再エネ拡大にインパクトを与えるか、“地域主導プロジェクト”の高い価値
2022/09/17
脱炭素は、宣言から確実な実施が求められる時代に移った。前回のコラムでは、再エネ拡大に好影響が期待される地方金融機関による再エネ発電会社の設立を取り上げた。政府の脱炭素ロードマップや脱炭素先行地域の要件などで繰り返される“地域主導の脱炭素”は、決して単なるお題目ではなく、確実で現実的なソリューションとして、今後、さらに注目されることになる。今回のコラムでは、地銀の発電事業のフォローに加えて、他の実例として相模原市でのバイオガスプロジェクトを紹介したい。
地銀の
発電事業参入のインパクト
前回、紹介した山陰合同銀行の発電子会社「ごうぎんエナジー」について、同行の山崎頭取が日経新聞のインタビューに応じている。
山崎氏は、山陰(島根、鳥取)の40自治体と再エネ発電について協議を行ったと明かした。反応は良好ということで、脱炭素先行地域に連携して応募したいという声も複数上がっているという。
総投資額を100億円上限で考えていることも示し、「山陰地方を再エネ発電の先進地」にしたいと地域主導の意気込みを語っている。地銀の一歩進んだ動きは、地域に対してすでによい影響を及ぼし始めている。
同時期に発表のあった茨城の常陽銀行、長野の八十二銀行に続いて、8月下旬には群馬銀行が、PPAやソーラーシェアリングを行うための事業会社「かんとうYAWARAGIエネルギー」を足利市に立ち上げた。地銀では銀行法改正に伴う4つ目の発電事業会社である。このケースでは、地元の再エネ施工業者などとの共同出資という特徴があり、リリースにPPA(オンサイト、オフサイト)のスキーム図も添えられている“実務型”である。
(「かんとうYAWARAGIエネルギー㈱」のPPA事業 出典:㈱サンヴィレッジ)
地域の再エネ事業の実現のネックの一つはファイナンスである。地銀の発電への直接参画は、今後の各地域での再エネ開発に大きなプラスのインパクトを与える可能性がある。
神奈川県相模原市に見る
再エネプロジェクト
地域主導の動きは、さらに活発になっている。横浜市、川崎市という100万都市を抱える神奈川県の3番目の70万都市、相模原市でも、新しい再エネのプロジェクトが誕生している。食品廃棄物を利用した湿式発酵方式によるバイオガス発電プラントで、仕様は以下のとおりである。
仕様:
処理量:約50トン/1日
発酵方式:湿式中温発酵
発電出力:487kW
総事業費:12億9,000万円
事業主体は、SPC(特別目的会社)の「さがみはらバイオガスパワー㈱」である。
(「さがみはらバイオガスパワー 田名発電所」スキーム図 出典:ジャパンインベストメントアドバイザー)
発電の方式や燃料調達は確かに都会ならではで、比較的小さな自治体ではこの量の食品廃棄物は集めることができないであろう。すでに着工していて、来年2023年の3月に完工、10月には発電が開始される予定となっている。
地域主導、貢献型の
再エネ事業のモデルに
重要な特徴は、地域主体の座組みにある。さがみはらバイオマスパワーの中心となるのは、相模原市に本社のある、地元の食品廃棄物処理会社の日本フードエコロジーセンターである。廃棄物のうち飼料化できず処理しきれなかった廃棄物を“燃料”に利用するのが、基本的な流れである。また、施設の建設に当たっては、地元の建設会社などが前面に立っている。
総事業費13億円弱に対するファイナンスにも地域の光が当たる。有力な神奈川県の地銀である横浜銀行が「SDGsグリーンローン」による11億円近い融資をシンジケートローンで組んでいる。
注目すべきは資本構成で、日本フードエコロジーセンター(下図で黄色)はもちろん、環境省の脱炭素ファンドである、「グリーンファイナンス推進機構」が1億円弱の出資で参加している(下図の緑色の「機構」で表示)。
(事業での役割とファイナンス 出典:グリーンファイナンス推進機構)
グリーンファイナンス推進機構は、事業の意義と評価として、以下を挙げる。つまり、資本参加する理由をリスト化している。
◇脱炭素実現への寄与
・環境負荷の少ない循環型社会の構築への貢献
・温室効果ガス削減への寄与
◇地域活性化の効果
・土木・建設工事における地元企業の活用
・プラント運営に係る新規雇用の創出や人材育成
・地域金融機関等による融資の実施
脱炭素+地域経済循環効果の組み合わせは、脱炭素ロードマップが目的とするのそのものである。まさしく、地方主導のプロジェクトとして、国、環境省のお墨付きを得た。
仕上げとなる
相模原市との連携
地元の相模原市とは、災害時の協力でつながっている。この6月に締結された「災害時における電力供給の覚書」では、災害時において、このバイオガス発電施設から市及び市民に電力を無償で供給するとされている。
具体的には、プラントに設置される電気自動車の充電設備を市が無償で使用し、公用車を充電すること、さがみはらバイオガスパワー所有のEVを市が無償で使用し、避難所等において、市民に電力供給をすること、が挙げられている。
(「災害時の覚書」の締結 出典:相模原市)
発電量などアウトプットが同じであっても、SPCの構成、事業を動かすメンバー、ファイナンスの出どころなど仕様が違えば、違うプロジェクトになり得る。地域資源である再エネの利活用を飛躍的に拡大するためには、地域主導の旗をさらに大きく振る必要がある。
プロフィール
エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。
北村和也
エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