エネ基2040ビジョン、具体化へ① PV業界の明日がわかる最新政策パッケージ
2025/09/04

太陽光発電が日本のエネルギー戦略の主役へと移行する中、制度改革・支援・規律強化の動きが加速している。本稿では、「エネルギー基本計画」と「GX2040ビジョン」に基づく各省庁の最新施策を整理する。
1.主力電源化に追い風
2.再エネ導入拡大への課題
3.経済産業省の最新施策
主力電源化に追い風
2025年2月に閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」と、その具現化に向けた「GX2040ビジョン」は、日本のエネルギー政策の未来を大きく左右する重要な指針だ。日本は、「エネルギーの安定供給」「経済成長」「脱炭素社会」の同時実現を目指す。
再生可能エネルギーについては、「主力電源化」を徹底し、2040年度のエネルギーミックスにおいて再エネ比率を40~50%とする方針だ。とりわけ太陽光発電は重視されており、現状(約10%)の2倍以上に相当する23~29%という目標が掲げられている。
一方で、再エネの導入拡大にあたっては、以下の5つの主要な課題が認識されており、これらへの対応が不可欠とされる。
再エネ導入拡大への課題
1. 地域との共生
傾斜地への設置など安全面の懸念が増大。説明不足などによる地域トラブルも発生している。地域との共生に向けた事業規律の強化が必要である。
2. 国民負担の抑制
FIT制度による固定価格買取により国民負担が増加している。FIP制度や入札制度の活用などによる、さらなるコスト低減が求められる。
3. 出力変動への対応
全国規模で出力抑制も発生している。気象条件による再エネの出力変動時への対応が重要。地域間連系線の整備や蓄電池の普及拡大が求められる。
4. イノベーションの加速とサプライチェーン構築
新たな適地の確保、原材料や設備機器の海外依存からの脱却、大量生産実現に向けたサプライチェーン構築が課題。ペロブスカイト太陽電池や浮体式洋上風力、次世代型地熱などの社会実装を加速させる必要がある。
5. 使用済み太陽光パネルへの対応
2040年代に想定される使用済みパネル発生量ピークへの計画的な対応が必要。適切な廃棄・リサイクルが実施される制度整備が求められる。
ここからは、太陽光発電に関する施策に絞って、今後、経済産業省が進めていく取り組みを紹介する。
経済産業省の最新施策
FIP制度の推進と電力市場統合
固定価格買取のFIT制度から、市場メカニズムを活かしたFIP制度への移行を加速させることで、再エネの電力市場への統合を促進。これを速やかに実現するために、次の施策を実施する。
1.優先給電における出力制御順の見直し
(FIP電源の出力制御は、FIT電源の後になる)
2.事業環境整備のさらなる推進
①FIP制度におけるさらなる情報開示の推進
②FIP併設蓄電池における系統放電の拡大
③FIP移行案件における事後的な蓄電池設置時の価格算定ルール
④供給シフトの円滑化(バランシングコスト)
⑤非化石証書の直接取引の拡大
3.アグリゲーション・ビジネスの活性化
①アグリゲーターとFIP事業者のマッチング・プラットフォームの設立
②関連プレーヤーの理解醸成などを促進する勉強会の開催
③FIP電源の需給調整に資する系統用蓄電池の導入促進
出典:経済産業省
ペロブスカイト太陽電池の早期社会実装
2040年までにペロブスカイト太陽電池を約20GW導入。官民が連携し、世界に引けを取らない規模とスピードで、「量産技術の確立」「生産体制整備」「需要創出」を三位一体で進めていく。GI基金を活用し、2025年20円/kWh、2030年14円/kWhが可能となる技術を確立。2040年に自立化可能な発電コスト10円~14円/kWh以下の水準を目指す。
既存シリコン太陽電池のリプレース需要を視野に入れ、タンデム型の開発を加速。フィルム型は、製造からリサイクルまでのライフサイクル全体での付加価値を競争力につなげる。
工場などの事業者に屋根設置太陽光の導入目標策定を義務化
年間エネルギー使用量が原油換算で1500㎘以上の事業者(省エネ法における特定事業者=約12,000社)に対し、2026年4月より、工場など建屋への太陽光発電設備の設置目標の策定を義務化。それを記した中長期計画書の提出を求める。これにより、産業・業務部門における屋根設置太陽光の導入加速化を図る。
長期安定適格太陽光発電事業者への事業集約
再エネの長期安定電源化に向けて、“適切な再投資などを行いながら、次世代にわたって自立的な形で、太陽光発電を社会に定着させる役割を担うことのできる責任ある太陽光発電事業者”を、「長期安定適格太陽光発電事業者(適格事業者)」として経済産業省が認定する制度が2025年4月よりスタートしている。
適格事業者には、多極分散構造にある太陽光発電を集約し、集約した事業を効率的に運用していくことが期待されている。今後、集約化や効率的運用を促進するための施策を講じていく。
使用済み太陽光パネルのリサイクル促進
2040年代に想定される使用済太陽光パネルの排出量ピークに計画的に対応するため、パネル含有物質の情報提供を認定基準に追加するなどの対応を実施。使用済み太陽光パネルの大量廃棄を見据え、リユース・リサイクル・廃棄処分が徹底して行われるよう、「義務的リサイクル」を含めた制度の見直しを実施する。
リサイクル技術の開発を着実に進めていくとともに、費用効率的なリサイクル技術の実装や、再生材の利用拡大により、社会全体のリサイクルコストを下げていくことが必要。2025年4月時点で、分離処理コストの低減(2029年度に2,000円/kW以下)を目指した技術開発の公募を実施中。(環境省と連携)
出典:経済産業省
分散型電源のサイバーセキュリティ対策
太陽光発電設備のPCSについて、サイバーセキュリティ対策として、IoT製品のセキュリティ機能を評価・可視化する「セキュリティ要件適合評価およびラベリング制度」(情報処理推進機構)の活用を検討する。なお、関連する取り組みとして、分散型電源を管理するアグリゲーターが行うセキュリティ対策の強化として、2025年5月に「ERABサイバーセキュリティガイドライン」の改定が行われている。
認定取消など不適切案件への措置を厳格化
2024年度には、事業規律違反や関係法令違反が疑われる案件1300件に対して現地調査を実施。そのうち、約1000件に行政指導などが行われた。今後、現地調査などを通じて違反の実態が確認された場合には、保安監督部、関係省庁、自治体と情報を共有するとともに、改正再エネ特措法(2024年4月施行)に基づく指導・FIT/FIP交付金の一時停止・認定取り消しなどの措置を厳格に講じていく。
取材・文/廣町公則
SOLAR JOURNAL vol.54(2025年夏号)より転載
9月12日(金)に開催する「第35回PVビジネスセミナー」では、千葉県柏市 経営戦略課の政策担当者が「EMSを活用した環境未来都市が目指すもの」というテーマで、先進的な街づくりの取り組みを紹介します。
「第7次エネルギー基本計画」では、太陽光発電と蓄電池の導入拡大を進めるなか、供給側の変動に応じて電気需要の最適化を図る必要性が高まっています。今回のセミナーでは、国の政策動向とともに、産業用の自家消費やPPA、系統用蓄電池の最新の動き、国内外で開発された最新テクノロジーなどを紹介します。