政策・制度

10年ぶりに国の蓄電池産業戦略策定へ 官民一体で蓄電池の世界シェア奪回を目指す

2022年は3月に電力需給ひっ迫、4月に度重なる出力制御と全国大で大手電力会社による送電線運用が不安定になっている。蓄電池は電力の需給調整に力を発揮し、送電線安定運用の一助となる。経済産業省は蓄電池製造の強化に向けた新たな戦略策定を進めている。

10年ぶりの
蓄電池産業戦略

経産省は2022年4月下旬に「蓄電池産業戦略」の中間報告書を取りまとめた。戦略策定には、電池メーカー、部材メーカー、自動車業界関係者、政府関係者などが有識者会合に参加し、日本の蓄電池産業が世界で競争力を取り戻すための方策について議論した。今夏に最終報告書をとりまとめる方針だ。前回の戦略策定から10年ぶりとなる。

中間報告書の目玉が、蓄電池製造能力の新たな目標設定だ。国内製造能力目標として遅くとも2030年までに現行の5倍以上となる年1億5000万kWhを、国内外の製造能力目標には2030年に日本企業全体でグローバル市場において現行の10倍以上となる年6億kWhの目標を掲げた。1億5000万kWhは標準的な電気自動車(EV)に搭載された蓄電池容量に換算すると約180万~200万台に、6億kWhは720~800万台に相当する。日本企業が国際競争力を維持し、主要なプレーヤーであり続けるためには、この規模の製造能力が必要としている。

政府が2021年6月に策定したグリーン成長戦略の蓄電池分野では、2030年までのできるだけ早期に国内の車載用蓄電池の製造能力を1億kWhまで高めると定めていた。新目標の1億5000万kWhのうち国内車載用蓄電池1億kWh分を引いた残りの5000万kWh分は輸出向け車載用と家庭や工場などの業務・産業向けの定置用を想定している。

1000億円の製造拠点
国内立地支援事業が公募

2015年に40.2%でトップだった日本の車載用リチウムイオン電池の世界シェアは、中国や韓国に抜かれ、20年には21.1%となっている。さらに定置用リチウムイオン電池の世界シェアは16年の27.4%から20年は4.5%まで低下している。年6億kWhの国内外製造能力目標は世界市場2割以上を確保する試算だという。

政府は技術開発支援に重点を置き過ぎたことを改めて、今後は社会実装や設備投資支援策も強化する。具体策が、経産省の21年度補正予算の「蓄電池の国内生産基盤の確保のための先端生産技術導入・開発促進事業」(1000億円)だ。同事業はEVなど次世代産業のカギとなる先端的な蓄電池・材料の製造・リサイクル技術を用いた大規模製造拠点の国内立地を支援する。工場立地や設備導入企業に対し、建物・設備や、生産技術などに関する研究開発の費用を補助する。設備の補助率は1/3以内、研究開発の補助率は1/2以内を予定している。基金方式にすることで複数年にわたって事業を執行する。

野村総合研究所が同事業の事務局となり、2022年3月24日に公募を開始し、同年4月28日に締め切った。事務局は採択事業者の選定を進めている。

GI基金で次世代
蓄電池・次世代モーター開発

中間報告書は、次世代蓄電池の研究開発目標も掲げた。全固体電池を30年頃に本格実用化し、30年以降も日本が技術リーダーの地位を維持・確保を目指す。具体策として政府の総額2兆円のグリーンイノベーション(GI)基金が全固体電池の研究開発を支援する。同基金事業の委託先である国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構は2022年4月下旬にGI基金事業の一環である「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」プロジェクト(1510億円)の採択企業を発表した。

 同プロジェクトは蓄電池やモーターシステムの性能向上とコスト低減のほか、材料レベルからの高性能化・省資源化、高度なリサイクル技術の実用化に向け、技術課題の解決に取り組む。同プロジェクトの中の全固体電池研究開発事業には自動車メーカーのホンダや日産自動車、電池メーカーのGSユアサやパナソニックのグループ会社が採択された。

日本は官民一体となり中韓企業に奪われた蓄電池シェアを奪回し、コスト低減実現により、再生エネ大量導入の需給調整の活用を進めていく。

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