政策・制度

同時市場のあり方に関する検討会 2030年代前半実現に向け5段階の工程を提示

経済産業省の有識者会議が同時市場の第2次中間取りまとめを公表した。2030年代前半の導入に向けて、SCUC・SCED(系統制約を考慮した最適化技術)の実現可能性を確認し、詳細設計から市場開設までの5段階の工程を提示した。

<目次>
1.供給力と調整力を 同時に取引する市場制度
2.2030年代前半の実現に向けて 具体的な道筋を示す
3.北米実績の日本適用を検証 入札制度も策定
4.第2フェーズで 同時市場の可否を最終判断

供給力と調整力を
同時に取引する市場制度

図1 電力市場を取り巻く課題(出典 経済産業省)

同時市場は、現状の需給調整取引における課題の解決や、将来の変動性再生可能エネルギー(VRE)の大量導入に対応可能な市場制度として検討されている。必要な供給力(kWh)と調整力(ΔkW)を同時に取引する市場のことである。「ΔkW」は実需給時点で時間帯ごとに必要な電源の能力を予め確保しておくことで、「デルタキロワット」と読む。

経産省と電力広域的運営推進機関(OCCTO)は、昨年9月まで12回にわたって「同時市場の在り方等に関する検討会」で議論を重ね、同年11月に第1次中間とりまとめを公表した。そのなかでは同時市場の基本要素として、①kWhとΔkWを同時取引して約定する「同時約定」、②発電事業者の同時市場への入札義務、③電源の入札は「Three-Part Offer」を登録することで適正化、④約定電源と出力量はThree-Part 情報に基づき、系統制約など(SCUC・SCED)を考慮して決定、⑤発電バランシンググループ(BG)が自ら電源起動・出力量を確定させる入札方法も選択可能とする、⑥kWh価格は同時最適結果のシャドウプライス(需給均衡点における限界費用)とし、起動費などの回収不足が生じる場合には個別の支払いにより請求漏れを防止する、⑦時間前同時市場を導入し、前日市場から実需給までの間にSCUCを繰り返して行い、発電・需要BGによる取引を可能とすると規定。これにより、売り入札不足を原因とする価格高騰の防止や、変動性再エネ電源の増加に対応するための十分な調整力の確保などの効果が期待されるほか、ThreeーPart Offerによって、運転費用面で最も経済的な電源態勢を取ることが可能となる。同時市場は、電力と調整力を同時に取引・約定させることでこれらの課題を解決する仕組みだ 。

※SCUC・SCEDとは、Security Constrained Unit Commitment(系統制約付き起動停止計画)・Security Constrained Economic Dispatch(系統制約付き出力配分)。送電線容量制約などを考慮して発電費用が最小となる電源の組み合わせと出力量を決定する最適化技術

 

 

2030年代前半の実現に向けて
具体的な道筋を示す

有識者会議は今年2月に議論を再開し、10月15日に第2次中間取りまとめを公表した。そのなかでは、2030年代前半の実現に向けての具体的な道筋を示している。同時市場導入の背景には、20年度冬期の電力需給ひっ迫や価格高騰で顕在化した構造的課題がある 。現在は電力(kWh)が卸電力取引所、調整力(ΔkW)が需給調整市場で別々に取引されるため、市場間で供給力の取り合いが生じうる状況にある。また、火力発電の起動費を市場価格に適切に織り込むことが困難で、売りブロック入札の約定率 は、多くの期間で数パーセントにとどまっており、効率的な約定の観点から課題がある。

太陽光発電や風力発電などの変動性再生可能エネルギーの大量導入により、2034年度の調整力必要量は、24年度よりも19~29パーセント増える見込みだ。 そのため30年度には、26~28の基幹系統で混雑発生の可能性が示されており 、同時市場による全体最適化の必要性が高まっている。

北米実績の日本適用を検証
入札制度も策定

SCUC・SCEDによる約定処理は、北米の電力市場などで広く採用され、実績がある技術である。電力中央研究所が30年頃の想定データで検証した結果、目標とする最適化計算の精度は低かったものの、年間を通して実行可能解を現実的な時間内に得られることを確認し(図2)、日本の電力システムでの適用可能性を示した。

図2 需給バランス検証の結果(出典 経済産業省)

なお制度設計では、発電事業者が発電余力の全量について売り入札を行うことが求められる。一方で事業者の裁量を確保するため、自己計画電源として、自ら電源起動を確定させる入札方法を任意に選択できる。 ただし、系統の需給バランス維持や送電容量制約などの観点から、再エネ出力制御や下げ調整力不足に至りうる状況となった場合は、自己計画電源も公平に制約に従うことが必要だとしている。

価格算定では、電力価格を電源態勢のシャドウプライス(系統全体で1kWhを追加で出力したときの価格)として算定し 、調整力価格は調整力を確保するため発電余力を設けたことによる逸失利益(電力市場から得られなかった利益)に基づいて算出する 。市場価格では回収しきれない起動費などはアップリフトとして個別補償し、その規模は電力の年間取引総額の1.8%と試算している。

第2フェーズで
同時市場の可否を最終判断

図3 同時市場導入までのロードマップ(出典 経済産業省)

同時市場の実現に向けての工程は、5段階で構成される 。現在は第1フェーズ「市場制度の詳細設計」で、このあと第2フェーズ「システム開発要求定義・運営主体検討」、第3フェーズ「最終判断・システム開発」、第4フェーズ「運営準備」、第5「市場開設」の順で進める(図3)。

第2フェーズにおいては、システム開発の要求定義を実施し、想定される市場運営主体やシステム開発主体の参画を得ながら検討を行う。それらの作業を通じ、日本国内において同時市場が実現可能であると判断された場合には、同時市場の導入を最終決定する。

今後、有識者会議で検討を要する主な事項として、これまでの実現可能性に関する技術的な検討に加え、入札義務・情報提供義務の詳細、市場約定結果と電源態勢の関係、アップリフト、揚水発電・DER(分散型エネルギー源)の取り扱い、取引規律・監視を挙げている 。同時市場の導入は日本の電力取引制度を根本から変革する取り組みであり、第2フェーズでの検討結果が実現に向けての重要な分岐点となる。

DATA

同時市場の在り方等に関する検討会 第2次中間取りまとめ

取材・文/森 英信

 

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