電力市場はマーケットとして機能不全に。原因は今なお残る旧一電の支配
2022/08/29
電力市場の価格が高騰し、先行きへの不信感が蔓延している。この要因はどこにあるのだろうか。マーケットの問題もあるのだろうか。環境エネルギー政策研究所 所長の飯田哲也氏が語る。
混迷を極める電力市場
根底に虚構の発送電分離
電力市場の価格が高騰し、先行きへの不信感が蔓延しています。この原因を一言で表すと、現在の電力市場が名ばかりでマーケットとして機能不全であるためです。東京電力福島第一原発事故の後、電力システム改革が大きなアジェンダになり、2016年に小売全面自由化、2020年春には発送電分離が完了しました。この間、規制する側がされる側旧一般電気事業者=(旧一電)に取り込まれる「規制の虜」状態はそのままでした。国会事故調元委員長である黒川清氏が指摘したものです。その結果、旧一電にとって非常に都合のよい「見せかけ」の電力市場が、巧妙に組み立てられました。ここが問題の本質です。
しかし、政府は表面を取り繕うだけで、この「本質」には切り込めていません。外側に目を移すと、欧州の経済回復で化石資源が高騰していたところに、ロシアによるウクライナ侵略が始まり、大変厳しい状況です。政府が根本の原因にメスを入れない限り打開することはできませんが、政府の対応からは核心に迫る気配すらなく、今はまったく改善の見通しが立たない状態です。
電力市場が機能していない主因の1つは、旧一電が発電・小売の取引量の8割を握っていることです。その根底には、見せかけの発送電分離があります。日本には、海外のように独立したTSO(送電系統運用者)がおらず、それに支えられた公平中立な電力市場もありません。あろうことか、送配電部門が発電・小売部門の子会社や同じ持株会社で、経営上では一体です。実質的には、人的関係、情報、会計の面で緊密なままなのです。これが、根本的かつ構造的な諸悪の根源です。
このアンフェアな状況が、市場価格をも釣り上げています。旧一電の発電・小売部門間の電力取引は、まるで右手から左手へ持ち替えるだけの無意味な取引だといいます。日本卸電力取引所に放出されるのは、買い戻しや他の旧一電への取引量を差し引いた残りだけ。発電量の1割程度に過ぎません。新電力がアクセスできるのは、いわばトリクルダウンの「残り物」であり、必要量が常に不足しているのです。そのため、太陽光発電があふれる日中を除けば、春や秋、朝夕でも市場価格が上限価格に張り付くほど高騰しています。
現実味のかけらもない戦略
創意工夫で時代のその先へ
クリーンエネルギー戦略の中間整理は、空疎な大言壮語です。前述の構造的な問題に加え、現在、太陽光・風力発電の拡大を滞らせている細々とした課題の認識と方向性、解決に向けたリアリティがまるでありません。例えばドイツでは、1990年代の再エネ比率はわずか4%でした。しかし、固定価格買取制度などの政策で、2020年には目標の2倍超の44%にまで伸びたのです。デンマークは同期間に2%から80%です。一方で、日本はこの調子では、2030年の再エネ比率36%〜38%という目標にさえ届かず、虚しさすら感じます。
太陽光発電事業者が今、PPAやそれに蓄電池を組み込むなど、自立したビジネスモデルを追求していることは、正しい方向性だと思います。太陽光や蓄電池のコストは急激に下落しつつあり、十年後には、現在の数分の1程度になるでしょう。現時点では、制約の大きい補助金を活用しなければならない大変な状況ではありますが、その狭い道をかいくぐりながら、混迷の時代の先を見据えて、それぞれ創意工夫をしてほしいと思います。
参考:総発電量に占める再生可能エネルギーの割合
出典:Danish Energy Agency、AGEB、資源エネルギー庁資料より筆者作成。2025年以降は予測値
PROFILE
認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP) 所長
飯田哲也氏
自然エネルギー政策の革新と実践で国際的な第一人者。持続可能なエネルギー政策の実現を目的とする、政府や産業界から独立した非営利の環境エネルギー政策研究所所長。
Twitter:@iidatetsunari
SOLAR JOURNAL vol.42(2022年夏号)より転載