現場が語るエネマネの実像──「見える化」と「自動制御」で電気代を大幅削減
2025/06/30

来る7月16日(水)、東京都環境公社(クール・ネット東京)による「TOKYOエネマネセミナー」が開催される。セミナーに先立ち、エネルギーマネジメントシステムの導入支援を手がける事業者の声を通じて、導入のプロセスや効果、東京都の支援制度との関わりをひも解く。
1.共通する課題は「電気代を何とかしたい」
2.エネマネ導入は「属人的な運用」からの脱却
3.事例①_AIの「自動制御」でコストカット──衣料品チェーンが年間6,000万円の電気代削減に成功
4.事例②_「見える化」により生産工程を改善──自動車部品工場によるコスト最適化の試み
5.東京都の補助金で費用対効果がさらにアップ
共通する課題は「電気代を何とかしたい」
話を聞いたのは、エネルギーマネジメント(エネマネ)の専門事業者として長年現場に携わってきたパルコスモ株式会社 東京支店 支店長の三原一成氏。
「弊社にご相談いただくお客様は、スーパーやホームセンターほか商業施設から、介護施設や病院、工場、オフィスまで多岐にわたります。なかでも電気使用量の多い企業にとって、エネマネは年々切実な問題になってきています」(三原氏)。
電気代の高騰は、店舗や施設運営者が抱える共通の悩み。空調や照明などを対象とした“人による節電”には限界があり、「エネルギーコストを削減したいが方法がわからない」という声が後を絶たないという。そうした企業の悩みに対し、同社が提案しているのが、エネルギー使用状況の“見える化”と“自動制御”を組み合わせたエネマネシステムだ。
■代表的なエネマネシステム
提供:パルコスモ株式会社
エネマネ導入は「属人的な運用」からの脱却
電気代の削減を考える企業の多くは、まず照明をLEDに替え、空調設備を省電力・高効率なものに交換するなどの“設備更新”を検討する。しかし、多額の初期投資を要するため、空調の更新まで進めない企業は少なくない。あわせて、一般に重視されるのが“運用改善”だが、人の手による節電には限界がある。
「例えば、空調をこまめに調整するよう呼びかけても、属人的な運用では効果も曖昧で、徹底されにくい」と三原氏は指摘する。加えて、そうした節電活動がどれほど効果を上げているかを把握する術もないため、継続的な取り組みにつながりにくいという課題が残る。
そのため、属人的な運用に依存せず、明確な数値データに基づく“見える化”と、設備側で自動的に制御を行う“自動制御”が注目されるようになった。「弊社が提供しているシステムでは、例えば温湿度センサーをエリアごとに設置し、体感温度を基準に空調の運転をリアルタイムで自動制御するほか、ピーク時の電力使用を抑えるデマンドのコントロールも可能です」と三原氏。こうした仕組みが、企業の省エネ活動を属人性から解放し、持続可能な運用へと導いていく。
事例①_AIの「自動制御」でコストカット
──衣料品チェーンが年間6,000万円の電気代削減に成功
関東を中心に衣料品量販店を展開するA社では、これまでに約60店舗で、パルコスモのエネマネシステムを導入している。最初の導入は10年以上前、2店舗からのスタートだったが、2019年に再度提案を受けたことを機に、大規模な展開がスタートした。
A社が抱えていた課題は、やはり「電気代の削減」。すでにLED化や設備更新も進められていたが、空調が電力使用量の50~60%を占める同社には、まだまだ改善の余地があった。そこでパルコスモが提案したのが、AI技術を活用し、温湿度センサーと連動して空調を自動で最適制御する仕組みだった。体感温度をベースに、リアルタイムで空調運転を最適化。温度フィードバック制御機能により、“冷えすぎ”や“暖めすぎ”を自動検知して制御する。さらに、AIが空調制御の対象(どのエリア・どの設定を調整すべきか)をリアルタイムで判断し、効率的に制御することで省エネを実現。エリアごとに複数のセンサーを設置することで、快適性を損なうことなく、空調の過剰運転を抑制する自動制御システムが構築された。
■自動制御システムの設置イメージ(一例)
提供:パルコスモ株式会社
加えて、店舗全体の使用電力の波を平準化し、電力基本料金の引き下げを可能にするピーク電力制御機能も装備。システムの運用を最適化し、使用電力量全体を抑制する自動制御の一部として機能している。
