【新技術】カーボンナノチューブ電極を用いてペロブスカイト太陽電池の耐久性を大幅改善!
2025/01/16
2024年12月24日、名古屋大学は、同大学の研究グループが、フッ素系化合物を添加したカーボンナノチューブ電極を用いたペロブスカイト太陽電池を開発したと発表。耐久性向上に成功した開発の概要を紹介する。
ヨウ化銀が構造を破壊
日本発の太陽電池技術として注目されているペロブスカイト太陽電池。ペロブスカイト結晶構造(CH3NH3Pbls)は、優れた光吸収特性と高い電荷キャリア移動を有するため高い発電効率を実現するが、耐久性の低さが最大の課題とされている。
耐久性の低さの要因としては以下の2つが挙げられる。
・CH3NHsPblsが大気中の酸素や湿気に弱く、PbIz結晶へと分解
・金属電極材料も耐久性の問題を引き起こす
※例えば、銀電極はペロブスカイト構造に含まれるヨウ素と反応し、ヨウ化銀を形成することでペロブスカイト構造を分解。銀電極以外にも、金電極が頻繫に使われるが、ペロブスカイト太陽電池内部で原子状の金が拡散し、ペロブスカイト構造の分解の要因となる。
出典:名古屋大学
ペロブスカイト太陽電池の耐久性問題を解決するには、厳密な封止だけでなく、電極の課題を克服することが不可欠だった。
今回、大きな飛躍が見られた。名古屋大学大学院工学研究科および未来社会創造機構マテリアルイノベーション研究所の松尾豊教授、上田直樹助教らの研究グループが、金属電極の代わりに単層カーボンナノチューブ(SWCNT)電極を使用することで耐久性の高いペロブスカイト太陽電池の開発に成功したのだ。
「大気中、未封止」でも耐久性
さらに、長期耐久性の向上も確認できた。
今回の研究では、SWCNT電極の性能を向上させるp-ドーパントにトリフルオロノエタノール(TFE)を使用。弱酸性のTFEであれば、ペロブスカイト層を破壊することも避けられる。しかもSWCNT電力だけの発電効率は13.0%だったが、TFEを滴下すると14.1%に上昇した。また、TFEの再添加を繰り返すことで耐久性を維持できる可能性が示唆され、「大気中、未封止」の環境で260日保管したセル(30日後にも滴下)にTFE を再添加すると、発電効率8.6%を示した。TFE を滴下していないSWCNT 電極だけのセルでは4.8%。TFE が耐久性に大きく寄与することが判明した。
出典:名古屋大学
大気下、封止なしで260日保管後のペロブスカイト太陽電池の写真。銀電極周辺で黄色いに変色した(左)。SWCNT電極を用いるとペロブスカイト層の茶褐色を維持(右)。表は各太陽電池の発電効率の経時変化の結果。
SWCNT電極とTFEを使用することで耐久性が大幅に向上したのは大きな前進と言っていいだろう。また封止せず、大気中の使用でも耐久性が確保されたことで産業などへの展開の道もさらに大きく開けた。
論文情報
雑誌名:Photochem 2024, 4(3), 319-333.
論文タイトル:Facile Doping of 2,2,2-Trifluoroethanol to Single-walled Carbon Nanotubes Electrodes for Durable Perovskite Solar Cells
著者:上岡 直樹,Achmad Syarif Hidayat,大島 久純,土方 啓暢,松尾 豊*
(*は責任著者)
DOI: doi.org/10.3390/photochem4030019
URL: https://doi.org/10.3390/photochem4030019
文/四谷陽晴