政策・制度

家庭用蓄電池の新基準「DRready(ディーアールレディ)要件」が明らかに!

家庭用蓄電池はもはや自家消費や停電対策だけの機器ではない。資源エネルギー庁が示した「DRready要件」は、通信・制御・セキュリティの3機能を標準化し、市場参加の扉を開く。事業者にとっては新たな競争条件であり、ビジネスモデル変革の起点となる。

 

<目次>
1.家庭用蓄電池のDRready要件 資源エネルギー庁が示す
2.DRready要件のポイント
3.ビジネスへの影響と展望

 

家庭用蓄電池のDRready要件
資源エネルギー庁が示す

太陽光発電や風力発電など変動性再エネの大量導入に向けて、電力システムのあり方に根本的な見直しが迫られている。その中で、需要側リソースを活用して電力の需給バランスを調整する仕組み「デマンドレスポンス(DR)」が、電力の安定供給における重要なピースとして注目されている。

需要を抑える、あるいは需要を創出することで、供給側の発電調整やバックアップ電源に頼る必要性が減少する。それは系統運用コストを抑え、消費者にとっても電気料金を削減できるなど経済的メリットが大きい。

ただ、需要側リソースを多数設置すればいいというものではなく、実際にDRを可能とする通信・制御・信頼性・安全性といった要件を備えていることが必要となる。これが、「DRready(ディーアールレディ)」という概念だ。ここでは、「将来的なDR活用に耐える状態で製品・設備(需要側リソース)が設計・実装されていること」が求められる。

資源エネルギー庁は、こうしたDRreadyの要件を整理するため、昨年度から「DRready勉強会」を開催しており、各需要側リソースについて検討を重ねてきた。そして8月28日、勉強会の最大のテーマでもある「家庭用蓄電池のDRready要件(事務局案)」が示された。要件は「通信接続機能」「外部制御機能」「セキュリティ」の3項目で構成されている。業界・事業者にとって、今後の製品設計・制度対応における重要な指針となるものだ。

本稿では、事務局(資源エネルギー庁)が明らかにした家庭用蓄電池のDRready要件(案)を整理するとともに、事業者にとっての課題と展望を俯瞰する。

 

 

DRready要件のポイント


出典:資源エネルギー庁

●通信接続機能
通信接続機能は、家庭用蓄電池がDRに参加するための最も基礎的な要件だ。その要件は、「機器が家庭内ゲートウェイ(GW)と通信できること」と「DRサービサーサーバと構造化されたデータ形式を用いて通信できること」の2点に整理される(上図)。前者は、蓄電池と家庭内の制御ハブ(HEMS GW等)が確実に接続され、データや制御指令をやり取りできる状態を保証することを意味する。後者は、DRサービサー(アグリゲーター等)との間でJSONやXMLなど標準化されたデータ形式を用い、相互運用可能な形で通信できることを求めるものである。

この要件は「どちらか一方」ではなく「両方」を満たす必要がある。すなわち、家庭内の物理的な接続性と、外部サーバとの論理的な標準化通信の双方が確立していなければならない。いずれかが欠ければ、DR指令を正しく受信・実行できず、DRreadyの資格を失う。

●外部制御機能
外部制御機能の要件は「指令を受け取る」だけではなく、「計測・判断・実行・復帰」の一連のプロセスを網羅している点に注意が必要だ。とりわけ、バックアップ用残量の確保はユーザーの安心感に直結するため、DR応答とユーザー設定をどう両立させるかが重要となる。

また、受信から実行までの応答時間が30分以内と定められており、実装にはシステム遅延や通信環境のばらつきを考慮した設計が不可欠となる。さらに、個体識別情報を活用した制御にはセキュリティ確保が必須であり、識別情報の取り扱いには厳格な保護策を講じる必要がある。

●セキュリティ
セキュリティ要件は、単に機能を備えることではなく、一定の水準を評価・認証された形で満たすことが求められている。ラベリング制度の導入により、機器の安全性を可視化する仕組みが整えられる見込みであり、事業者は認証取得を前提とした設計が必要になる。

特にメーカーサーバーと機器間の通信は、攻撃対象となりやすい箇所である。通信先制限や暗号化、認証の徹底が不可欠であり、脆弱性発見時にアップデート可能な設計が望まれる。今後JC-STAR★2への要件引き上げがなされれば、セキュリティレベルの一層の強化が求められることになる。

ビジネスへの影響と展望

家庭用蓄電池のDRready要件は、事業者に多方面の対応を迫る。通信や制御、セキュリティ機能を実装するには、通信モジュールや制御ロジックの高度化、計測・送信機能の精度向上が不可欠となる。また、ユーザーの快適性やバックアップ需要を尊重しつつ、DR指令に的確に応じる調整機能を組み込むことは技術的にも運用的にも大きな課題だ。さらに、メーカーごとの仕様が乱立し、相互運用性の欠如が市場拡大の障害にならないよう、標準化への取り組みを加速させていかなければならない。

一方で、要件の策定と制度への組み込みは、補助金や認証制度を通じて市場に強い普及圧力を生む。このDRready要件は、今後、各種補助金の申請条件になるとともに、2026年度から家庭用蓄電池等の小規模リソースが需給調整市場に参入可能になることに伴い、その参入条件にもなってくる見通しだ。

要件を満たす蓄電池は、単なる自家消費装置やバックアップ電源を超え、エネルギーシステム全体を変革する標準化への第一歩と位置づけられる。


取材・文:廣町公則

SOLAR JOURNAL 住宅特別号(2025年秋)より転載

 

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