放射冷却素材『SPACECOOL』で問題解決 熱トラブル停止「ゼロ」を達成した方法を初公開
2025/01/31
「夏=猛暑」というのが日本の常識になりつつある。最高気温が高く、しかも期間も長くなっている。 太陽光発電所のメンテナンス業者や所有者にとって暑さ対策が欠かせない今、ある素材が熱い視線を浴びている。 放射冷却現象を利用した新冷却システムを紹介する。
暑さでブレーカー遮断
一刻も早い対策が有効
熱で出力が落ちるのは太陽光パネルだけではない。例えば、半導体製品であるパワーコンディショナは熱に弱く、内部機器の温度上昇を抑制するために出力抑制機能などの保護装置が作動することもある。温暖化、そして猛暑が進む近年は「熱対策」に手を焼いている事業者も多いが、いち早く手を打った大和エネルギーの対策を紹介する。
2012年から太陽光発電事業に参入した大和エネルギーは国内に166カ所の発電所を有し、合計発電システム容量は313MWを誇る(2025年1月1日現在)。事業計画立案、用地確保から資金調達、建設、稼働後の運営管理、メンテナンスまで、すべてをワンストップで行える強みを活かして順調に規模を拡大しているが、機器の中には経年劣化で不具合を起こしたり、熱対策を要したりするものが散見されるようになってきた。
『DREAM Solar 三重桑名』の集電箱内部は70度~80度に達した。
2019年5月に稼働した『DREAM Solar 三重桑名』(発電システム容量:2268kW)の集電箱も熱対策が必要とされていた。倉庫の上にある駐車場に併設された太陽光発電所だったため、日差しを遮るような物は皆無。しかも集電箱は完全密閉であるため、外気温の上昇によって内部の温度もみるみる上昇し、ブレーカー遮断による発電停止が発生した。盤内サーモラベルによると、内部は70度〜80度に達していた。
効果的な対策の探求
貼るだけの手を知る
対策として、遮熱シートを貼る、ファンを設置する、ブレーカーを変更するというものをまずは考えた。が、遮熱シートは安くすむが効果のほどに疑問が残り、他の2つに関してはコストと工期がネックとなった。思案に暮れる中、太陽光エネルギーを95%反射し、熱を受け取っても物体を高い放射冷却性能で冷やす『SPACECOOL』というシートの存在を販売代理店である住電商事から聞き、2024年6月に実物を視察。「SPACECOOLのないところは熱くて触り続けられないような状況なのに、SPACECOOLの貼ってある場所は熱くない」と大和エネルギー株式会社電力事業部事業管理グループの上山さんは優れた性能を実感。貼るだけという手軽さもいい。6月27日には集電箱に実装した。
「実は半信半疑でした」と笑いながら上山さんは振り返るが、「長時間、日光を浴びていれば熱がやはりこもるのでは?」と考え、半分の集電箱には意図的にSPACECOOLを貼らないことで比較実験を実施した。
SPACECOOLの概要
分電盤での実証実験
SPACECOOLを施工した分電盤は、遮熱塗料や遮光板といった従来の暑熱対策法を施工したものと比較すると、盤内の温度が約10℃低下したことを実証実験で確認。
SPACECOOL導入で
発電機会損失を回避
SPACECOOLの効果は明白だった。全面的にSPACECOOLを導入することにした。以降、ブレーカー遮断がなくなり、正常に発電できている。1日あたり平均650kWhの発電機会損失を回避できたと試算し、ひと夏の稼働でSPACECOOL導入の費用は償却できた。SPACECOOLはランニングコストにおいても優れている。ファンを回すためにエネルギー消費を増やすことなく持続的な熱対策ができる。
集電箱のリカバリーに手応えを得た大和エネルギーは、パワーコンディショナやキュービクルにもSPACECOOLを貼り付け、熱による損失をさらに低減していく予定だ。同じような悩みを抱える事業者には、温暖化によって高温注意情報が発せられる時期が年々早まっていること、そしてスムーズな工事を考慮して年始には動き始めることを勧める。
また、セントラル型のパワーコンディショナに対してSPACECOOLはより効果を発揮するだろうと予測し、さらなる展開も描く。自社サイトで効果を確かめたからこそ、外部O&Mサイトにも自信を持って提案でき、クライアントに寄り添ったサービスを提供できるのは大和エネルギーの強みだろう。
SPACECOOLのここがスゴイ!
分電盤での実導入例
大阪府内の複合商業施設屋上に、SPACECOOLを施工した分電盤(写真右)と未施工のもの(写真左)を設置した事例。サーモカメラで撮影すると表面温度差が一目瞭然だ。
SPACECOOLは、自然界の放射冷却現象(*1)を技術化した、“放射冷却素材”と呼ばれる新素材。既存の冷却システムとは異なり、直射日光の下でもゼロエネルギー(=電力を使わない)で冷却できることが特長である。冷却できる理由は、独自の光学設計によって構成された多層構造のシートにある。この多層構造により、太陽光からの入熱を95%以上ブロックすることだけでなく、SPACECOOLに伝わった熱を『大気の窓(*2)』の波長域の赤外線に変換し、宇宙空間へ95%以上放射することを可能にした。導入方法は非常に簡易。新設・既設を問わず、屋外機器や建物の屋上などの表面に貼るだけである。設備の改修やリプレイスなどを行わずに即時導入できるため、毎夏の猛暑傾向が終わらない今、屋外ファシリティの暑熱対策やエネルギー効率改善策として注目されている。
(*1)地表面からの熱が赤外線に変換され、宇宙空間へ放出されることで冷える自然現象のこと。
(*2) 大気には、光をよく通す(透過率が高い)波長と光をよく吸収する(透過率が低い)波長が存在する。光エネルギーの形で熱を宇宙空間に輸送するには大気の透過率が高い波長が優れており、特に透過性が高い波長8-13μmの波長範囲を『大気の窓』と呼ぶ。
問い合わせ
SPACECOOL株式会社
東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー 4階 ARCH内
https://spacecool.jp/contact/
※SPACECOOLは登録商標です。
取材・文:井上直孝