北海道釧路市「ノーモア メガソーラー宣言」 10kW以上の事業用太陽光発電を許可制へ
2025/06/24

北海道釧路市の鶴間秀典市長は、6月1日付けで「ノーモア メガソーラー宣言」を公表した。同月19日には、10kW以上の事業用太陽光発電設備を許可制とする条例案を市議会民生福祉常任委員会に示した。来年1月1日の条例施行を目指す。
メイン画像:「ノーモア メガソーラー宣言」を説明する釧路市の鶴間秀典市長(出典 釧路市)
市内に20カ所の
大規模太陽光発電設備
釧路市の釧路湿原はラムサール条約に指定され、豊かな生態系を育む自然環境は、多くの生物だけでなく人々もひきつける重要な観光資源であり、広大なCO2吸収源でもある。しかし近年、この湿原の周辺で大規模太陽光発電設備(メガソーラー)の設置が相次いでいる。釧路市によると、2023年7月に「釧路市自然と共生する太陽光発電施設の設置に関するガイドライン」を施行したあと、届け出があった太陽光発電設備は25施設で、市内における1MWを超えるメガソーラーは20施設ある。
なかでも国立公園区域の外側にある湿原地帯で、メガソーラーの開発が目立っており、各方面から問題視する声が上がっている。こうした状況から、釧路市が「ノーモア メガソーラー宣言」を行うことになった。23年8月に福島市が「ノーモア メガソーラー宣言」を行っており、釧路市の宣言はこれに続いて全国で2例目となる。
ノーモア メガソーラー宣言(出典 釧路市)
この宣言は、太陽光発電設備の建設による貴重な野生動植物の生育・生息地が脅かされる事態が懸念されるとしたうえで「貴重な財産であり誇りでもある雄大で豊かな自然環境を守っていくため、自然環境と調和が成されない太陽光発電施設の設置を望まないことをここに宣言します」という内容だ。
地域と共生する
再エネを積極的に推進
釧路市の鶴間市長は会見で「事業者には、釧路市の貴重な財産であり欠かすことのできない自然環境や、希少な動植物の重要性をご理解いただき、設置場所の堰堤や自然環境への影響を考え、慎重に検討をお願いしたい」と述べた。
一方、今回の宣言では「釧路市ゼロカーボンシティ宣言」に掲げる2050年の温室効果ガス排出量実質ゼロを目指し、徹底した省エネルギー・省資源化に取り組むとともに、次世代技術も導入しながら、釧路市の実情に応じて、「地域と共生する再生可能エネルギー事業を積極的に進めていく」と明記している。
同市は24年度に、再生可能エネルギー導入のロードマップとなる「釧路市再生可能エネルギー基本戦略」を策定している。市内の再エネポテンシャルを可視化し、各ステークホルダーと連携したプロジェクト推進と、自然環境との共生を考慮したゾーニングを進めるとしており、27年度までのゾーニングマップ公表を目指している。これにより再エネ促進エリアで、地域に裨益する事業を促進していく考えだ。
事業用太陽光を許可制に
条例案を議会に提出
釧路市は6月19日、10kW以上の事業用太陽光発電設備の設置を許可制とする条例案を市議会民生福祉常任委員会に示した。条例案では、タンチョウやオジロワシなどの希少な野生生物5種を「特定保全種」に指定している。希少な野生生物の生息に重大な影響を及ぼすおそれがある場合は、太陽光発電設備の設置を許可しない方針だ。事業者には、野生生物の調査や保全対策を義務付ける。市は9月定例市議会に条例案を提出し、来年1月1日の施行を目指す。
隣接する釧路町では
国立公園にメガソーラー
大林クリーンエナジーの釧路町トリトウシ原野太陽光発電所(出典 大林組)
釧路市に隣接する釧路町では17年に大林組グループの大林クリーンエナジーが釧路湿原国立公園内にメガソーラー発電の運転を開始しているが、大きな環境問題には至っていない。同社では自然環境に配慮した工法を採用したほか、景観への影響を考えた植樹や自然環境への影響調査も実施している。
メガソーラーによる環境問題は全国各地で報告されており、再生可能エネルギーへの反発を強めることにつながっている。このままでは同様の宣言が他の自治体に波及することも考えられる。
ただ自治体側も一律に再エネを排除したいわけではない。今後は再エネ事業者がより環境に配慮した工法の採用や、自然環境調査の実施、地域とのコミュニケーションを密に進めていくことで、地元理解を得つつ秩序ある開発を進めていく必要性が高まっている。
DATA
取材・文/宗 敦司
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