シリーズ「太陽光義務化元年」国内2例目の太陽光義務化、川崎市の条例可決 2025年度施行
2023/03/17
家庭の温室効果ガス排出の抑制を図るため、川崎市が一戸建て住宅を含む新築建築物に太陽光パネルの設置を原則義務化する条例改正案が、3月17日の市議会本会議で可決された。2年間の準備、周知期間を経て、東京都と同時期の2025年4月に施行される。
新築建築物の
約6割が対象に
地球温暖化対策推進条例の改正に向けた重要施策の考え方(出典 川崎市役所)
太陽光パネルの設置をめぐっては、東京都で昨年12月に全国で初めて一戸建て住宅を設置義務化の対象とする改正条例が成立した。国内2例目となる川崎市の新しい制度は、のべ床面積200㎡以上上の事業所などを新築または増築する場合、その事業所を保有する建築主などにパネル設置の義務を課す。200㎡㎡未満の建築物を新たに建てる場合、1年間に5000平方メートル以上の総床面積を供給しているハウスメーカーに設置義務を課す。義務化の対象から外れた新築と増築の建築物についても、設計士から太陽光パネルについて説明することを義務づける。いずれも罰則規定はない。
新築住宅のなかには、日当たりが悪い場所や太陽光パネルを設置しにくい狭小な物件もあることから、全戸対象としない方針。2020年度の実績をもとに試算すると、市内の年間の新築建築物約4300件のうち約6割が義務化の対象になる。建築士の説明義務については設置義務に先行して2024年度の開始を目指す。
来年度事業で
地域エネルギー会社を設立
川崎市議会は3月17日、一戸建て住宅を含む新築建築物に太陽光パネルの設置を原則義務化する条例改正案を賛成多数で可決した。関連予算を盛り込んだ2023年度当初予算案も可決、成立した。関連予算には、太陽光発電設備導入に関する情報発信や事業者向け研修などに1280万1000円、地域エネルギープラットフォームを担う「地域エネルギー会社」の設立に6813万1000円、脱炭素先行地域の選定に伴う民生部門の電力消費に関するCO2排出量実質ゼロの実現などに向けた取り組み支援に12億6368万10000円、電気事業者の普及促進に対応するための共同住宅へのEV用充電設備の設置支援に141万1000円が盛り込まれている。
温室効果ガス排出量が
政令市でワースト
川崎市地球温暖化対策推進基本計画の概要(出典 川崎市役所)
川崎市は2050年のカーボンニュートラルを実現するため、2030年度までに温室効果ガス排出量を2013年度に比べて50パーセント削減する目標を掲げている。この目標を実現するため、2030年度までに再生可能エネルギーを2030年度までに33万キロワット以上導入する方針。(2020年度実績20万キロワット)
地球温暖化対策推進条例の改正に向けた重要施策の考え方(出典 川崎市役所)
川崎市は京浜工業地帯の中央部にあるため、2019年度の温室効果ガス排出量(暫定値)が2,139万t-CO2と、全国の政令指定都市のなかでワースト1となっている。このうち、産業部門の排出量は1283 t-CO2と全体の6割近くを占めるのに対して、家庭からの排出量は177 t-CO2と全体の8パーセント程度にすぎない。しかし、人口が多く新増築の建築物の約8割を一戸建て住宅が占める市の特徴を踏まえ、都市部でも導入しやすい太陽光発電の普及によって、温室効果ガス排出量の削減と合わせてエネルギーの地産地消を目指すことにした。
太陽光発電システムの支出と収入(出典 川崎市)
市の試算によると、太陽光発電設備を一般住宅に設置する場合、発電容量が4キロワットの初期費用は約114万円、2キロワットの初期費用は約72万円。30年間設置して売電すると、4kWの設備は約133万円、2kWの場合は約38万円の収支差額が出るとしている。現行の制度では、設備を導入する際に1キロワットあたり2万円、上限10万円を交付する市独自の補助制度がある。リースやPPAなどを活用して、初期費用を抑える方法もある。
川崎市は2022年11月に条例改正の素案をつくり、パブリックコメントを募集した。その結果、1864件の意見が寄せられ、地球温暖化などへの配慮から賛同する意見が半数を超えた。その一方で、災害時の水没や火災などによる感電リスクを指摘する内容の意見が145件あった。太陽光パネルの設置費用や維持費用、廃棄費用の負担を心配する声も58件あった。福田紀彦市長は「義務化という形をより効率的に効果的に発現させていくという意味では、川崎市の特徴に合った何らかの支援制度を考えていく必要がある。今後しっかりとみなさまのヒアリングなどを行いながら検討していきたい」と話している。
DATA
川崎市地球温暖化対策の推進に関する条例の改正に向けた重要施策の考え方
取材・文/高橋健一