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災害多発時代に備える 気候変動の「緩和」と「適応」

多大な被害をもたらした台風19号。3週間が経ったが、被害にあった各地では未だ復旧に向けた作業が続いている。これからの時代を生き抜くために「緩和」と「適応」が求められる。環境経営コンサルタントの村沢義久氏による連載コラム第11回。

台風19号がもたらした被害

10月12~13日にかけて日本列島を襲った台風19号。私は軽井沢に住んでいるのだが、生まれ育った四国の徳島県でも経験したことのないような豪雨だった。長野市では千曲川が決壊し、南北1キロ余りにわたって氾濫、大きな被害をもたらした。その時に水に浸かってしまった10編成の新幹線がまだ使えない。北陸新幹線は全線復旧したものの、当分の間は、本数を減らした運行を余儀なくされている。


異常気象は防げない

「100年に一度」の台風や豪雨が毎年起こる異常な時代。気象庁は、1時間当たりの降水量50ミリ以上の豪雨の発生件数について、近年は30年前と比べ1.4倍に増えたと推計している。言うまでもなく、原因の一つは地球温暖化である。

温暖化の影響は巨大台風や豪雨だけではない。極地の氷がとけることにより海面が上昇し、多くの国で沿岸部が侵食され、島国は海面下に沈むと言われている。日本でも、東京湾、大阪湾、伊勢湾などのゼロメートル地帯が影響を受けることになる。


対応策として、2015年にパリ協定が締結され、今世紀中頃までにCO2などの温室効果ガスの新規排出を「実質ゼロ」にしようということになった。筆者はそのための切り札は太陽光発電と電気自動車(EV)の普及であると考え、その推進をライフワークとしている。

しかし、当面はCO2の排出をなくせない分野が残ってしまう。製造業では、製鉄、セメント製造など。それから、運輸部門ではジェット機は電動化できないし、大型船も航続距離の関係から当面は化石燃料に頼らざるを得ないのが実情。だから、パリ協定の掛け声は立派だが、排出を「ゼロ」にするのは至難の業だ。

さらに、仮に、新規排出をゼロにできたとしても、産業革命以来増え続けたCO2の影響はもはや止めることはできない言われている。言い換えれば、温暖化を完全に「抑止」することはできず、我々にできることはせいぜいその進展を遅らせること、つまり「緩和」でしかないということだ。

「適応」という考え方

「緩和」は重要だが、勢いが少し弱まるだけで温暖化は進行してしまう。つまり、巨大台風や豪雨は今後とも起こり続け、我々はその環境の中で生き残り策を見つけなければならないというわけだ。

そこで、最近になって注目されて始めているのが「適応」という考え方。温暖化が不可避なら、その新しい環境に合わせた(適応した)生活をしようというわけだ。いわば、「対症療法」だが、非常に重要なことだ。

研究機関の中で、早い段階から「適応」の重要性を説き続けてきたのが茨城大学で、2006年5月には「地球変動適応科学研究機関(Institute for Global Change Adaptation Science:通称 ICAS)」 を設立し、国内外での具体的な適応策を提唱している。

国レベルでも、2018年6月6日になってようやく「気候変動適応法」が成立し、12 月1日から施行されている。さらに、今年10月26日、国土交通省は、「地球温暖化の進行を踏まえた」河川整備の検討に入った、と発表。台風の巨大化、豪雨の増加などを前提として、堤防や水門の強化、崖の補修などの対策を急ぐという。まさに「適応」策の考え方に則ったものだ。

大きな設備の例としては、首都圏外郭放水路がある。これは、洪水を防ぐために建設された世界最大級の地下放水路だ。中川、倉松川、大落古利根川、18号水路、幸松川などが氾濫した場合、洪水の一部を江戸川へ流す役割を持っている。


ソーラー自立運転と蓄電池

大きな災害時に困るのがライフラインの破壊。台風19号では筆者の自宅も2日間停電した。筆者が経験した中で一番長い停電だが、町の一部では4日以上も続いたという。照明確保のために、電池式のランプや懐中電灯を多数用意し、停電してからは、庭のソーラーランタンも室内に持ち込んで何とかしのいだ。

困ったのは冷蔵庫が使えなかったこと。幸い近くのスーパーやコンビニが開いていたので、氷を買ってきて何とか冷気を保とうとしたが、冷凍ものは融けてしまった。

電源の確保に有効なのが自宅のソーラーハウス化。太陽光発電協会(JPEA)の発表によると、台風15号の災害時には、千葉県内で住宅用太陽光発電システムを設置している家庭のうち、約80%が自立運転機能を利用し、停電時に活用している。

ソーラーハウスをより有効にするのが蓄電池との併用だが、そのための画期的な製品がアメリカからやってくる。EV大手のテスラによる、家庭用蓄電池「パワーウォール」がいよいよ日本に上陸するのだ。この装置に電気を貯めておけば、停電の時にも電気が使えるというありがたい製品だ。

テスラは、2016年に社名を「Tesla Motor Inc.」から「Tesla Inc.」に変更している。つまり、テスラはもはや単なるEVメーカーではなく、太陽光発電と蓄電池を含む「総合エネルギー企業」になったというわけだ。


蓄電容量は13.5kWhで日本の平均世帯消費量の1.3日分に相当する。特筆すべきは、価格の安さ。制御装置を含むシステム価格は99万円(税抜)。1kWh当たりに換算すると約7万3000円。同等の国産品の価格は1kWh当たり20万円程度なので、その3分の1という驚異的な低価格だ。

テスラでは自宅の太陽光発電と組み合わせた使い方を推奨している。住宅用太陽光発電の分野では、2019年には買取期間が終了する住宅オーナーが出始めるが、テスラは、オーナーの多くが蓄電池を購入し自家消費に移行することを期待しているようだ。

もちろん、災害時にも大きな威力を発揮する。実際、上記JPEAの調査でも、蓄電機能を併設しているソーラーハウスでは、1週間程度続いた停電期間中、夜間も含め太陽光発電のみで切り抜けられたことが明らかになっている。

「パワーウォール」は、もちろん単独でも使うことができる。筆者の場合、家の構造と地形の関係上自宅に太陽光発電は設置していないが、「パワーウォール」を家庭の電源で充電しておけば、災害時に使うことができる。容量13kWhは、そのまま使えば通常の1.3日分しかないが、節約すれば数日は持ちこたえることができる。

国民一人一人が「適応」について考え、実践する時代。やれることは全てやらねばならぬ。


プロフィール

環境経営コンサルタント(合同会社 Xパワー代表)

村沢義久


東京大学工学修士。スタンフォード大学MBA。経営コンサルティング会社日本代表、ゴールドマンサックス証券バイスプレジデント(M&A担当)などを歴任の後、2005年から2010年まで東京大学特任教授。2010年から2013年3月まで同大学総長室アドバイザー。2013年4月から2016年3月まで立命館大学大学院客員教授。現在の活動の中心は太陽光発電と電気自動車の推進。Twitterは@murasawa。

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