政策・制度

今、どんな企業でもすぐに脱炭素に取り組んだ方が良い、多くの理由

エネルギージャーナリスト、北村和也氏のコラム。今回は、企業が脱炭素に取り組む意味を再考する。

コロナ禍がとりあえず明けて、リアルの講演やセミナー、大学の講義などが相次ぎ筆者も外に出ることが戻ってきた。実際に特に地方では、脱炭素と言っても、まだ周りの会社が動いていないし、だいたいお金の余裕がない、との声をよく聞く。PPAなど太陽光発電の適地の取り合いが激しさを増している一方で、そんなギャップを耳にし、もったいないなと感じることも多い。そこで、今回のコラムは基本に立ち返って、会社が積極的に脱炭素に取り組むこと、再エネを取り入れることでどんなメリットがあるのか、それもなるべく早いに越したことがないという話をしたい。これは、会社の規模とはほぼ関係が無い。どんな企業でも取り組むことによるメリットがあり、また、取り組まないことによるダメージは避けられない。

企業に押し寄せる“脱炭素の圧力”、
最大は金融のプレッシャー

まず、以下の図を見てもらいたい。
 「脱炭素の圧力」を解説した資源エネルギー庁作成の図である。なかなかよくできているのでセミナーなどで必ず使用させてもらっている。

(企業を取り囲む脱炭素の圧力 出典:資源エネルギー庁)

 企業に対して脱炭素を要求する、四方(金融市場、労働市場、財市場、政府)からの包囲陣が迫ってきていることを示している。
 社会に存在する会社、企業はこれらのプレッシャーを無視して生きていけないことをまず知ってもらいたい。そして、これらの圧力は年々強くなる一方である。
 最も早く、真剣みを帯びてやってきたのが、①金融市場の中の金融機関による圧力(前図左の赤枠)である。
 象徴的なのが、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)をはじめとする権威ある国際的な金融組織や1000兆円を超える運用資産残高を誇る世界最大の資産運用会社ブラッドロックなどを先頭とした国際機関や金融会社である。日本の第一生命などのいわゆる生保が同様に社債の購入先や投資先の企業にカーボンニュートラルを迫るのはもはや常識である。
 これは単に、地球の将来を持続可能にするためだけの動機ではない。脱炭素を進める企業でないと事業の発展はなく、ビジネス競争で脱落し、引き受けた融資や投資が回収できなくなるからという、実利とリスク回避を考えるからである。
 大どころばかりではない。最近最も活動が盛んなのが、日本の地方の金融機関である。ただし彼らは、脱炭素のコンサルティングなどサポートにも熱心である。いくつかの地方銀行は再エネの発電子会社を設立して、融資先への再エネ電力の供給まで始めようとしている。

無視できない
サプライチェーンからの要求

続いて、このところ増大してきているのが、②サプライチェーンからの要請である(前図の右赤枠)。
 例えば、製造メーカーは、すべての製品を単独で原材料から製造しているわけではない。原材料や部品の調達を他の企業から行い、また、製品の輸送などでも業務を委託するなどして、多くが相互依存している。ある企業が製品を完全にカーボンニュートラル化するには、これらのサプライチェーンも脱炭素化しなければ、達成できない。
 もっとも有名な例がアップルである。
 下の図のように、すべての製品に関して2030年までにカーボンニュートラルを達成するという“野心的な目標”(アップル自身の表現)を掲げている。

(アップルの目指す2030年カーボンニュートラルの実現 出典:経済産業省)

アップル自体は2018年、すでに100%再エネ電力で賄うまでになり、その後も100%を続けている。オフィスやデーターエンター、直営店は世界44か国におよび、その電力をおよそ1.5ギガワットの再エネでカバーしている。しかし、前述したように、これだけではアップルの製品がすべて再エネ電力で作られることにはならない。サプライチェーンからの部品などの調達が脱炭素化されていないからである。
 このため、部品などを供給する世界の企業に対し、「サプライヤークリーンエネルギープログラム」に参加することを要請し、2030年までのカーボンニュートラル化を要請している。
 世界のサプライヤー250社以上が2030年までの実現をすでに約束し、その中には、TDK、村田製作所、キオクシア、ロームなどの日本企業34社も含まれる。
 ここで、「うちはアップルとお付き合いするようなすごい企業でもないし、あれは大きな会社のお話」などよそ事と思っては絶対にいけない。サプライチェーンはその先、多段階で続くという法則に気が付くべきである。つまり、アップルにモノを納める会社にも必ずサプライチェーンはあり、アップルの要求は次の調達先へと“伝染”していくことになる。世界が脱炭素に向かうと、いずれすべての会社がカーボンニュートラル化を求められるのである。

