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太陽光パネルリサイクル法案、国会提出見送りの背景 有価物回収と用途開発の進展に期待

太陽光パネルの大量廃棄が予想される2030年後半に向け、政府はリサイクルを義務付ける法整備を検討していたが、浅尾慶一郎環境相は8月29日、検討してきたリサイクル制度の義務化を断念すると発表した。隘路に迷い込んだ太陽光パネルリサイクルに打開策はあるのか。

<目次>
1.リサイクル費用負担の見直しを検討する方針
2.ガラス含有成分と処分費用が大きな課題
3.ガラスtoガラスへの取り組み 有価物回収の技術開発で費用低減

 

リサイクル費用負担の
見直しを検討する方針


2030年後半には太陽光パネルの大量廃棄が予想される

環境省と経済産業省は、今年5月に太陽光パネルリサイクル法案の国会提出を見送る方針を明らかにしている。最大の理由は、リサイクルの費用負担を製造業者と輸入業者に課す制度にしていたことだった。内閣法制局は、ほかの製品のリサイクル関連法制では所有者の負担としていることとの整合性が取れないと判断したとしている。浅尾慶一郎環境相は「太陽光パネルの埋め立て処分とリサイクル費用の差額が現状では大きいなかで、自動車や家電などのほかの製品と異なり、太陽光パネルのみ製造業者などに差額を負担させてリサイクルを義務化することについて、現時点では合理的な説明が困難だ」と話した。また武藤容治経済産業相は「太陽光パネルの適正な廃棄・リサイクルは、地域との共生における重要な課題」と述べており、政府は、環境省と経済産業省が引き続き連携して、費用負担のあり方などを検討する方針を示している。

 

 

ガラス含有成分と
処分費用が大きな課題


太陽光パネルの高度なリサイクルフロー(出典 経済産業省)

太陽光パネルのリサイクル義務化には、現実的な問題がある。最大の課題は、再利用先の確保だ。有価金属は回収できれば販売が可能である。しかし、ガラスは太陽光パネルの廃棄量の約6割を占めるにも関わらず再利用が難しい。日本全国に設置されている太陽光発電パネルの多くは中国製だが、そのなかにはヒ素やアンチモンといった有害物質が含まれているケースもある。特にヒ素を含んだガラスは全く再利用できず、アンチモンを含むガラスもリサイクルは住宅用断熱材などに限られるとされており、ガラスの用途開発は大きな課題となっている。またパネルのバックシートには銀が含まれており、リサイクルは簡単ではない。

これに加えてリサイクル費用の問題も指摘されている。今年3月の国の発表によると、パネル1kWあたりの埋め立て費用の中央値は2100円。これに対してリサイクルでは8000~1万2000円と、4~6倍もの費用がかかる。このため、法律で義務化をしなければリサイクルは進まない。一方この価格差のまま性急に義務化をしてしまうと不法投棄が横行し、かえって環境への影響が深刻化してしまうことが懸念される。

ガラスtoガラスへの取り組み
有価物回収の技術開発で費用低減


使用済太陽光パネル資源循環推進・北海道コンソーシアムのスキーム(出典 北海道電力)

そうしたなか、太陽光パネルの高度リサイクルに向けた取り組みを進めている地域がある。北海道では今年4月、「使用済太陽光パネル資源循環推進・北海道コンソーシアム」が設立された。北海道電力や産業廃棄物処理業者、発電事業者、ガラスメーカーなど21の事業者・機関が参加している。北海道内の使用済み太陽光パネルの資源循環に向けて基礎的情報の収集や、収集運搬・保管場所確保の調査・検討、啓発・広報活動を展開していく。

また太陽光パネルリサイクルの最大の課題であるガラスリサイクルでも、新たな取り組みが始まった。大手ガラスメーカーの「AGC」は、板ガラスの量産工程で使用済み太陽光パネルのカバーガラスを使用した実績を持つ。またガラス大手の「セントラル硝子」は今年6月、使用済み太陽光パネルの「ガラスtoガラス」リサイクルに取り組み始めた。

しかし、ガラスtoガラスリサイクルを実現するためには、ガラス成分のムラが少ないことや、ガラス成分に関する情報公開およびその信頼性、また特に太陽光パネルの場合は、パネルを構成するほかの部材の材料の付着による残渣が可能な限り少ないことが条件だ。

ところが、太陽光パネルガラスの場合は良質でないガラスの割合が大きく、大量のパネルをガラスtoガラスにリサイクルできる状態にはなっていない。


浜田の太陽光パネルリサイクル事業(出典 浜田)

そこで、廃ガラスリサイクルを研究・調査する業界団体の「ガラス再資源化協議会」は、再利用先をガラスだけでなくセラミックスまで幅を広げて資源循環を考えている。また舗装に使われるコンクリートブロックや、コンクリートおよびモルタルの骨材なども太陽光パネルのカバーガラスの再利用先として注目し、用途開発を進めている。

さらに、最近注目されているのが銀の回収である。太陽光パネルのバックシートに含まれる銀を回収し販売することで、高額なリサイクル費用を引き下げられる可能性があるという。金属リサイクル事業会社の「浜田」は、ホットナイフでガラスから分離したバックシートから銀の回収を行っている。太陽光パネルリサイクル事業を展開する「Power eee」でも銀回収の独自技術の確立を目指している。

再利用先の確保や有価物回収が可能になれば、リサイクル費用は低減されていくはずだ。太陽光パネルの大量廃棄が予想される30年代後半には、有価物回収の技術や用途開発がさらに進むことが期待される。太陽光パネルリサイクルの義務化に向けて、当面は太陽光パネルの資源循環を促進する支援制度の拡充を図っていく必要がある。

DATA

経済産業省 太陽光発電設備リサイクルワーキンググループ

取材・文/宗 敦司

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