農林漁業振興へ。FIT活用で再エネの適正な導入を。
2017/07/21
組織改編によって、農山漁村での再生可能エネルギー推進がより包括的に進められるようになったという。なぜ、農山漁村で再エネ促進が必要とされているのか?再エネ導入に取り組む、農林水産省の鎌田さんがそのわけを語る!
再生可能エネルギーを
農林漁業の振興に活かす
農林水産省では、4月に組織改編があり、これまでの「再生可能エネルギーグループ」が「再生可能エネルギー室」となって、バイオマス循環資源課のもとに組み込まれました。これにより、農山漁村の振興に向けた取り組みが、より包括的に行えることとなりました。再生可能エネルギーによる発電と、マテリアル利用も含めた幅広いバイオマスの利活用を、地域振興の観点から総合的にサポートしていく体制が整えられたといえるでしょう。
農山漁村には、土地や水・風・熱・生物資源などが豊富に存在しています。いずれは枯渇してしまう化石燃料とは違い、これらは自然の活動などによって絶えず再生・供給されており、環境にやさしく、地球温暖化防止にも役立つものです。こうしたエネルギー(太陽光・風力・小水力・地熱・バイオマスなど)を積極的に有効活用することは、地域の所得向上にも結びつきます。
私たちとしては、再生可能エネルギーの導入を通して、農山漁村の活性化と農林漁業の振興を一体的に進めていきたいと考えています。ただ売電益を得るためだけに、農地を転用したり、山を削ったりすることを良としているわけではありません。あくまでも、農山漁村振興のための再生可能エネルギーです。農林漁業との共生を大前提に、地域が主体となって、それぞれの地域の特性に合った再生可能エネルギーを導入していって欲しいものです。そのためのサポートなら、私たちは惜しみません。
東日本大震災を教訓に
小水力から再エネ全般へ
私は、この4月、再生可能エネルギー室誕生と同時に、現在の任につきました。これまでは、主に小水力発電に関わってきたのですが、再生可能エネルギーが地域に与える影響の大きさは、常々感じるところでした。
2011年3月11日、あの東日本大震災が起こったとき、私は東北農政局の防災課長として現地にいました。あの惨状のなかにあって、自立分散型電源の重要性を痛感しましたし、疲弊した農山漁村の再生について考え続けることにもなりました。その後、近畿農政局の事業計画課に移ったのですが、ここは土地改良事業の計画を立てるところで、その一環として小水力発電の導入にも携わることになったのです。
それは、既存ダムの改修事業の計画でした。改修にあわせて、新規に小水力発電設備を設置しようというものです。ちょうどその頃、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)がスタート。採算性も見込めるようになり、計画が具体的に動き出したというわけです。私自身、FITの効果を、そのとき初めて実感することにもなりました。FITによって売電収益が得られれば、それまでは採算が合わないと思われていた場所も、小水力発電の適地になり得ます。それは、土地改良区における小水力発電の可能性を大きく拡げてくれました。
大川瀬ダム放流施設を利用した小水力発電施設
私は次に、農村振興局の水資源課というところにいき、全国の土地改良事業の計画・調査・実証を手掛けることになります。小水力発電の適地を掘り起こすとともに、管理施設の屋根や、水路の上にソーラーパネルを設置するなど、太陽光発電の有効活用にも取り組んできました。直近では、東北農政局の出先事業所で小水力発電施設の設計施工にも携わっていました。
FITのインパクトはとても大きいものです。それを活用して、再生可能エネルギーの適正な導入を進めれば、農山漁村を豊かにしていくことも可能でしょう。私は、これまで小水力発電とともに歩んでまいりましたが、これからは再エネ全般の活かし方を、関係各位ともに考えてまいります。農林水産省は、これからも、農山漁村の活性化と農林漁業の振興に資する、再生可能エネルギーの健全な導入をサポートしてまいります。
プロフィール
農林水産省 食料産業局 バイオマス循環資源課 再生可能エネルギー推進室長
鎌田知也
昭和62年入省以来、主に土地改良事業に携わる。FIT法制定以降は全国の国営土地改良事業の計画策定や、事業所勤務での事業実施等を通じて小水力発電の普及・推進に関わる。平成29年4月より現職。
取材・文/廣町公則
SOLAR JOURNAL vol.21 (2017年春号)より転載