耕作放棄地を再生! “地域で取り組む”ソーラーシェアリング事例
2019/05/21
ソーラーシェアリング倒壊事故
から学んだこと
順調な事業展開をしてきた小田原かなごてソーラーシェアリングであったが、平成30年9月30日に関東を襲った台風24号で、米のソーラーシェアリングが全倒壊する事態が起こった。
倒壊したソーラーシェアリングの写真
原因としては、支柱と架台をつなぐフランジの強度が不足していたことに加え、ソーラーシェアリング設置後、段々と東側に傾斜が見られていたことが考えられる。突風が襲い、強度が保てなくなったというのが施工業者と架台メーカーによる調査結果だった。
幸い、境界を接する農家に対する被害はほとんどなかった。しかし安全性をめぐって批判が出ることが予想された。
けれども結果は「本当に、ああした工作物をやっても米が育つのね。せっかく育っていたのに本当に残念だったね」というものであった。
当然、お米も手刈で収穫しなければならなくなった。しかしSNSで告知をしたところ、突発的な知らせにも関わらず40人がこの危機的な状況を支援したいと申し出たのだ。
「ソーラーシェアリングでエネルギーを作り、自然エネルギー中心の社会に切り替えたい」と考える市民の思いを心から感じ取れた出来事だった。そして倒壊したソーラーシェアリングは5月7日に無事再建された。
再建後の写真
筆者はこうした事故の状況を細心の注意を払いながら公開した。なぜなら普段なら経験できない事態を公開、共有し、業界全体、ひいては国民的なレベルアップにつなげたいとの思いがあったからだ。
これからの農業を考える
現在の農業政策では、残念ながら農地や農家、農業を守ることは出来ない。そうであれば農業とエネルギーを組み合わせるソーラーシェアリングで農家の所得を増やし、農業を続けるモチベーションを高める必要がある。
筆者が育てている青島みかんは最も値が低いときはkg60円だ。一方、小田原地方の米はというと1俵=60kgで8,000円。1反=300坪で収穫できる米は8~10俵。つまり、一年間汗水たらして米を作っても私どもが展開する1反2畝(360坪)の米の生産額は10万にもならないというのが現状だ。
しかし、ソーラーシェアリングで電気を売電すれば、固定制度買取価格が21円でも年間150万程度の収入になる。それが20年続くのだ。
「米も作るけど、電気も作る」と胸を張っていえるドイツのような農家が日本でも増えることが、農家を守り、農地を守り、農業を守るひとつの形になると思っている。
日本は最古の稲作遺跡といわれる佐賀県唐津にある菜畑遺跡の事例を見るまでもなく、2600年前、実は縄文時代といわれる時代から米を作ってきた。
日本人は農を土台に、歴史、伝統、文化、風土、風習が育まれてきた。農業が生業としてなくなることはよしんば避けられないとしても、農的な空間の維持が図られなくなるということは、地域に存在する歴史、伝統、文化が崩壊するということになる。地域のそれが崩壊すれば、地域地地域の集合体であるわが国は崩壊するだろう。
まさに、その危機に瀕しているのが日本の農業であり社会。そこを持続可能なものとするには、農業の生産力を向上させる必要がある。ソーラーシェアリングはそのひとつの起爆剤になるのだ。
ソーラーシェアリングで農地の維持が図られれば、地域の文化が守られる。なぜならソーラーシェアリングが地方創生にも効果があるからだ。
国のエネルギー政策的に考えても、今後、大規模な太陽光発電事業の展開が難しい中、一番手がついていないのが農地だ。城南信用金庫吉原毅顧問の説明によれば、日本の耕作地全てにソーラーシェアリングを展開した場合、その発電量は原発1,840基分に相当するという見解を出している。
世界的に叫ばれているRE100、SDGs、パリ協定、脱炭素社会の動きからも、化石燃料に依存しない社会構築が望まれるが、そうした観点からも農地や遊休地を有効活用できるソーラーシェアリングの推進は社会にとっても有効であろう。
PROFILE
合同会社F&Eあしがら金太郎電力代表
早稲田大学招聘研究員 エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議事務局長
小山田大和
3.11と原発事故を経て鈴廣かまぼこの副社長が立ち上げた「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」の創設に参画、現理事兼事務局長。前職の郵便局時代はかんぽ生命保険の営業で平成22年度、23年度と連続してかんぽ営業最高優績者に認定された経験を持つ。耕作放棄地=おひるねしていた畑と位置づけ「おひるねブランド」を立上げ、みかん、米、サツマイモなどを生産。2016年に神奈川県下6例目のソーラーシェアリングを竣工し、18年には21例目の県下最大級のソーラーシェアリングも竣工。ソーラーシェアリングの実績が評され、平成29年度「かながわ地球環境賞」受賞。