飛躍する米国エネルギー貯蔵市場。大規模太陽光発電所との併設が拡大
2022/03/31
再生可能エネルギーの導入が加速する中、エネルギー貯蔵設備は電力需給バランスを安定させ、電力システムの柔軟性を高めるのに大きな役割を担う。米国では今後、太陽光発電所への併設が進み、発電事業用のエネルギー貯蔵システムはさらに拡大すると予測されている。
メイン画像:米国で建設中の「エドワーズサンボーン・ソーラー・プラス・ストレージ」(イメージ図)。
エネルギー貯蔵市場規模は
2026年、12.7GWに!
米国エネルギー貯蔵協会(ESA)によると、エネルギー貯蔵は電力の発電、送電・供給、そして消費を根本的に改善するだけではなく、暴風雨、機器の故障、事故、さらにはテロ攻撃による停電など、緊急時の備えとしても役に立つ。さらに、電力市場の動向を一変させる「ゲームチャンジャー」的な役割も担っており、電力供給と需要のバランスを瞬時(ミリ秒以内)に調整することで、電力ネットワークをこれまでにないほどに柔軟性があり、効率的で、クリーンなものにできる。
再エネを含む天然資源産業のリサーチ・コンサルティングサービスを提供するウッドマッケンジー社とESAが、2021年12月に発表した最新の米国エネルギー貯蔵市場レポートによると、2021年第3四半期(7〜9月)に商業運転を開始したエネルギー貯蔵設備の設置容量は、前年同期比2.4倍の1.14GWに達し、四半期の導入容量で、過去最高となった。
エネルギー貯蔵市場は、太陽光発電市場と同じように、住宅用、非住宅用(商業・産業)、そして発電事業用の3つに分類される。さらに、電力会社の視点から、エネルギー貯蔵設備が電力需要家側に設置される場合は 「ビハインド・ザ・メーター」、電力供給側に設置される場合は「フロント・オブ・ザ・メーター 」との分け方もある。これは、電力メーターを境に需要家側(ビハインド)か系統側(フロント)かを示すものだ。フロント・オブ・ザ・メーターのほとんどは電力会社による発電事業用になる。2021年第3四半期に導入された1.14GWのうち、実に約1GWはフロント・オブ・ザ・メーターで、全体の約88%を占めた。住宅用は約9%、非住宅用は約4%のみだった。
ウッドマッケンジー社とESAのレポートによると、2021年に一部の事業者が商業運転日をわずかに延期したため、フロント・オブ・ザ・メーター事業の多くが2022年第1四半期に持ち越す可能性があるが、米国エネルギー貯蔵市場は2021年の第3四半期に続き、第4四半期もさらに導入量が高くなると予想されている。また、2021年の市場規模は2020年の3.6倍以上の5.36GWになるとみられ、そのうち約87%に当たる4.7GWはフロント・オブ・ザ・メーターが占めるとしている。さらに、2026年には市場が12.7GWに拡大すると予想されている。
米国年間分野別エネルギー貯蔵導入量推移 [単位:MW]
2026年には米国のエネルギー貯蔵市場が12.7GWに拡大すると予想されている。
(2018〜2020年:実績、2021〜2026年:予測)
出典:Wood Mackenzieの資料を元に編集部が作成
太陽光発電所との併設が
今後さらに増加する
ウッドマッケンジー社によると、稼働しているエネルギー貯蔵設備のうち、太陽光発電所への併設は現在のところ半分以下だが、今後は発電所とのハイブリッドが拡大すると予想されている。実際、2021年11月末時点で稼働しているエネルギー貯蔵設備のうち815MWは主にカリフォルニア州にあるが、太陽光発電所に併設している。
米エネルギー省(DOE)・エネルギー情報局(EIA)のデータも、似たような傾向を示している。DOEのデータによると、2020年12月末時点では、米国の発電事業用エネルギー貯蔵設備のほとんどはスタンドアロン(単独)で、発電所サイトには併設されていなかった。発電所と同じサイトに設置されている発電事業用エネルギー貯蔵設備は、総出力の38%にすぎなかったという。
しかし、2020年末時点で計画されているエネルギー貯蔵プロジェクトの多くは、太陽光発電所と同じサイトに設置される予定だ。DOEは、今後3年間で太陽光発電とエネルギー貯蔵の関係が変化するとみており、具体的には、再エネの発電所と同じサイトに併設されるエネルギー貯蔵設備の比率は、2026年には約2倍の60%に増加すると予想している。
実際、カリフォルニア州では現在、世界最大規模の大規模太陽光発電所にエネルギー貯蔵を併設するプロジェクトが進んでいる。「エドワーズサンボーン・ソーラー・プラス・ストレージ」と呼ばれるこのプロジェクトでは、同州の南部にあるカーン郡に、760MW-AC(交流出力)に2445MWhのエネルギー貯蔵設備が建設される。
カリフォルニア州に建設中の世界最大規模のソーラー・プラス・ストレージ「エドワーズサンボーン・ソーラー・プラス・ストレージ」(イメージ図)。
760MW-AC(交流出力)/蓄電容量 2,445MWh、出典:Terra-Gen
プロジェクトを主導する米テラジェン社によると、第一段階として735MWh分が既に稼働しており、第二段階は2022年の第2四半期、そして残りが2022年の後半から2023年の初めに稼働を開始する予定となっている。このプロジェクトが完成すると、約15万8000軒を超える家庭にクリーン電力を供給することになる。
世界最大規模の設備がカリフォルニア州で稼働
カリフォルニアで稼働する世界最大規模のエネルギー貯蔵施設「モス・ランディング・エネルギー貯蔵施設」。
400MW/1.6GWh、出典:Vistra
現在、米国で最大規模のエネルギー貯蔵プロジェクトは、「モス・ランディング・エネルギー貯蔵施設」である。2020年12月カリフォルニア州サンフランシスコの約200km南に位置する港町・モントレー郡で、このプロジェクトの第一段階である300MWが稼働し、さらに2021年8月に第二段階の100MWの増設が完了した。この2つを合わせると計400MW(1.6GWh)で、世界最大規模となる。
ちなみに、この電力供給量は、一般家庭30万軒の電力消費量に匹敵する。また、火力発電所跡に設置したため、火力発電を代替するだけではなく、元々は火力発電で使われていた変電所と送電インフラを活用することで、クリーンエネルギーへの転換に貢献する。
PROFILE
モベヤン・ジュンコ
太陽光発電電池メーカーで7年間産業経験を積んだ後、2006年から太陽光発電調査会社米ソーラーバズでシニアアナリストとして活躍。2013年よりジャーナリストとして、米国の太陽光発電政策や市場トレンドに関する記事を日欧米のメディアに多数執筆。
文:モベヤン・ジュンコ
SOLAR JOURNAL vol.40(2022年冬号)より転載