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個人同士の電力取引が普通になる?世界で注目されている最新エネルギー事情

コンシューマー(電力消費者)、プロシューマー(電力生産消費者)に次ぐ新しい概念として出てきた「プロシューマージャー」(電力生産貯蔵消費者)。世界の潮流ではあるが、日本は大きく出遅れている。世界では何が起こっているのか。環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長・飯田哲也氏が紐解く。

電気の生産から貯蔵まで
プロシューマージャーの時代へ

今、オーストラリアのサウスオーストラリア州で、太陽光発電と家庭用リチウムイオン蓄電池を使った画期的なビジネスの計画が進められています。

5kWの太陽光パネルと、電気自動車メーカーの米テスラが開発した家庭用蓄電池「パワーウォール2(容量13.5kWh)を組み合わせたシステムを州が主導して一般家庭に導入。これにより、州政府の試算で導入した家庭の電気代がおよそ30%安くなるといいます。また、家庭で発電された余剰電力を売ります。将来的には5万戸の家庭へのシステム導入を目指しているようです。

このプロジェクトは、多数の小規模な発電所や、電力の需要抑制システムを1つの発電所のようにまとめて制御するバーチャル・パワー・プラント(VPP)を目指しており、「世界最大」とうたわれています。250MWの発電ができるそうで、蓄電池の導入により、天候に左右されがちな太陽光発電による電力供給を、より安定化できるでしょう。



こうしたなか、一般人のエネルギーへの向き合い方として、コンシューマー(電力消費者)、プロシューマー(電力生産消費者)に次ぐ新しい概念として「プロシューマージャー」(電力生産貯蔵消費者)というものが出てきました。

電力バリューチェーンと蓄電池の関係として、これまでは電力会社による発電と送電の間に揚水発電などの大型蓄電池、また送電と配電の間に系統蓄電池がありました。今後はこれが、配電からプロシューマージャーの間に分散型のコミュニティ蓄電池(家庭用や店舗、工場などの蓄電池)が入ります。

一般人レベルで発電して、電力を隣の家庭に配電し、余分な電力は蓄電して災害などに備える。そんな時代が近い将来に訪れるでしょう。実は、このプロシューマージャーという形態は、日本でもわずかながら始まっています。完全オフグリッドを目指して、一軒家に太陽光発電と鉛蓄電池で自家発電だけで生活する人などがそうです。

この電力を隣家に配電できれば、さらにオフグリッド化は進みますが、日本では「電気事業法」という電力独占体制の中で作られたカビくさい法律のせいで、それができません。なぜなら、電気を直接需要家に供給する場合、需要家利益を保護するという観点から、一般電気事業または特定電気事業の許可が必要だからです。また、需要家保護の必要性が弱い場合には、電気事業以外の供給(特定供給)が認められていますが、そちらも原則として経済産業大臣の許可が必要です。一般家庭がそうした許可を得るのは不可能でしょう。

ただし、世界は違います。米ニューヨーク市のブルックリンでは、個人同士の電力取引を可能にした「ブルックリンマイクログリッド」というものがあります。今年2月、この仕組みを生んだLO3 Energyという会社と日本の大手商社の丸紅が、日本国内において電力取引の実証実験を実施すると発表し、期待しています。



このように、世界では大きなエネルギー変革が起こっています。エネルギー地政学の中で、間違いなく勝ち組になるのは中国で、他の国々もいち早く再生可能エネルギーに切り替えたほうが勝ち組になれることが、すでに海外の研究で明らかにされました。

ひるがえって日本では、九州電力が再エネの出力抑制をしたり、すでに経済性、環境面などで劣っている原子力発電所を再稼働させるなど、大きく出遅れています。エネルギー変革をできるだけのインフラはすでに整っています。カビくさい電気事業法を早急に変えたり、再エネ政策をさらに推し進める方向に意識を変えたり、やるべきことはたくさんあります。日本も早くプロシューマージャー時代に向けて備えてほしいと思います。

PROFILE

認定NPO法人 環境エネルギー
政策研究所(ISEP)所長

飯田哲也氏


自然エネルギー政策の革新と実践で国際的な第一人者。持続可能なエネルギー政策の実現を目的とする、政府や産業界から独立した非営利の環境エネルギー政策研究所所長。
Twitter:@iidatetsunari


取材・文/大根田康介

SOLAR JOURNAL vol.29(2019年春号)より転載

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