政策・制度

経産省が新たな戦略を公表、蓄電池産業の売上高を2035年に3倍の約5兆円へ

経済産業省は6月2日、従来の「蓄電池産業戦略」を改訂した「蓄電池・電源産業戦略」を有識者会議で公表した。中国企業の過剰供給や欧米の電気自動車(EV)政策の急変といったグローバルな環境変化に対応し、国内製造基盤やグローバル戦略、次世代技術の目標を見直している。

<目次>
1.蓄電池を取り巻く市場環境の変化に対応
2.国内製造基盤の確立とグローバルプレゼンスの確保
3.次世代電池市場の獲得と取り組むべき課題

 

蓄電池を取り巻く
市場環境の変化に対応

経済産業省と官民が2022年8月に策定した「蓄電池産業戦略」では、世界的な投資競争が激化する中で液系リチウムイオン電池の市場拡大や全固体電池の実用化を見据え、3つの方向性に沿って目標を掲げてきた。これまで、経済安全保障推進法に基づく政府の財政支援やグリーンイノベーション基金の活用により、国内製造基盤の増強や海外拠点の生産能力拡大、次世代電池開発が着実に進展してきた実績がある。

しかし、戦略策定後の数年間で、蓄電池を取り巻く国際的な市場環境および政策動向は大きく変化した。米国では第2次トランプ政権の発足に伴い、これまでのEV販売目標の大統領令が廃止され、インフレ抑制法(IRA)を含むEV導入支援策が撤廃・変更された。欧州連合(EU)においても規制の見直しにより乗用車のCO2排出量削減目標が緩和されたほか、域内の蓄電池産業の強化や生産品優遇へと姿勢が転換している。さらに韓国が国内製造基盤の維持や素材サプライチェーンの強化策を提示する一方で、中国はリチウムイオン電池関連や黒鉛などの重要鉱物の輸出管理を段階的に拡大する動きを見せており、サプライチェーンリスクが急速に顕在化している。

加えて、中国における過剰供給構造や米国におけるEV需要の減速が表面化し、世界の調査機関による2030年のグローバル需要規模の見通しには大きな幅が生じている。その一方で、AIデータセンターの急速な拡大に伴う電気制御ニーズや、車載用、定置用、さらには多種多様なモビリティの電動化による蓄電池へのニーズは長期的には高い成長が見込まれている。このような事業環境の不透明性と新たなニーズに対応するため、従来のエネルギー密度だけでなく、パワー密度や温度耐性、安全性など多角的な競争力を備えた総合的な蓄電ソリューションを提供する産業として構造転換を図る必要性が生じ、今回の戦略改訂へと至った。
 

国内製造基盤の確立と
グローバルプレゼンスの確保

 

蓄電池・電源産業戦略の方向性(出典 経済産業省)

 
今回の改訂では、今後の市場の大宗を占める車載用および定置用の製造能力確保を念頭に、3つのターゲットが具体的に再設定された。第1の目標である「国内製造基盤の確立」においては、遅くとも2030年までとしていた蓄電池・部素材・製造装置の国内製造能力150GWh/年の確立について、達成時期を2030年から2030年代半ばへと見直した。足元では経済安全保障推進法に基づく支援などにより、既認定案件を含めて100GWh/年以上の増強見通しが立っており、これを日本のマザー工場として早期に確立することを目指す。そのために官民連携による大規模な設備投資や、製造コスト低減に向けた先端プロセスの開発、さらには現場データの収集・解析による製造ライン全体の最適化を推進していく方針である。
 

蓄電池・電源産業戦略の目標(出典 経済産業省)

 
第2の目標である「グローバルプレゼンスの確保」では、これまでの世界市場におけるシェアベースの目標から、企業の売上高を基準とした実利的な指標へと転換した。具体的には、2025年から2035年にかけてグローバル市場規模が2倍に成長する見通しを踏まえ、蓄電池セルを製造する日本企業のセル・パック・モジュールなどの蓄電池関連売上高を3倍の約5兆円に成長させることを目指す。
 

