一次調整力の要件をクリアするためのポイントは? エネルギーマネジメントシステムの専門家が蓄電池ビジネスを解説
2025/08/25

系統用蓄電池や再エネ併設蓄電池など、蓄電池に関するビジネスが活況だ。需給調整市場の一次調整力への参画や、再エネ併設蓄電池の再エネ出力制御への対応において、事業者が注意すべき点とは?EMSの専門家であるメテオコントロールジャパンの山時義孝社長が解説する。
1.調達不足が続く一次調整力へ 参入を急ぐ事業者が続々
2.瞬時の出力調整に長けた蓄電池は一次調整力に最適
3.再エネ併設蓄電池の課題 協調制御を効率化するには
4.欧州での周波数制御の実績 EMSやシステム構築に強み
調達不足が続く一次調整力へ
参入を急ぐ事業者が続々
系統用蓄電池ビジネスの収益化において、重要な役割を果たすのが需給調整市場だ。メテオコントロールジャパンの山時義孝社長は、中でも、もっとも商品要件が厳しい一次調整力への注目度が高まっていると指摘する。「一次調整力の調達量は、全エリアで慢性的に不足しているため、高値での取引が期待されます。そのため、一次調整力に大きなビジネスチャンスがあると考え、参入を急ぐ事業者が増えていると感じています」。
その一方で、商品要件が比較的易しい三次調整力②に関しては、この1年間で大きく市場の状況が変化しているという。「三次調整力②の市場規模は大きいですが、入札量も多く、市場が飽和している印象を受けます。そのため、落札価格も抑えられており、1年前と比べて収益性は下がっているのではないでしょうか」(山時氏)。こうした状況を受けて、一次調整力に少しでも早く参入して、他社に先駆けて利益を得たいと考える事業者が増えていると山時氏は話す。
瞬時の出力調整に長けた
蓄電池は一次調整力に最適
一次調整力への参入の要件の1つが、自端制御だ。これは、系統の瞬時の周波数変動に対して、蓄電池などのリソースが自ら発電出力を増減して周波数を一定に保つことを指す。一般送配電事業者からの指令を待たずに出力をコントロールする必要があるため、極めて早い応答性が求められる。
山時氏は、「一次調整力では、早い応動速度が必須要件ですが、この要件は蓄電池にとっては好都合です。火力発電などと比べて、蓄電池は充放電のコントロールによって出力を素早く増減できるからです。一次調整力では、周波数の変化から出力の調整を開始するまでの遅れが2秒以内、必要な出力を供出するまでの応動時間が10秒以内という、いわゆる2秒/10秒の要件がありますが、蓄電池側のEMS(ローカルEMS)として適切なものを選択することでクリアしやすくなります」と説明する。
迅速な応動のためには、「フィードバック制御が重要です」と山時氏は指摘する。「フィードバック制御とは、電力メーターの数値を確認して、指令どおりの調整力を提供できるようにコントロールすることです。例えば、アグリゲーターが蓄電池に100kWの放電を要請しても、電気的なロスが発生して、結果的に提供できる調整力が98kWになるケースがあります。これを防ぐため、フィードバック制御では、ローカルEMSが電気の損失を考慮して2kW多く放電する指示を出し、要請に応えます」。フィードバック制御の仕組みについては、山時氏がこちらの記事でより詳しく説明しているので、ぜひ合わせて読んでほしい。(参考:【EMS専門家が監修】系統用蓄電池のビジネスモデル、他社に差をつけるためのEMSの基礎知識)
また、迅速な応動を実現するもう1つの鍵は、制御システムの通信速度だという。「これまで、一般的な太陽光発電の通信制御システムの通信間隔は1秒で十分でした。しかし、蓄電池の制御システムの通信間隔は0.1秒というレベルです。これを前提として、マルチメーターで検出した周波数の変動をもとに、瞬時に有効電力の制御値をローカルEMSが演算し、パワコンに対して即座に制御指令を出す能力を有することが必要です」と山時氏は強調する。
再エネ併設蓄電池の課題
協調制御を効率化するには
蓄電池を活用したビジネスとして、系統用蓄電池と並んで注目されているのが、再エネ発電所に併設する蓄電池事業だ。太陽光発電所に蓄電池を併設することで、朝夕などの電力卸市場価格が高いタイミングを狙って放電でき、充放電の価格差(アービトラージ)による収益の向上が期待できる。特に、FIP制度を活用する場合には、蓄電池が必須アイテムとなりつつある。
既存の太陽光発電所に蓄電池を追加する場合には、系統連系の容量をオーバーしないことが重要だと山時氏は説明する。「例えば、当初の連系容量が2MWの場合、1MWの蓄電池を追加で導入すると、連系容量がオーバーしてしまいます。これを防ぐのが、太陽光と蓄電池の両方の逆潮流をコントロールする協調制御という仕組みです」(山時氏)。
(ハイブリッド制御。出典:メテオコントロールジャパン株式会社)
「協調制御では、太陽光発電からの出力と蓄電池の充放電を相互に連携しなければなりません。そのため、双方のシステムを連動して制御する仕組みが重要になります。また、特に重要なのが、再エネ出力制御時のコントロール内容です。一般送配電事業者から出力制御の指示があったとき、蓄電池の容量に空きがあるなら、太陽光から蓄電池に充電するようなコントロールができることが望ましいでしょう。また、例えば、出力制御の割合に関する指示があった場合には、定められた出力の割合を守ると同時に、収益の最大化を念頭においた制御を行うことも大切です」と山時氏は指摘する。
欧州での周波数制御の実績
EMSやシステム構築に強み
ドイツのEMSメーカーであるメテオコントロールは、日本より厳しい要件が課されている欧州の需給調整市場向けに多くのローカルEMSを提供した実績を持つ。欧州には、日本の一次調整力に相当する周波数制御の要件として、遅れ時間を1秒未満にすることを要件にしている国もあるという。「こうした実績から、当社のローカルEMSは、日本の需給調整市場に向けて、さまざまなソリューションを提供できると考えています。また、再エネ併設蓄電池の協調制御においては、太陽光のPCSと蓄電池のローカルEMSの両方を制御する『ハイブリッドEMS®︎』をラインナップしています。こうしたシステム全体の構築に関するアドバイスも承っていますので、ぜひお気軽にご連絡ください」と山時氏は力を込める。
EMS専門家
代表取締役 山時義孝氏
取材・文/山下幸恵(office SOTO)
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