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今、電気料金の「値上げ」を認めるべき理由

エネルギー費用の高騰にどう対処するべきか。電気代の値上げをどう捉えるべきなのか。複雑な状況を紐解くエネルギージャーナリスト・北村和也氏による連載コラム第36回。

「エネルギー費の高騰」と十把一絡げに言うが、日本で起きている現象は結果として複雑である。値上がりの原因とその対策がバラバラで、一部にしわ寄せが起きる“偏り”も顕著になっている。

“偏り”の実態は、例えば、ガソリン代の補助だけに巨額の税金が使われていること。電気料金では、天然ガスを中心とした原料費が世界的に高騰しているのに、製品である電気代への転嫁が十分できずに、小売事業者だけが無理な企業努力を強いられていること、などである。

なぜそんなことが起きているのだろうか。まず短期的には、高騰の要因が整理されていないこと、値上がりで本当に困る対象の洗い出しと、その効率的な対策を検討されていないこと、などが挙げられる。そして、中長期的には、この先どんなエネルギーシステムが必要で、脱炭素化も含め、どんな政策を取るべきかを総合的にまとめていないことである。

まず、場当たり的に進む、ガソリンへの対応からお話ししたい。

選挙対策にしか見えない、ガソリン代の補助

日本政府が今進めているエネルギー高騰の需要サイドの対策は、ほぼ軽油、ガソリン料金への補助に尽きる。1月から石油元売りに対して1リットル当たり25円の補助を行い、170円台の前半に抑えている。これを4月末からさらに9月まで延長し、さらに35円まで補助を積み増して168円程度にまで引き下げる施策が行われている。

この結果、すでに使われた4,000億円を超える税金に加え、9月までの延長ではさらに1.3兆円が消えることになる。確かにガソリン代の値上がりは、家計や企業活動に直接響く。しかし、車の使い方はそれぞれである。必需品の運輸とレジャーに使う自家用車はその用途と必要性に大きな差がある。また、所得などの差も加味されないため、一律補助は、まさにバラマキになる。

過度な補助は市場メカニズムを壊す。資源の高騰=資源不足が価格に転嫁され、その資源を効率的に使うことで、経済的に調整されるのが通常の流れである。まして、今回は化石燃料の話である。結局、喫緊の大きな課題である脱炭素に逆行することにもつながる。

目の前に迫る参議院選挙目当て、愚策という声は、すでに各方面から上がっている。欧米を見ると、低所得者層の光熱費補填、エネルギー集約型企業への補助などの短期的な助成と、エネルギーの構造転換(再生エネ施設の補助や系統の増強など)など中長期的な戦略が合わせて進められている。

2兆円近くにも及ぶガソリン補助をばらまくのではなく、本当に必要なところにお金を回す政策へのシフトが必要である。だいたい、この無理な補助は長く続けることが不可能である。

電気代はどこまで上がるのか、上げられるのか。

1年6ヶ月ほど前のJEPXの異常な高騰と違い、今回の電気代の値上がりは原因がほぼわかっている。発電燃料の最も大きな割合を占める天然ガスが昨年秋からの高騰した上、2月末のロシアのウクライナ侵略が重なって、ダブルの原料不足が起きているためである。

(JEPXのシステムプライスの推移 出典:資源エネルギー庁)

背景には、脱炭素の急進展や新型コロナから経済回復などもあって、複合的な資源不足が構成された。影響は大きい。電力の小売事業者のうち、最初に体力の弱い新電力の一部が脱落を始めた。しかし、原料の上昇は旧一電系の小売りにも同じくダメージを与え、彼らの手も上がり始めている。
原料の値上がりに対処するために燃料調整費という制度がある。その上昇が昨年9月から連続していて、すでに2割から3割というかつてない料金値上げになっている。しかし、旧一電系には燃料調整費の上限(基準値の1.5倍まで)があり、数社がその上限に達したか、間もなく達する勢いとなった。逆ザヤが起こり始めている。旧一電系は、体力がある分長く持つかもしれないが、続けばいずれ屋台骨が揺らぎかねない。

