最後の選定が終わった『脱炭素先行地域』の行く先
2026/03/27
2022年春の第一回選定で始まった環境省の温暖化防止に向けた目玉施策、『脱炭素先行地域』の第七回、最後の結果が発表された。 今回の12提案で選定は計102となり、目標とされた100を形の上で一応クリアした。鳴り物入りのスタートに比べややひっそりした終幕である。脱炭素先行地域の総括と今後の地域脱炭素の展開についてまとめてみたい。
最後の選定の特徴と苦しい内情
なかなか選定結果が出ない、との関係者の声の中、総選挙後を待っていたかのように2月13日に発表がなされた。
脱炭素先行地域選定結果(第7回) 出典:脱炭素地域づくり支援サイト
12選定に対して応募は18と過去二番目の少なさで、選定率が過去最高だったと評価委員会は、総評でコメントしている。理由は、提案の水準が底上げされ、選定につながる提案が増えたこと、とある。また、これまで選定の無い“空白7都県”のうち、東京都と佐賀県を除いて選定を受けたことも、成果とされた。
ただし、実情はなかなか厳しい。
背景は、選定された先行地域の実施状況が思うように進んでいないことにある。例えば、再エネ交付金など予算消化が2割程度の低率との情報も聞かれる。予算の元締め、財務省が怒っているという話は何度も聞いた。後述するが、脱炭素先行地域の後継を目指していた制度も無くなった。
環境省が必ず達成するとしていた“100超えの先行地域”であるが、選定数は102とはいえ、姫路市や松本市など3つの地域が辞退しているので、実質は99選定と100を切ってしまった。
個人的な感想になるが、特徴的なのは、県庁所在地が4つ選ばれてすべてこれまでの空白県であること。また少し失礼な言い方になるかもしれないが、やや小粒で地味な内容が多いように見える。ただし、これは決して悪いことではなく、辞退した姫路市のように大型の提案がとん挫するリスクを避け、実現可能なプランを優先したとも考えられる。
また、応募減少の裏では、事前の厳しいチェックが想定される。総評でも繰り返されているように、選定の回数が進むにつれ、地方の環境事務所の伴走(サポート)が強くなり、その努力も加わり応募のクオリティが上がったのであろう。ただ、選定後の伴走にも注力せざるを得ず、環境事務所の業務の大きな部分が先行地域に割かれる実態もあると聞く。
先行地域はなぜうまくいかないのか
ここで、一つはっきりさせておく必要がある。
筆者は、決して反「脱炭素先行地域」ではない。それどころか、先行地域は環境省の大ヒット施策であると確信している。
評価委員会は、選定全体を通じて、「脱炭素と地域課題解決・地方創生を同時に実現するための多様なモデルを示すことができた。」と自画自賛しているが、基本的に同意する。脱炭素と地域活性化を同時に達成するという理念とその実施アイディアについて、全国の地域に真剣に考える機会を与えたのは間違いない。

脱炭素先行地域(第7回)選定の主な事例 出典:出典:脱炭素地域づくり支援サイト
この項目のタイトルに、以前の先行地域に関するコラムの表題と同じものを付けた。
全体コンセプトは間違っていないが実施における柔軟性に欠けていた、というのが、前に書いたように先行地域の“失速”原因の一つであると考える。
具体的には、最初の提案に含まれていない事業は追加できず、一切受け入れられない実態がある。例えばこんなケースがある。提案した再エネ発電事業が避けられない環境変化で成立しなくなった時でも代替案は認められない。理由は、「提案に無い」からである。また、新しい技術などの適用に関するものがある。5年という長い期間の事業が先行地域の特徴であり、利点でもある。しかし、その間に新技術が生まれたり、手法の組み合わせが実現したりしても、それらは同様に認められない。
予算の執行率が低いと非難される一方でこの扱いとは、いかにも『窮屈な管理』である。一時、環境省内でこの枠を超える検討がなされたようだが、結局、消えてしまった。
さらに書いておくが、これらの指摘は、所管官庁の環境省だけに向けたものではない。実は、評価委員会の総括には、今後の取り組みに関してやや“異質な”コメントがある。それは環境省に対する「共通の対応事項」で、まるで叱責にもみえる。
以下は、すべて環境省に対するものである。
・提案自治体に短期間のマイルストーンを定めさせ進捗状況を詳細に把握すること
・提案自治体に、提案内容全体を踏まえ、責任を持って取り組むよう求めること
・資材や工事費高騰など事業性について改めて精査を行うとともに、現実的かつ持続可能な事業運営が確保されるよう検討することも求めること