A社では、空調の自動制御によるエネマネを実施したことで、1店舗あたり年間約10%(約100万円)の電気代削減に成功。60店舗で年間約6,000万円の削減効果を上げている。なお、同システムの導入コストは1店舗あたり200~250万円ほどであり、3年以内に償却可能であるという。さらに、東京都の補助金を活用することで、実質負担を抑え、償却期間を2年未満に短縮できるケースも出てきているとのこと。
事例②_「見える化」により生産工程を改善
──自動車部品工場によるコスト最適化の試み
三原氏がもう1つの事例として紹介してくれたのが、自動車用部品を中心に金属熱処理加工を行うB社の工場。エネルギー消費が多岐にわたる製造現場において、「どの設備がどれだけ電力を使っているのか、正確に把握できない」という課題を抱えていたという。
工場は事務所棟と製造棟に分かれており、空調の使用は主に事務所に限られていたため、空調制御による費用対効果は薄く、まずは“見える化”に特化したエネマネシステムを導入した。「設備ごとの電力量を可視化することで、ピークカットや生産工程の改善につながりました。まずは“現状把握”から始める。これも立派なエネマネの入り口です」(三原氏)。
B社のケースでは、製造ラインごとに電力モニターを設置し、設備単位での使用電力量を1分ごとに計測。照明・空調・動力系設備などを分離して監視できる構成とした。これにより、ピークの時間帯、稼働パターンの傾向などを「可視化」し、負荷の集中によるデマンドの跳ね上がりを抑制する施策の検討が可能となった。
■設備ごとの使用電力量をリアルタイム可視化(WEB画面の一例)
提供:パルコスモ株式会社
導入から約2年が経過し、現在は、収集したデータを活用して操業スケジュールや設備運用の見直しを行っている段階。デマンドの平準化による契約電力の引き下げや、設備ごとの更新計画に反映することで、徐々にコスト最適化が進んでいるという。
「工場においては、業務内容や設備が多様であるため、まず“見える化”が最適なアプローチです。どこにエネルギーが集中しているのか、事実ベースで把握しない限り、合理的な運用改善はできません」と三原氏は強調する。そしてB社は、見える化の成果を踏まえ、次のステップとして、特定の機器群への自動制御の導入を検討する。
東京都の補助金で費用対効果がさらにアップ
エネマネシステム導入にあたっては、電気代の削減効果が明確であっても、初期費用の壁が心理的・実務的ハードルとなることが少なくない。こうした導入コストの負担を大きく軽減する施策として注目されているのが、東京都の「需給最適化に向けたエネルギーマネジメント推進事業」だ。
この補助制度は、エネルギーの“見える化”や“最適制御”などに取り組む企業に対し、費用の1/2から2/3まで補助するもので、対象設備や事業の区分に応じて複数の申請枠が用意されている。詳細については、ぜひ、7月16日(水)に開催される「TOKYOエネマネセミナー」を確認してほしい。
パルコスモ東京支店の三原氏も、「補助金の有無で企業の導入判断は大きく変わります。実際、昨年度は都の補助金を活用して導入を後押しできたケースが増え、より高度なエネルギーマネジメントにも取り組みやすくなりました」と語っている。
エネマネシステムの導入は決して難しいものではなく、そのメリットは大きい。実際に導入した企業からは、「もっと早く取り組んでおけば良かった」という声が多く聞こえてくる。だが一方で、導入までに考えるべきことも少なくない。
今夏の「TOKYOエネマネセミナー」では、導入プロセスや補助金制度についても、さらに詳しい情報が得られるはずだ。ぜひ、この機会にエネルギーマネジメントへの理解を深め、システム導入のきっかけにしていただきたい。
取材協力会社
パルコスモ株式会社
東京支店 支店長
三原一成氏
取材・文・写真:廣町公則
エネマネの基礎知識&東京都の補助金を学ぼう!
7月16日(水)、東京都の補助金を扱う《クール・ネット東京》による需要家・再エネ企業に向けたエネルギーマネジメントセミナーを開催。脱炭素・EMS導入の秘訣や注目のアグリゲーションビジネスなど、EMS・ERABの最新事情と“東京都の補助金”を併せて学べる《TOKYO エネマネセミナー2025》に乞うご期待!
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