少なくない新電力は、料金プランを変更し値上げを行っているが、旧一電系の料金プランがある意味の天井となって、それ以上の値上げは難しい。
つまり、旧一電も新電力も、原料高騰による電力原価の値上がりを販売価格に転嫁できずに苦しんでいるのが現実である。

無責任な、政府の「値上げは認められない」

では、解決策はどこにあるのか。筆者の考えは単純で、「旧一電の規制料金の値上げ」である。このままでは、旧一電系の体力も消耗し、日本の電力の安定供給に影響しかねない。先ほども書いたが、値上げができれば、結果として、新電力にとっての料金の上限も引き上げられ、共に生き残る可能性が出てくる。

もちろん、さらなる料金値上げで生活苦や企業なら事業の先行きに影響する部分が出てくるであろう。それには、困るところへの集中的な支援で対応するしかない。ガソリン対応と同じようなバラマキではなく、メリハリの利いた助成が必要であり、それが現実的である。

政府の対応はすこぶる冷たい。日経新聞によると、「値上げは経営の根幹に関わる事態じゃないと認められない。コスト削減を優先すべきだ」(経済産業省幹部)とあって、値上げには消極的である。選挙前の政権の意向を反映しているのだろうが、物事にはできることとできないことがある。特に、電気という、燃料を中心とした単純な原価構成の“製品”では、原料価格が跳ね上がった場合の経営努力には限界がある。

そして、大手電力会社、旧一電の体力を削ぐことは、今後の再生エネの大量導入や火力発電の更新などに影響が及びかねない。
高騰という現実から一時期、目を逸らさせることができても、また、目の前のバラマキで国民の歓心を買っても、問題の解決にはつながらない。それは、結果としてエネルギーの安定を損ない、脱炭素の道を閉ざすことになりかねない。

日本の決定的な弱みは、急進行する円安

下のグラフは、ロシアのウクライナ侵略時点を基準としたドイツでのエネルギー費の推移を示している。
昨年後半の天然ガス高騰はいったん12月下旬にピークを迎え、年明けからやや落ち着きを見せていた。しかし、2月24日の侵略開始(=100)で大きく局面が変わる。
3月中旬にかけて、天然ガス(+70%以上)、ガソリン(+20%から40%)と上昇し、電気(Strom)は4月上旬にかけ+30%近くまで上がる。最近は初期のショックがやや収まり、高止まりではあるが安定してきている。エネルギーをロシアに頼るドイツでさえ、である。

(ドイツのエネルギー費の推移(侵略開始=100) 出典:Verivox, tankerkoenig.de, ZEIT ONLINE)

ウクライナでのロシアの侵略戦争は長期化の様相を見せていて、当面はこの程度の高値安定が見込まれる。エネルギー自給率の低い日本でも基本的には似た傾向が想像される。

しかし、日本には決定的な弱みがある。それは、極端に進む円安である。この1年で2割もの円安に動いたことは、仮にエネルギーの高騰が無くても2割程度の値上がりと同等の悪影響である。日本は、高騰と円安の二正面作戦を強いられており、燃料高騰の手当てだけでは不足となる。

燃料調整費の上限撤廃と最終保証供給での電気代の変更

当面、電気料金の値上げが認められないとする一方で、いくつかの“調整”が行われようとしている。ひとつは、最終保障供給の料金を変える動きである。最終保障供給とは、どの小売り会社とも契約できない場合、送配電事業者が受け皿となるセーフティネットとして用意されている。その際の料金は、標準プランの1.2倍である。通常なら、高いと思われるこの料金が、旧一電などの小売事業者のオファーより安くなる逆転現象も起きているという。このため、料金を市場価格やインバランス料金に連動させ、実質的に高くすることが検討され、ほどなく実施される見込みである。

また、燃料調整費の上限撤廃も現実的な判断として実施の可能性がある。

実現されれば、実質的に料金値上げと同様の効果を生むことになる。
一部だけに無理を強いるコスト負担は、持続的ではない。また、負担上昇に対応した補助は本当に必要なところに対して行うべきである。
結果として、短期的な課題の解消が見えてきても中長期の大きな課題は残ったままである。円安対策を含めた、脱炭素化を中心とした根本的な対応は、総合的な検討と判断の先の政府の決断にしかないことを忘れてはならない。

 

プロフィール

エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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