脱炭素

温暖化防止の切り札としての再エネ熱利用と、そこに再エネ電力の急激な拡大が必須な理由

エネルギー費の高騰はここにきてやっと一段落したように見える。振り返れば、この高値が引き起こした前向きなリアクションに、世界的な太陽光発電の急拡大があった。さらに、特に欧州では、ロシアからの化石燃料でカバーしていた熱需要を再エネ熱の利用へと転換する動きが加速化されている。

数倍のエネルギー効率が見込め、
再エネ電力の利用で100%の脱炭素

今回のコラムでは、日本政府の緊急経済対策にも盛り込まれることになった再エネ熱の利用技術=ヒートポンプについて、考えてみたい。ヒートポンプは、脱炭素社会への重要な道筋のひとつである「電化」の実現形態であり、その観点から必ず再エネ電力が必要になる。ソーラージャーナルの読者の方々にも強いかかわりのある話なのである。
 
ヒートポンプの基本を最初に。名は体(なは、たい)を表している。ヒートポンプとは、ポンプのように熱(ヒート)をくみ上げる技術である。このポンプは電気によって動き、家庭用のエアコンでは下図のように室外の大気熱を持ってきて、室内に供給することになる。冷房もヒートポンプの応用である。

ポンプを動かす電気を1とすると、大気熱6をくみ上げるので、7倍の熱エネルギーの利用が可能となる。広く自然に存在する熱を利用することで高い効率を生む、夢のような仕組みといえる。

ヒートポンプの仕組み(家庭用エアコンの暖房時) 出典:ヒートポンプ・蓄熱センター

大気中の熱は、再エネと認定されているので、このポンプを再エネ電力で作動させれば、100%の脱炭素の熱になる。灯油や天然ガスなどを使うのが一般的で、なかなか進まなかった熱の脱炭素化の切り札といわれる存在である。

後ほど、業務用のヒートポンプの話にも触れるが、ここで取り上げているエアコンに限らず、冷蔵庫にもヒートポンプ技術が使われており、普通に日常生活に取り入れられている。つまり、使う電気を再エネ由来に切り替えることで、家庭においての抜群の脱炭素ツールになる。

2030年に向け、見込まれる
爆発的な拡大と産業での利用

欧州では、高騰した天然ガスの替わりに、一般家庭や事業所、企業などでの導入が飛躍的に伸びている。脱炭素へのエネルギーの一大転換策として、電力での太陽光発電、交通でのEVに並び、ヒートポンプは熱での主役に躍り出ることになった。

ビルにおけるヒートポンプの導入予測 出典:IEA「ネットゼロロードマップ」

IEAが最近発表した「ネットゼロロードマップ」では、世界のビルでのヒートポンプ導入量は、2030年に3,000GWと2022年の3倍に拡大すると予測されている。2050年にはさらにその倍以上の6,500GWとなる可能性がある。

産業用ヒートポンプの用途と高度化 出典:産業用ヒートポンプ.COM

一方で、ヒートポンプの“弱み”は、初期投資が高いこと、産業によっては求められる非常に高い熱の対応が難しいこと、などがあげられてきた。一般的に対応できる温度は150℃までとされていたのが、技術の革新が進み、200℃を越える温度も射程圏内に入りつつある。オフィスや工場などの空調や給湯はもちろん、高温の蒸気による殺菌などへと用途が広がってきている。

強みも活かせる、
「日本に適した」技術

実は、ヒートポンプは日本で普及拡大するのにぴったりの技術である。下は、前出のIEAのネットゼロロードマップで見つけた図である。ビルの暖房を輸入の化石燃料で賄っている割合をエリア別に比較している。

ビルの暖房用での輸入化石燃料割合、エリア比較 出典:IEA「ネットゼロロードマップ」

日本と韓国がひとまとめになっているが、2021年時点で8割以上、2030年時点でも6割強を輸入石油や天然ガスに頼っていることがわかる。中国の3~4倍、欧州の1.5倍以上の依存度である。

ビルの暖房の熱であれば、ほぼヒートポンプで代替可能で、脱炭素につながるだけでなく、輸入化石燃料に費やされる莫大な金額の流出を防ぐことができる。もちろんエネルギー安全保障にもつながる。脱炭素・資金流出減少・安全保障の一石三鳥なのである。

もうひとつ、大きな要素は、ヒートポンプは現在の日本が世界に誇れる技術だということである。EVで出遅れ、水素が逆転されるなど日本の脱炭素関連技術はこのところ負け続けである。その中で、ダイキン、パナソニックなどの民間会社がヒートポンプでは世界のトップに君臨する。

ヒートポンプを脱炭素の
反転攻勢の端緒に

前項で示したようにヒートポンプの普及は日本経済復活のきっかけにも成り得る。政府も気が付き始めたのか、11月に出された緊急経済対策では家庭用のヒートポンプに対する補助が増額された。もちろん、遅れている脱炭素、特に熱や省エネ(ヒートポンプは環境に存在する熱を使うことから、省エネのツールとも考えられている)への貢献という“実務”にも大きな期待が寄せられる。

そして、ヒートポンプをカーボンニュートラルで使うためには、繰り返すが、再エネ電力が必須となる。EVの普及と合わせて、再エネ電力のニーズはまだまだ確実にある。筆者がこれまでにも主張してきた、『溢(あふ)れるほどの再エネ電力』が、今後さらに求められることになるのである。

膨らむニーズは新しいチャンスである。ヒートポンプの導入は、太陽光発電や蓄電池などと組み合わせて提案するなど新しい角度からのビジネスにつながることを忘れないで欲しい。

プロフィール

エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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