【北村和也さんコラム】さよなら化石燃料、エレクトロテック革命の主役は太陽光発電
2025/11/13
2025年、世界の太陽光発電は各地で強く拡大を続けている。一方、脱炭素の流れに反する石炭など化石燃料の利用は確実に縮小に向かい始めた。ロンドンを本拠とする世界的シンクタンクは、このエネルギーなどの技術転換を「エレクトロテック革命」と名付け、産業革命から6段階目の重要な技術シフトとしている。
第6の波
エレクトロテック革命とは
今回のコラムでは、エレクトロテック革命とその主役である太陽エネルギーの利用について解説したい。

図1 「第1の波」産業革命に始まる重要な技術転換の歴史
出典:Ember、The Electrotech Revolution(一部、筆者加筆)
英国のシンクタンクEmberは、人類が化石資源を燃やす段階から、生み出した技術を活用する段階へ移行しつつあるとしている。具体的には、産業革命からの希少な化石燃料を狩り取ること、つまり地球の資源を消費するだけの仕組みからの決別を意味する。
代わりに登場したのが、太陽を耕し、利用するエレクトロテック革命である。尽きることのない太陽エネルギーの利用で、単に気候対策に終わらないエネルギー革命だと強調している。図1では、第1の技術シフトの波、産業革命からの歴史の流れを示している。その後、蒸気利用(第2の波)、鉄と電気(第3の波)、大量生産の自動車と安価な石油(第4の波)、デジタル化(第5の波)と続き、現在の第6の波につながっている。
そこでは、エレクトロテック革命のキーワードとして、「再生可能エネルギー」、「電化」、「AI」が挙げられている。これは、電気革命であり、電子革命でもある。現代の人類は、どう電子を生み出し、利用、接続するかという技術を、革新的に転換させている。
基本となる電力供給では、太陽光発電と風力発電の支配が進み、EVとヒートポンプ、AI技術で交通や熱部門などの主要な利用先をカバーする。さらに、蓄電池とデジタル技術を使って、需給を飛躍的に効率化するシステムも出来上がりつつある。
すべてで化石燃料を上回る
エレクトロテック革命
具体的なメリットを見てみよう。例えば、化石燃料を燃やして発電する場合、3分の2のエネルギーが熱として失われるが、再エネでは効率が3倍もよい。エレクトロテックでは規模拡大がコストダウンにつながるが、化石燃料は掘れば掘るほど高くつく。
また、国の経済で見ると、世界の国の4分の3が化石燃料を輸入に頼っている。特に、日本の輸入割合は世界最悪レベルである。一方、世界の9割を越える国が需要の10倍を越える再エネのポテンシャルを有しているのである。

図2 世界の電源別の導入容量の推移
出典:Ember、The Electrotech Revolution
エレクトロテック革命を支える最大のツールは、太陽光発電である。風力発電と併せてVRE(変動性再エネ電源)と言うが、風は、降り注ぐ太陽エネルギーによる空気の温度差で生まれるもので、ルーツは太陽にある。さらに、近年世界各地で導入が進み、図2のグラフでわかるように、ついに電源別の施設容量で石炭を抜いて1位となった。
化石燃料を輸入し続けるデメリット
価格と安全保障

図3 輸入パネルによる太陽光発電と輸入天然ガスによる火力発電の比較
出典:Ember
別の角度から、太陽光発電と天然ガス発電を比較する。自国でパネルなどを製造する設備がなく、天然ガスも産出しない国を想定する。図3の左、太陽光発電ではパネルの輸入コストが1回発生するが、その後30年間は燃料コストなしで発電をし続ける。逆に、右の天然ガス施設では、建設コストを費やしたうえ、毎年、燃料の天然ガスを輸入し続ける必要がある。
シンクタンクの概算であるが、PVパネル1GW分の輸入分支払いは1回のみで1億ドルとされている。これで1TWhの電力を毎年生み出すことができる。一方、同じだけの電力を生み出すためには、天然ガスは毎年1億ドルずつ輸入が必要である。いまや太陽光発電のコストは大きく下がって、天然ガス発電を下回り、太陽光発電は安さで勝つ。
もう一つ、エネルギー安全保障を考えてみる。太陽光は、PVパネルを輸入するという点で相手国があり、輸入できないリスクや価格変動のリスクが発生する。ただし、30年に1回である。また、おわかりのように、パネルを自国で作ればそのリスクもなくなる。
一方、天然ガスの輸入は毎年で、リスクは途切れない。最近の“反中国パネル”言説でもリスクとして語られるが、化石燃料のリスクはずっと続くことを忘れてはならない。
エレクトロテック革命は、輸入に頼らないエネルギー革命もあり、このように国家的なリスクヘッジにもつながる側面を持っている。そして、今や私たちはこの技術シフトによる恩恵を受け始めているのである。いつまでも旧態依然とした“エネルギー神話”などにとらわれることなく、考え方も含めて新しい段階に適応することが、山積する課題解決の第一歩なのかもしれない。
プロフィール
エネルギージャーナリスト
日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表
埼玉大学社会変革研究センター・脱炭素推進部門 客員教授
北村和也
エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ
地域活性エネルギーリンク協議会
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