・提案の先進性モデル性や提案内容の着実な進捗管理が担保されるよう、必要な措置をとること
(加えて)取組の進捗がみられなければ全体の交付金の活用を停止とすること
選定は終了し、今後の焦点はいかに実現するかに移る。確かに、上記はその際の重要ポイントではあるが、なぜか感情的に響く。
執行率の低さへの批判などを考えれば、厳しい言葉の元がどこから発せられているか想像するのはそれほど難しくない。また、実際の選定エリアが100を越えていないことなど、なんとなくすっきりしない結論は、官庁間の力関係の止む負えない結果かもしれない。
リストラ対象として狙われた「地域脱炭素交付金」
ポスト先行地域に関して、ネガティブな動きが事前に政府から発出されていたのである。
前述したように、環境省は脱炭素先行地域の後継として、「地域脱炭素2.0」を昨年から予算要求していた。
結論から言うと、まず、脱炭素先行地域の元となる地域脱炭素交付金が、自民党と維新による連立合意(2025年10月)による施策によって大幅な縮小となった。合意による施策は12あり、その一番目の経済財政関連施策の「高額補助金について総点検を行い、政策効果が低いものは廃止」で見事にやり玉に挙げられ、昨年12月26日に点検結果として、2026年度以降の新規採択の停止が発表された。
コメントでは、「大量採択により後年度負担の増大」とあるが、100という数字も最初から決まっていたはずで、理由になっていない。この3日前にはメガソーラーへの支援終了を含む「メガソーラー対策パッケージ」が閣議決定されている。高市政権による一連の流れがよく見える。
また、補助金などのチェック制度として、政府に「行政改革・効率化推進事務局」が作られた。どこかのある国でEV会社のトップが旗を振ったリストラ推進組織を少し思い出させる。

補助金の点検・見直し 出典:内閣官房租税特別措置・補助金見直し担当室、財務省、総務省
さすがに選定された先行地域への複数年の再エネ交付金は残されたが、それ以外の「重点加速化事業」、「自営線マイクログリッド等」は、2026年度以降は無くなるものとみられる。もちろん、「地域脱炭素2.0」など、入る余地はなかった。
ポスト「脱炭素先行地域」として、何が来るのか?
では、今後地域脱炭素の支援はどうなっていくのであろうか。
ヒントが、これまでも引用した、最後の脱炭素先行地域の評価委員会による総評に見つけることが出来る。総評では、先行地域でモデルが出しつくされたわけではないとしたうえで、新たなモデルの例として、「まちづくりや公共交通、産業立地、DX(AIの活用等)等、幅広い政策領域と連動した取組」の展開に期待を寄せている。
実は、まちづくりや交通などに広げる考え方は、「地域脱炭素2.0」のコンセプトに含まれていた。また、電力の脱炭素化を目指した先行地域の次の姿として必要な目標であり、当然、地域活性化につながるものでもある。環境省としては、これを先行地域の後継制度として、ハード面での支援を目指したもののかなわなかった。
ハードが厳しいとすればソフト面での道筋を、と考えたかどうか、さすがに断言できないが、ある方向性が最終選考で示されている。
それは、都道府県の役割である。
総評では、地域脱炭素を「面的・持続的に展開していくために果たすべき役割は極めて大きい」とし、基礎自治体を支えて牽引していくことに強い期待を表明している。選定の発表説明でも、わざわざ「都道府県が主たる提案者である計画提案は、今回の石川県、大分県を合わせて4件」と付記している。
脱炭素先行地域は、あくまでもモデルとしての位置づけである。
これを、環境省のいう「ドミノ倒し」で津々浦々に広げていかなければならない。脱炭素は、すべての場所で実現しなければ意味がないのである。面としての広がりが必須となる。そのために、市町村レベルだけの力では困難だと、先行地域事業を通じて学んだのかもしれない。
国と市町村の間に立つ都道府県は、例えば「地域共生」の実現施策を決めていくにも適切な規模と思われる。青森県や宮城県での“共生条例”が良い例である。また、「エネルギーの地産地消」の枠としてもわかりやすい。都道府県という目の付け所は一考の価値があると思われる。
実際に地域脱炭素の手伝いをしている筆者の体験として、ここに来て急激に県レベルからのオファーが増えている。確かに、都道府県の中にも様々なレベルがあるため、都道府県の“指導力向上”に対する支援は必要である。
先行地域のようなハード中心のサポートには、限界も見えてきている。地域内の力の結集に向け、地域での新しい目標と工夫が必要な時代に入ったといえる。






