系統用蓄電池の導入拡大が進む システム価格は前年比 約2割減
2025/09/02

経済産業省の定置用蓄電システム普及拡大検討会が3月14日、検討結果をとりまとめた。国内では系統用蓄電池の導入拡大が進んでいて、2024年度のシステム価格は、kWhあたり5.4万円と前年度より2割近く下落している。
蓄電システム価格は
資源価格で大きく変動
日本国内の蓄電システムの導入量(出典 経済産業省)
定置用蓄電システム普及拡大検討会は、脱炭素社会に向けたエネルギー政策の一環として、定置用蓄電システムの普及と拡大に向けた課題を議論している。3月14日に公表した2024年度の検討結果によると、国内の蓄電システムの導入は年々拡大しており、2023年度に全体で1万MWhを超えた。このうち系統用蓄電システムは、2000MWh以上に達している。系統用蓄電池の価格水準は、24年度はシステム価格がkWhあたり5.4万円、工事費は同1.4万円で、前年度と比較してやや低下した。リチウムイオン電池の原料となる炭酸リチウム価格が22年に急騰し、23年上半期をピークとして急速に下落しており、この価格変動がシステム価格の低下に影響しているとみられている。ただ、システム全体のコストはまだ22年度の水準まで下がっていない。
補助金事業による系統用蓄電システムの価格推移(出典 三菱総合研究所)
炭酸リチウム価格の推移(出典 三菱総合研究所)
容量区分で見ると、システム価格は50MWh以上でkWhあたり4.9万円と最も安くなり、低容量では高くなっている。工事費でも同様の傾向だ。一方、補助金を使わない海外製蓄電システムを採用した案件では、同2~4万円というコスト水準のものもみられる。国内メーカーと海外メーカーの価格差は大きく、為替の影響を差し引いても海外メーカーの競争力が高い状況が続いている。また、海外ではトーリング契約などの長期相対契約や、蓄電システム入札案件もあることから、保証条件は海外メーカーの方が優れているケースが少なくない。
市場の予見が難しく
収益性は想定により大幅な違い
系統用蓄電システムの収益性評価結果(建設費 (CAPEX):6万円/kWh)出典:三菱総合研究所
系統用蓄電システムの収益構造の分析によると、システムの建設費はkWhあたり6万円、容量市場収入はkWあたり0.83万円/年となっている。参照基準間で一定と想定すると、総費用に占める建設費、運転維持費の割合が高いことから、蓄電システム事業では建設費、運転維持費を削減することが重要だとしている。また、総収益に占める卸市場からの収益にはシナリオ間で大きな差がある。各市場を予見することは難しく、将来の想定収益は想定方法により大きな幅があるという指摘もあった。なおダウンサイドは過去5年間で最も値差が小さいJEPXの19年度の卸価格実績値を参照。ベースは過去5年間の卸価格実績値が周期的に20年間続くと想定。アップサイドは過去5年間で最も値差が大きい22年度の卸価格実績値を参照している。
PV併設蓄電システムのコストに応じた20年間の収益性評価の比較(九州エリア) 出典:経済産業省
検討会では、基準価格15円/kWhの太陽光発電と併設した蓄電システムを、九州エリアで20年間運用した場合の事業収益性を評価した。その結果、システム価格が6万円kWh以下であれば一定の収益性が見込めるが、8万円kWh以上では収益性が見込めないとしている。ただこれは現在の市場環境を基にした評価のため、将来の収益見通しを予測する場合は、今後の市場見通しを作成したうえで評価する必要があると説明している。
安全性、系統連携長期化
事業の予見性に課題
系統用蓄電池の普及拡大のためには、火災発生リスク、安定稼働、サイバー攻撃、資源供給の不確実性への対応といった「安全・持続性の確保」や、「系統連携手続きや工事の長期化への対処」、そして費用や収益の予見性などの「事業収益性の確保」が必要であり、これらの課題の解消に向けた取り組みを進める必要があるとしている。
具体的な対策案として、火災発生リスクについては、火災事例の公表とともに国の導入支援事業や長期脱炭素オークションでの安全性確保を要件とすることを示した。運用・保守面のリスクは業界団体で協議し、サイバーセキュリティについてはガイドラインを見直していく。
資源調達の不確実性では、資源国との連携強化を図るとともに、国内製造基盤の強化やリサイクル・リユース活用を進める。系統連携手続きでは、関係機関による必要な公開情報を精査し、系統接続工事については、次世代電力系統ワーキンググループで議論している。ワーキンググループでは、順潮流側の接続ルールのあり方の検討や、特定断面での充電制限への同意などを前提に、系統増強をせずに接続を認める早期連携追加対策を協議している。
系統接続費用の見通しが立てにくい問題に対しては、供給余力マップなどの公開情報の有効活用に加え、政府、関係機関による、電圧対策が必要となるエリアに関する情報や、系統接続費用などの情報公開を検討する。設備投資の不確実性に関しては、政府の導入支援事業の継続と、国内製造基盤強化による蓄電システム価格の低減を図る。蓄電システムによる混雑緩和や再エネ出力抑制緩和などの価値が評価されていないことについては、混雑回避する蓄電システムの費用便益評価と関連システムの技術開発を進めるとともにFIP制度上の取り扱いを検討していく。市場の予見性については、事業者による市場制度の理解の醸成と、政府による応札行動の蓄積を通じた市場状況などの理解促進を図っていくとしている。
DATA
2024年度 定置用蓄電システム普及拡大検討会 結果とりまとめ
取材・文/宗 敦司
9月12日(金)に開催する「第35回PVビジネスセミナー」では、自然エネルギー財団 主席研究員の工藤美香氏が「系統用蓄電池事業の現状と課題」について解説します。
「第7次エネルギー基本計画」では、太陽光発電と蓄電池の導入拡大を進めるなか、供給側の変動に応じて電気需要の最適化を図る必要性が高まっています。今回のセミナーでは、国の政策動向とともに、産業用の自家消費やPPA、系統用蓄電池の最新の動き、国内外で開発された最新テクノロジーなどを紹介します。