジンと違って、低回転から高回転まで強いトルクを維持できるからで、市販のEVも変速機を装備していない。
3速固定のままで、町中をキビキビと走れるし、高速巡行も問題ない。加速感をより感じたければ、2速(セカンド)で発進する。高速走行でも2速のままで大丈夫だが、3速に上げた方が「電費」が良いし、音も静かになる。筆者は、信号がない広い道路では4速で走ることもある。
回生ブレーキ付きなので、アクセルペダルから足を離すとグッと減速し、同時に電力使用はマイナスになる。つまり、発電により充電しているということだ。おかげで、ほとんどブレーキを使わず、アクセルペダルの踏み込みと戻しだけで加減速できる。いわゆる「ワンペダル走行」が可能だ。
航続距離とコストが課題
前述の通り、筆者の「ビートルEV」の実際の航続距離は80~100km(勾配や走り方による)。これは実測ベースなので、日本の緩い基準(JC08)に換算すれば140kmぐらいになる。
「それでは不足でしょう」という人もいるが、現在の筆者の使い方では全く問題ない。軽井沢から隣の佐久市、小諸市まで行くと、1回の走行距離は50㎞程度だから十分余裕がある。しかし、小諸市の先の上田市まで行くと片道約40km(往復80km)なので、まだ行ったことがない。
急速充電機能を備えると、どこまでも走れるようになってより便利にはなるが、バッテリーの劣化が早まるという問題があるため、現時点では普通充電のみに対応している。標準的な普通充電器は200V対応で12kWhを充電するのにかかる時間は7時間程度なのだが、筆者の自宅では100Vでやっているのでゼロから満充電まで15時間。
随分長くかかると感じるかも知れないが、自宅で、夜間や車を使っていないときに充電できるので時間は問題にならない。さらに、ガソリンスタンドに行く必要がなくなるので、利便性は圧倒的に高まった。
オズでは、これまでに、「ビートルEV」1号車と2号車を販売済みで、いずれも普通充電のみに対応している。しかし、3号車では急速充電を装備して実地テストしているので、我が愛車にもそのうち導入するかも知れない。
肝心の改造費用はどうか。モーターの出力(加速性能)、バッテリー容量(航続距離)、その他装備などにより異なるが、オズによると大体250万円から500万円程度らしい。もちろん、難しい車とか、特殊な要求がある場合には、1000万円を超える例もある。
急速充電にも対応! 30分の充電で約80km走れる 出所:オズコーポレション
プロフィール
環境経営コンサルタント(合同会社 Xパワー代表)
村沢義久
東京大学工学修士。スタンフォード大学MBA。経営コンサルティング会社日本代表、ゴールドマンサックス証券バイスプレジデント(M&A担当)などを歴任の後、2005年から2010年まで東京大学特任教授。2010年から2013年3月まで同大学総長室アドバイザー。2013年4月から2016年3月まで立命館大学大学院客員教授。現在の活動の中心は太陽光発電と電気自動車の推進。Twitterは@murasawa。