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オフグリッド診療所が選んだ ホントに使える蓄電池の話

「万が一の停電」に備える蓄電池。 だが、その万が一の非常時に動かなければ意味をなさない。 そんな事態が、日本で実際に起こっているのだ。 蓄電池の枠を超えた独立電源システム 「パーソナルエナジー」は、 そんな蓄電池の現状に一石を投じる。

非常時に使えない
非常電源としての蓄電池

人の命を預かる医療機関で電気が全て停まったとしたら、一体どうなってしまうだろうか。

長野県南佐久郡佐久穂町にあるたなべ診療所の田邉哲所長は、以前勤務していた病院のICUでそんな出来事を実体験したという。「落雷でICUが停電しました。稼働するはずの病院内の非常電源がまったく動かず、10台もの人工呼吸器が止まったんです」。

8台分までは周りのスタッフが対応できたが、残り2台分はスタッフが対応できず院内で問題化した。万が一を本気で想定した時、非常電源がすぐ動くかどうかは、「実のところ不透明なのです」と田邉所長は振り返る。非常電源としての蓄電池は、毎日何時間か稼働させ、アイドリング状態を保ちながら常時スタンバイしているわけではない。そのため、実際に動かしてみなければ、動くかどうかわからない。

「万が一のことを想定せずに使っている状態がベストという状況では、医療機関としてダメじゃないでしょうか。非常時に非常用電源が使えない事象が実際に起きています。非常時にでも使えるものを日常から使うことが最良の方法だと思います」。

地元密着の地域医療を志して、2010年に診療所を開いた田邉さんは、前述の体験に加えて東日本大震災による計画停電を目の当たりにし、改めてエネルギーについて考えるようになった。

「30年間何事もなく診療を継続するため、診療所の外がどんな環境であろうと、この診療所は問題ないという状態を常に維持できていることが、すごく大事なことです」。

太陽光パネルを設置し、創った電気はすべてパーソナルエナジーに充電。診療所の電気をほとんど太陽光発電で賄っている。 パーソナルエナジーだから充電と同時に、通常通り、医療機器も使える。

独立電源システム
パーソナルエナジー

その方法として国内の医療機関としては初めて、慧通信技術工業の「パーソナルエナジー」の導入を決めた。このシステムの開発コンセプトは「オフグリッド」。ただの蓄電池ではなく、“独立電源システム”として主電源となることを想定している。

ソーラーパネルで発電した電気を整流化し、蓄電池に充電しながら施設内でも同時に利用できる。たなべ診療所では、蓄電能力が約22.8kWhで、必要とされる最大電力12kWを賄え、万が一の停電時でも最大8時間の診療が可能となった。今となっては、電力会社からほぼ電気を買わずに太陽光エネルギーだけで営業できているのだ。

「最近では照明をLEDにしたり、省エネ家電に変えたり、エアコン節約ですだれもつけました。天候が悪く、太陽光発電からの充電がなくても、2日間は蓄電池だけで賄えていると思います。電気は“いかに使わなくて済むか”。不必要なものに電気を使わず、大切な電気、当診療所なら医療機器に使えるかが重要です」。

一般的な蓄電池はシングルタスクになっており、充電していると自動的に放電できなくなる。そのため災害時は昼間ソーラーで充電しながら、同時に電気が使えないとい う欠点があった。「パーソナルエナジー」は、圧倒的にすぐれた独自のバッテリーマネ ジメントシステム(BMS)により、充放電が同時に行なえるようになった。この製品なら、パワーコンディショナーを利用せず太陽電池モジュールを直結し充電できる。系 統接続しなくてもそのまま電気が使え、太陽光発電しながらその電気を自家消費す るという「オフグリッド」を達成できる。


文/大根田康介
取材協力/たなべ診療所(長野県佐久穂町)

※『SOLAR JOURNAL』vol.14 より転載

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