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脱炭素社会の実現と地域活性化 ~カーボンニュートラルの本来の目的とは~

脱炭素が社会のトレンドとなりつつある。しかし、この強い動きは、温暖化や気候変動の防止につながっているのだろうか。カーボンニュートラルの本来の目的と地域との関係性を考える、エネルギージャーナリスト・北村和也氏の連載コラム第25回。

脱炭素への勢いが止まらない。

国際公約とした政府は言うまでもない。民間企業も二酸化炭素をそのまま排出し続けたり取り組みに前向きでなかったりすると、企業活動の燃料ともいえる融資を受けることが困難になって存続すら見通せなくなる。

自治体も環境省が進めるゼロカーボンシティの宣言を次々に行っている。5月11日時点で385自治体、数では2割強だがダブりを除いた人口規模では1億1千万人を超えた。宣言を行わない地方公共団体は取り残されることになる。

誰もが感じているようにこれはすでにブームではなくトレンドである。つまり、社会が脱炭素に向かうのは必然なのである。

しかしこの強い動きは、温暖化や気候変動の防止を忘れたかのように自己目的化し、上滑りしていないだろうか。政府は約束の実現として、企業は存続のために、自治体は宣言そのものが競争になっているようにも見える。

今回のコラムでは、カーボンニュートラルの本来の目的と地域との関係性をまとめてみたい。

脱炭素は目的ではない

勢いが増す一方で、脱炭素化の道のりは不透明で見えてこない。再エネ電力の利用拡大を進める国際的な企業のグループ「RE100」が昨年12月の年次リポートで示したように、日本は再エネ電力が手に入れにくく、値段が高い国とされている。これに気づく企業には焦りの色さえ見える。また、各国政府が目標の達成年度をどんどん前倒しし始め、日本もあわてて2030年の削減目標を46%にまで上げた。

目的があやふやであると、達成へのプロセスでミスをしがちになる。それどころか、実現への障害にすらなりかねない。

先に簡単に書いたように、脱炭素の目的は温暖化を防いで気候危機や予想される様々な厄災から地球と人類を守ろうというものである。2015年のパリ協定で地球全体での取り組みとなった。二酸化炭素の増加が悪さをする原因だとされ、空気中の濃度をこれ以上増やさないために脱炭素を目指す。エネルギーの効率化や再エネの利用拡大がその有効な手段とされた。

脱炭素=エネルギー効率化、再エネは、大事な目的達成のツールである。

「地球全体で達成」という特別性

脱炭素が目指すものは、地球の課題である温暖化の解決である。

これは戦争のない平和な世界の実現のように大きなテーマである。そして地球全体すべてで達成されないと意味がなく、逆に温暖化の弊害はすべての国に及ぶことに重要な特徴がある。海面が上がって住む場所がなくなるという島々だけの脅威でなく、すでに気候変動で大きな災害が世界各地で頻発していることを考えればわかる。無関係と言い切れる国や場所はどこにもない。
 
求められるのは近視眼的な再生エネ電力の獲得競争に走ることではなく、中長期にわたる確実な再エネ拡大や効率的な利用策である。例えば、目の前にあるFIT電源や非化石証書を巡り値段を釣り上げて手に入れることは、既存のCO2フリー電源を取り合うだけで、再エネに対していわゆる追加性の無い行為である。また、大量の木の伐採や危険な山の斜面に無理なメガソーラーの開発を行えば、CO2を吸収する森林を減らすだけでなく自然への過大な負荷が生じる。

地球が直面している課題を地球全体で解決するという本来の脱炭素の目的へ立ち返れば何をしてよいかいけないかに簡単に気が付き、目的に合致しない手段は取らなくなる。いや取れなくなる。

各所に見られる脱炭素の目的と
SDGsとの共通点

脱炭素の目的に立ち返ってみると、SDGsの目指すところとの共通性が浮かび上がる。

SDGsとは、国連がまとめた2030年に向けた持続可能な開発目標である。具体的に17のゴールが設定され、企業や自治体、政府などが達成への努力を続けている。解決されなければならない課題は、「貧困」、「飢餓」など誰もが納得できる共通のものである。気候変動などエネルギーに絡むものも大きなテーマとなっている。脱炭素はそういう意味でもSDGsの主要課題と言える。

しかし、それはこの項で言いたい中心ではない。SDGsの最重要な原則に「誰一人取り残さない」ことがある。つまり、先に挙げた17のゴールについて、地球上のすべての場所ですべての人に対して達成されなければならないことを謳(うた)っている。これは地球全体で達成されなければならない脱炭素の目指すものと一致する。これまで一部の場所や一部の人々だけの目標は数多くあったが、ここにきて課題がグローバル化し全世界のリスクとなった。新型コロナウイルスもその中の一つと言える。

地域での解決しか道はない

SDGsの目指す17のゴールの実現は非常にハードルが高い。

しかし、もしこれがある場所で実現したとすればそこは誰もが住みたい理想の場所となるであろう。ただし、SDGsの旗を振ることは、国連や各国の政府でできるとしても、実際の行動、取り組みはそれぞれの地域で進めるしかない。それは各個人、全員が持続可能な生活を行うことを目的とするから当然のことでなる。

脱炭素の場合も変わりない。脱炭素はすべてのフェーズで達成される必要がある。

例えば、最終エネルギーを考えたとき、電気、熱、交通のどのパートにおいても漏れなく実現が求められる。別の見方では、政府のエネルギー統計でみられる部門(企業・事業所、家庭、運輸)のすべてで脱炭素が追及される。誰一人脱炭素の取り組みから逃れることはできないといっても過言ではない。

SDGsの達成同様に、脱炭素の実現は簡単ではない。

しかし、その最終的な目的、広く言えば“地球上すべての人の幸福”と考えれば、取り組みのモチベーションは下がることはないはずである。また、その過程で余計な環境負荷をかけたり、無駄な競争や他の足を引っ張ったりする行為からは自然と離れていくはずである。

脱炭素を上滑りさせず、地域から着実に進めていきたい。地域が基本であり、そこでの努力は必ず地域に帰ってくることを忘れてはならない。
 

プロフィール

エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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