政策・制度

経産省、再エネ電源取引の拡大へ 非化石価値市場の下限価格引き上げを検討

再生可能エネルギーの導入を進めるにあたって、政府は将来的にすべての電源をFITからFIPに移行させる方向だ。そのためには再エネ価値が適切に評価されて取引されることが重要で、経済産業省の有識者会議で非化石価値取引市場の下限価格引き上げを検討している。

<目次>
1.非化石価値取引が 下限価格に張り付く
2.下限価格の引き上げと 制度見直しを検討
3.需給バランスを 引き下げる方策を早急に検討

非化石価値取引が
下限価格に張り付く

非化石証書と非化石価値取引市場の種類(出典 経済産業省)

非化石価値取引市場における上下限価格の推移(出典 経済産業省)

非化石価値取引市場(非化石証書制度)は2017年に創設された。非化石電源の価値を取引できるようにすることで、30年に小売電気事業者の非化石電源調達44%の目標達成を目指している。その後、非化石証書を直接購入したい、または国際的に認められた証書を安く調達したいといった需要家の要望を受けて、21年11月に再エネ価値取引市場(FIT証書)が開設された。これに合わせて下限価格は1.3円/kWhから0.4円/kWhに大幅に引き下げられた。またすべての証書が全量トラッキング化されるようになっている。ちなみに現在の下限価格は0.6円/kWh(非FIT証書)だ。

再エネ価値取引市場の状況(出典 経済産業省)

しかし、この2つの取引市場はともに、多くの入札で売入札量が買入札量を上回り、約定価格が下限値(FIT証書0.4円/kWh、非FIT証書0.6円/kWh)に張り付いている。これがPPAの相対契約で非化石価値取引市場の約定価格の「価格指標」として参照されている。

このため新規の再エネを増やす効果(追加性)のないFIT証書の環境価値が、追加性のある再エネ電源の環境価値を押し下げるという悪循環に陥っている。PPAによる再エネ電源取引を拡大していくためには、「追加性」を正当に評価した環境価値価格の重要性が指摘されている。

 

 

下限価格の引き上げと 
制度見直しを検討


 

高度化法義務達成市場の状況(出典 経済産業省)

経産省の再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会では、具体的な課題として、約定価格が下限価格に張り付いていることのほか、需要家が中長期のPPAを締結するインセンティブが阻害されていることが指摘されていた。

9月30日の小委員会では、再エネ価値取引市場では下限価格についてPPAマーケットへの負の影響や、FIT証書が再エネ賦課金に支えられたもので証書収入は賦課金の低減に充てられていることから、価格水準の引き上げを検討することにした。また上限価格についてもFIT証書市場が自主的な調達に基づくマーケットであることから、その是非について早急に検討する方針が示された。

需給バランスを 
引き下げる方策を早急に検討

一方、高度化法義務達成市場(非FIT証書・再エネ指定)でも約定価格が下限価格に張り付くケースが多く、これは政府が決定する需給バランスに左右される。市場価格は、小売電気事業者の目標達成のための需要と、非FIT非化石証書の供給量のバランスによって決まる。そのため、供給が需要を上回ると価格が下がり、下限価格で売れ残りが生じる可能性が高まる。またPPAを締結できないFIP電源は、売れ残りが生じると控除分の収入確保が困難になるとの指摘がある。そこで市場における証書の売れ残りを可能な限り減らすため、需給バランスをさらに引き下げるなどの方策について早急に検討する方針だ。

また中長期的な検討課題として、FIT制度から自立した形での再エネ電源への新規投資・再投資の促進につながる制度が必要だとしている。その観点から、投資促進効果に応じて証書の価値を差別化することや、需要家の環境価値へのニーズの実態とその目的意識などを踏まえた制度設計について、国内外の事業環境などの変化の動向(GX-ETS、RE100、時間的価値・場所的価値など)も踏まえて議論が行われることが望ましいという方向性を示している。

DATA

総合エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第76回)


取材・文/宗 敦司

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