上流資源の確保・サプライチェーン強靱化(出典 経済産業省)

 
このグローバルプレゼンスの確保と国内基盤の強化を支えるため、戦略では上流資源の確保とサプライチェーンの強靭化を不可欠な要素として位置づけている。150GWh/年の国内製造基盤を安定稼働させるためには、年間でおよそリチウム10万トン、ニッケル9万トン、黒鉛15万トンなどの膨大なバッテリーメタルが必要となる。特定の国への過度な依存を低減するため、チョークポイントとなっている部素材を特定し、調達先の多角化を図る。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じた出資・助成金支援の拡充により、日本の電池メーカーや自動車メーカーが連携して海外の鉱山開発や製錬事業の権益を早期に確保する体制を構築する。また、同志国との連携強化として、カナダとの覚書に基づく局長級対話の継続や、共同研究、貿易・投資促進、さらにはインドや豪州、EUなどの関係国・地域とのグローバルアライアンスを戦略的に形成し、国際的な安定供給体制の構築を後押ししていく。
 

次世代電池市場の獲得と
取り組むべき課題

 

蓄電池・電源産業戦略の目標(出典 経済産業省)

 
第3の目標である「次世代電池市場の獲得」では、日本が知財や研究開発力で強みを持つ分野においてリーダーの地位を維持し、市場を獲得することを目指している。特に全固体リチウムイオン電池については、2030年頃の本格実用化に向けて、液系を超える性能向上やコスト低減、量産プロセスの確立を進める。さらに2030年代半ばに向けては、需要規模に応じた国内の製造基盤を確立し、海外展開を視野に入れた迅速かつ大規模なサプライチェーンの構築を図る計画である。あわせて、フッ化物電池や亜鉛負極電池などの革新型電池についても、2030年代半ばの実用化を視野に、要素技術開発から応用研究、製造技術開発への円滑な移行を産学官一体で進めていく。

これら次世代電池の実用化と市場獲得に向けては、産業技術総合研究所(産総研)の基盤研究拠点機能を抜本的に強化し、文部科学省やNEDO等の関係機関と連携して世界最高水準の研究成果を社会実装につなげる知の拠点を運営する。また、全固体電池の性能や安全性が適切に評価されるよう、日本自動車研究所(JARI)などを通じて国際標準化の議論をリードし、日本に有利な市場環境を形成することが重要視されている。

今後の大きな課題として挙げられているのが、国内市場の創出と持続可能なエコシステムの構築である。定置用蓄電池の健全な普及拡大に向けては、製品評価技術基盤機構(NITE)が作成した安全性のガイドラインを広く普及させ、第三者認証機関による信頼性担保を推奨することで、過度な価格競争に陥らずに優れた性能や安全性が評価される市場環境の整備を進める。

また、欧州のサステナビリティ規制への対応も急務である。2031年から再生材の使用が義務付けられる欧州バッテリー規則を見据え、国内でも工程端材や不良品のリサイクルシステムを早期に立ち上げ、2028年から2030年頃に再生材を使用した電池の製造・販売を目指さなければならない。さらに、温室効果ガス排出量の定量化(CFP)や人権・環境デュー・ディリジェンス(DD)に対応するため、データ連携基盤である「自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター(ABtC)」を活用した日本版バッテリーパスポートの構築を推進し、2027年頃の実運用開始を確実なものにすることが求められている。
 

蓄電池・電源システムに係る人材育成・確保の方向性(出典 経済産業省)

 
加えて、製造現場における省人化や効率化を進めつつ、2030年代半ばまでにサプライチェーン全体で合計3万人の専門人材を育成・確保するため、全国組織「BATON」を通じて教育プログラムを地域や大学へ普及させていく体制の確立が、今後の産業競争力を維持する上での重要なカギとなる。
 

DATA

「蓄電池産業戦略」を「蓄電池・電源産業戦略」に改訂しました
https://www.meti.go.jp/press/2026/06/20260602001/20260602001.html


取材・文/ソーラージャーナル編集部

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