ドイツの再エネを襲った「暗い凪(なぎ)」の威力と世界が進める「柔軟性」によるソリューション
2024/11/28
2024年11月の初旬、ドイツの電力構成が大きく変化した。年初から全電力のおよそ3分の2をカバーしていた再エネ電源率が3割まで急降下。今回のコラムでは、「暗い凪」の実際と解決策として注目を集める柔軟性について、解説する。
再エネ電力急降下を招いた、長期の「暗い凪」
急降下の原因はドイツ語で言う、いわゆる「Dunkelflaute(ドゥンケルフラウテ)」。直訳すると、「暗い凪」となり、暗い=太陽が出ず+凪(なぎ)=風が吹かないことで、再エネの発電量が極端に低下したのである。
グラフは、ドイツの第45週(11月4日~10日)の電源構成を示している。
字が小さくて見にくいのは申し訳ないが、右側は、再エネ(黄色)と化石燃料(グレー)の比率、30%対70%を表す。ドイツの再エネ電源率は、今年に入りさらに拡大し、平均してほぼ3分の2となっていた。それが半分以下に急減したのである。
ドイツの11月初旬の電源構成 出典:FraunhoferISE
左側のグラフで、さらに個別の電源を見てみよう。
円グラフの時計で言う3時のあたり、オレンジ色の太陽光発電の比率が4.7%、その上の2時あたりの灰色っぽい2つの洋上風力+陸上風力がそれぞれ2.8%と7.0%である。風力+太陽光発電のいわゆるVRE(可変的再エネ)が、合わせてもわずか15%にも満たない。
これをカバーしたのが化石燃料で、左上4分の1を占める天然ガス火力発電(ピンク)とほぼ下半分を占める石炭火力発電(黒と茶)を合わせ7割まで上昇した。
この週は、欧州のデンマーク、ドイツ、オランダなど広い地域で、あまり風が吹かずまた日差しも弱い、いわゆる「Dunkelflaute:暗い凪」が起きた。この時期には珍しくない現象であるが、異例に長引き数日間続いたことで電源構成の激変が起きた。化石燃料で代替し停電などのリスクはなかったが、1kWhあたり80ユーロセント、130円にもなる高い電気の時間が数時間発生し、料金にも影響した。
ドイツで年間100~200時間の「暗い凪」に、どう対応すればよいか
「暗い凪」(ドゥンケルフラウテ)発生のベースとなったのは欧州で進む再エネ電源の普及拡大である。
ドイツでも再エネ、特に太陽光+風力発電のVRE(可変的再エネ)が常時、電力の半分程度を占めるようになったため、「暗い凪」が近隣諸国含めて数日レベルで長引くと、今回のようなことが起きる。
ドイツの昨年1月の再エネ発電と需要 出典:FraunhoferISE
上のグラフは、昨年の1月下旬にドイツで起きた「暗い凪」を、電力の需給データと併せて示している。青色で表された再エネ発電が、1月21日から28日の間に大きく落ち込んだ。上部の緑の折れ線=需要との間にある大きな空白が、「暗い凪」(赤い長円)である。
「暗い凪」の発生は、かなり前から予測され、対策も研究されてきている。
よって、今回のような出来事は、起きるべくして起きたことで、特に驚きや衝撃を呼んだわけではない。ドイツ気象局(DWD)の分析では、VRE(風力+太陽光発電)が気象条件によって発電出力の1割以下となって48時間続くケースは、年間を通じて平均2回とされている(出典:Clean Energy Wire)。つまり。年間100時間程度、今回のように4日間続いて起きた場合では、200時間程度をどうカバーするかがポイントとなる。
太陽光、風力発電の「天候に左右される発電」については、日本でもよく取り上げられ、度々、再エネ導入のネックとして強調される。
一方、欧州など再エネが普及する国々では、「暗い凪」や最近増えてきた「出力抑制」などの“VREの弱み”に対するソリューションとして、「柔軟性:Flexibility」の確保と拡充の研究と実践が急速に進んでいる。
解決は、多様な「柔軟性」の確保
日本では、この再エネの課題ばかりがことさらに強調され、莫大な蓄電池導入で電気代が跳ね上がるとか、火力発電はなくせないなどの結論に結び付けられることも珍しくない。
柔軟性は、確かに日本で今ひとつ聞きなれない言葉である。
しかし、以前から使われている揚水発電や、ここ最近導入の検討が各地で行われている系統用蓄電池、また、一定割合の小売電気事業者が進めるDR(デマンドリスポンス)も柔軟性のひとつであり、実は、日本でもじわじわと浸透してきている。
柔軟性については、また別の機会にまとめて説明するが、この他にも、EVの蓄電池としての利用やグリーン水素による貯蔵と発電、ヒートポンプの普及と利用などがあり、「暗い凪」を取り上げた欧米の記事の中でも数多く例示されている。
特徴的なのは、デジタル技術やITを使い、再エネを拡大する方向で柔軟性が語られることである。今回のドイツでの「暗い凪」対策は、化石燃料による火力発電所に頼っているが、これは柔軟性が十分拡大するまでの過渡期という位置づけである。天候に左右される再エネ⇒火力発電の温存、ばかり目立つ日本の考え方は、「思考停止」と言わざるを得ない。
この原稿を執筆中にちょうどアゼルバイジャンで開かれているCOP29では、初めて柔軟性の飛躍的な向上が約束された。下図にあるように、今回のCOPは、クリーンな柔軟性の会議The Clean Flexibility COPと銘打たれたのである。
COP29で約束された3つの「柔軟性」 出典:Ember
このコラムでも何度も資料などを使っている、イギリスのシンクタンクEmberがCOP29での柔軟性に関する会議を主宰し、IEA(国際エネルギー機関)やBNEF(ブルームバーグNew Energy Finance)などがスピーカーとして参加した。
新しい柔軟性の約束を確認しておく。
1.世界の蓄電池の容量を、2030年までに現在の8倍、1,500GW
2.世界の系統線を2030年までに2,500万km、2040年までにさらに6,500万km追加
3.世界の水素製造のための電解装置の容量を現在の100倍
再エネ主力化とは、再エネ拡大のための柔軟性確保を伴って初めて達成される。
自然現象である「暗い凪」を克服するために必要な柔軟性は、脱炭素実現のための最適ツール、再エネを普及させる切り札である。
プロフィール
エネルギージャーナリスト
日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表
埼玉大学社会変革研究センター・脱炭素推進部門 客員教授
北村和也
エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