「人」におよんできた
次世代の脱炭素圧力

 これまで挙げた、①金融機関、②サプライチェーンほど顕在化していないものの、動きがはっきりしてきたのが、③労働者と④消費者からのプレッシャーである。労働者は企業への就職を考える「採用候補者」であり、製品などを購入する消費者も重要な「顧客」である。

(企業を取り囲む脱炭素の圧力 出典:資源エネルギー庁)

 図でも点線で示したように、現時点では顕在化の度合いは高くない。
 しかし、図の作成者である資源エネルギー庁は、企業の脱炭素への対応を就職の応募の動機とする傾向が見られると分析している。実際に筆者もよく聞く話である。③の労働市場は今後さらに顕著な圧力となる。企業にとって重要な採用に、脱炭素の取り組みという要素が加わることになる。
 ④の消費者動向は、食品の原材料の添加物表示のような“製造エネルギー表示”制度がないため、直接の影響はまだはっきりしない。しかし、例えば、イオンが扱うイチゴの脱炭素化に取り組むと発表したり、モスバーガーが低炭素のレタスを使用すると宣言したりと、購買者を意識した動きが始まっている。

脱炭素への取り組みで
もたらされる多くの利点

脱炭素は、どうしても手間や人がかかってしんどいという印象が先に来る。そして費用も必要なのでネガティブになりがちである。そこを心配してか、経済産業省や環境省では、以下のような「企業が脱炭素の取り組むことによるメリット」をまとめて、公開している。

(企業が脱炭素に取り組むことで生まれるメリット 出典:経済産業省、環境省)

それぞれ、わかりやすく示されている。ぜひ企業としても確認してほしい。
1.エネルギーコストの削減:
省エネやエネルギーの効率化によってコストダウンが図れるだけでなく、昨今の電気代の高騰の中では、特に自家消費のオンサイトでの太陽光発電導入は確実に電気料金の削減となる。
2.競争力の強化、取引先や売上拡大:
前述したサプライチェーンからの要請は“切られるリスク”というデメリットに見える。しかし、外から考えれば、脱炭素の取り組みはサプライチェーン参入のチャンスとなる。ライバルの取り組みが弱ければ、差別化の武器にも使える。
3.知名度や認知度の向上:
先進的な取り組みはマスコミに取り上げられることも多い。無料のPRである。
ただし、注目されるのは初期段階なので、早目の対応が「吉」となる。
4.資金調達において有利に働く:
金融からの圧力が最も強いことを考えればわかりやすい。
5.社員のモチベーションや人材獲得力の強化:
3の知名度アップは、そのまま社員のプラスの働き甲斐となる。先述した通り、今後は採用面でもメリットが出てくるのは確実である。

国内の脱炭素は
“早い者勝ち”の様相

 地域の人たちと話していると、地元の意識の低さを嘆かれることが多い。
 確かに、まだ多くの地域の会社や団体が、カーボンニュートラル化の必要性を切実に感じていないのはその通りであろう。
 しかし、全体を見ると大規模企業などでの先進的な取り組みは珍しくない。一方で、再エネ資源の量的な不足は否めず、地域の再エネ発電適地は、激しい争奪戦の中にある。
 また、再エネ交付金が官民共に3分の2出る脱炭素先行地域も4回目を前にハードルがさらに上がっている。補助金も永遠に続くわけでない。ニュースに取り上げられるのも珍しいうちだけである。
 それこそ早い者勝ちである。
 やらなくていいなら逃げられるが、脱炭素はどの企業にも、最終的には個人にも必ず求められる。それならば、メリットが大きい初期から取り組むこと、これが鉄則である。7月7日(金)のPVビジネスフォーラムでは、北村和也氏がPPAモデルを導入する自治体の取り組みなどについて講演する。

プロフィール

エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

「太陽光義務化元年」と呼ばれる2023年。パネルの屋根設置や制度の見直し、蓄電池の導入促進といった国の新たな政策にどのように対応するべきか?来年度に導入される発電側課金はどのような仕組みなのか?地方自治体の政策担当者や再エネシステムの専門家を登壇者としてお迎えし、今後のビジネスチャンスを読み解きます。

 

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