持株会社制度の「発送電分離」は名ばかりの“分離”? 見えてきた課題とは
2020/04/28
2020年4月から始まる持株会社制度による「発送電分離」。適切な電力システム改革は発送電分離で達成されるか? 見えてきた課題をエネルギー政策研究所(ISEP)所長・飯田哲也氏が紐解く。
中途半端な発送電分離
人と情報の遮断が必要
今年4月から持株会社制度による「発送電分離」が始まりますが、これはある意味でフェイクで、中途半端な印象です。すでに東京電力ホールディングス(以下TH)が、東京電力パワーグリッド(一般送配電事業、以下TP)と東京電力エナジーパートナー(小売電気事業、以下TE)という会社を作って先行していますが、様々な弊害が出ています。その最たるものは、人と情報の遮断ができていないことです。
どの住宅でいつ卒FITを迎えるか、どの需要家がいつ、どの新電力に切り替えたか。本来は送配電事業者と小売電気事業者の間でその情報の遮断は必須ですが、TPとTEの間では筒抜けです。一方で、新電力にはその情報が来ません。情報の非対称性が大きすぎて、公正・公平な競争ができていない。だから、旧電力が新電力の顧客を奪い返すという問題も起こっています。
本来、このような法的分離よりもう一歩進んだ「所有権分離」が必要なのですが、それは予定されていません。これは根深い問題です。
経産省の第3の財源
「託送料金」の問題
電力システムの改革が進まない最大の理由が「託送料金」の存在です。これは、旧電力が保有する送配電網を新電力が利用する際に旧電力へ支払う使用料金で、国民が支払う電気料金に含まれています。この託送料金は、高ければ高いほど新電力にとっては不利になりますが、旧電力にとってはほとんど痛みがありません。
例えばTHで見れば、TPの収入が増えTEが減りますが、東電グループ全体としてみれば、収益は大きく変わりません。
また、九州電力の決算を分析したデータによれば、役員報酬のおよそ7割が託送料金で賄われていたそうです。退職引当金や人件費においても託送料金の割合が高かった。つまり、何でも託送料金で賄おうとするため、旧電力には託送料金を高くしようという論理が働きます。
託送料金は経済産業省令で価格を決められるので、都合の良い第3のポケットでもあるわけです。
省庁の財源には、主に①一般財源、②特定財源があります。経産省は①は財務省に握られていて自由に使えず、②に関して「電源開発促進税」など都合の良い税金がありますが、やはり財務省に握られています。一方で、③託送料金は省令で決められますから、大手を振って使えます。
だから、旧電力と経産省、お互いの思惑が一致しており、所有権分離にまであえて踏み込まない状況が続いています。
加えて、第4のポケットとして、これも電気料金に上乗せされている「再生可能エネルギー発電促進賦課金」ができた訳です。
電気小売の自由化は進むも
再エネにとっては試練が続く
前述のように、所有権分離がない持株会社制度での発送電分離は、内部補填できてしまう点で致命的な設計ミスがあるといえます。
他にも、原子力発電所の廃炉費用の引き当て金不足、福島第一原発事故の損害賠償金の不足分なども託送料金で埋めようとしています。
託送料金は国民の電気料金に上乗せされていますから、とりっぱぐれのないお金です。同時に、各電力会社の廃炉費用を託送料金で賄えば、所有権分離がしにくい状況が続きます。これは、旧電力体制を死守したい電力会社と経産省のゆがんだ共謀とも見てとれます。
電気小売の全面自由化は進んできたところもあるので、遠からず電力会社が淘汰される時代が来るかもしれませんが、まだ再エネには試練が続きます。「日本版コネクト&マネージ」によって、再エネ比率が高まる予定でしたが、結局、石炭火力発電や原子力発電を優先しているため、“大山鳴動してネズミ一匹動かず”の状態なのです。
発送電を分離する4つの方法
1 会計分離:送配電部門の会計を他部門の会計から分離させる方法
⇒同グループ内においても、部門間で赤字の補填をすることはできなくなるが、部門間で情報交換が行われる可能性がある。
2 法的分離:(これからの発送電分離)送配電部門を発電部門と切り離して分社化する方法
⇒発送電設備を維持し、インバランスの調整がしやすいなどのメリットがあるが、公平性の確保という点で不十分。
3 機能分離:送配電部門の所有権を会社に残したまま、他の系統運用機関が運用を担う方法
⇒所有権は分離していないため、資本関係を分離できていない。
4 所有権分離:送配電部門を、完全に別会社とする方法
⇒資本関係もなくなるため、中立性が最も高まる。情報交換や利益の補填などもできない。
PROFILE
認定NPO法人 環境エネルギー
政策研究所(ISEP) 所長
飯田哲也氏
自然エネルギー政策の革新と実践で国際的な第一人者。持続可能なエネルギー政策の実現を目的とする、政府や産業界から独立した非営利の環境エネルギー政策研究所所長。
Twitter:@iidatetsunari
SOLAR JOURNAL vol.32(2020年冬号)より転載