脱炭素に足踏みするドイツの苦悩 part3 ~ウクライナ危機の影響〜
2022/03/25
ドイツの原発稼働
延長はあり得るのか
昨年からのエネルギー費高騰とロシアのエネルギーリスクの回避が重なり、欧州諸国の中で原発利用の議論が高まってきた。年明けにEUタクソノミーで、原発を“グリーン”に分類する動きが進んでいたが、ここにきてもっと切迫した要因から原発論議が加速されている。
フランスのマクロン大統領は、すでに原発の新規建設を表明している。また、EUの中で特にエネルギー費の上昇が顕著なベルギーは、原発の10年間の稼働延長を決定した。
ドイツは、今年の年末までに最後に残った3基の原発を停止させ、脱原発を完成させる予定であったが、緊急事態を受け稼働延長の可能性の検討を行うことになった。結論としては、延長は行わない方向である。理由は、停止が目の前に迫っていて大きな費用や手間がかかること、仮に進めても来年の冬に間に合わないこと、原発運転のリスクとコストなどが挙げられている。
また、下のグラフで分かるが、ドイツ国内の天然ガスの用途のうち発電は14%程度に過ぎず、原発は全体としての代替にならないこともポイントである。
(ドイツ国内の天然ガスの用途 出典:Destatis、bdew 単位:Mrd. kWh)
*棒グラフは、左から、工業、家庭、商業など、発電(オレンジ色)
一方で、発電に関しては、国内生産ができる褐炭(かったん)などの石炭火力に頼る声も聞かれる。昨年は、風力発電の不振や経済復活によるエネルギー需要増を補うため石炭回帰に動いてCO2の大幅増加を招いた。今年も“背に腹は代えられない”政策で更なる温暖化ガスの上昇を招く危険もはらんでいる。
最終解決は、
再エネの大幅拡大
短期的には、化石燃料の緊急融通などが必要であり、先日もドイツとカタールの天然ガス契約に関する協議についてのニュースが流れたばかりである。
しかし、今回のウクライナ危機を通じ、価値がさらに高まったのは再エネである。他国に頼らず利用できるVRE(風力、太陽光発電の変動性再生可能エネルギー)こそ、市場の影響や原産国のリスクを受けないエネルギーとして、その地位が確定した。
3月初旬、ドイツ政府は緊急的に新しい再エネ法「EEG2023」の素案を発表した。
柱は、2030年までに電力の80%を再エネで賄うこと、また、2035年に電力セクターでカーボンニュートラルを実現することで、これまでの目標をさらに前倒しする内容となっている。
脱炭素だけでなく、エネルギー費高騰への最終的な対応策として、ドイツは再エネの大幅拡大を選択したのである。
中心となるVREの具体的な目標として、以下のような高い目標を立てている。
・太陽光発電:2030年までに200GW、2035年284GW、2040年363GW
・陸上風力:2030年までに110GW、2035年152GW、2040年160GW
・洋上風力:2030年までに30GW、2035年40GW、2045年70GW
幸い、昨年と違って今年は風力発電も順調に発電している。日によって再エネだけで8割から9割の電力を賄うこともある。また、時間帯によってはすべてが再エネということも珍しくない。欧州の電力市場は高騰が続くが、再エネの強い日にはドイツでは、高騰前にあった3円以下や3月14日の週前半のようにネガティブプライス(電力を引き取りするとお金がもらえる)も現出している。
しかし、今回の新しい目標を見ると、前回も書いたが、実現性に大きな課題がある。特にこのところ再エネ発電施設の新設が停滞している。ドイツ内の有識者などは、これまで、制度的な支援が不十分であったこと、つまりメルケル政権の真剣さの欠如などを挙げている。高い目標に向けての実行性のある施策をどう打ち出すことができるのか、ドイツは後のない正念場を迎える。
プロフィール
エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。
北村和也
エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