【太陽光義務化元年】川崎市の条例可決! 東京都との違いは?
2023/12/22
川崎市は今年3月、住宅などの新築建築物に太陽光パネル設置を義務付ける「川崎市地球温暖化対策推進条例」を改正した。新築住宅に設置を義務付けるのは国内2例目。制度の内容や東京都との違いを解説する。
温室効果ガス排出量が
政令指定都市でワースト1
「地球温暖化がますます深刻化する中で、市民や事業者の皆さまと協働しながら、環境先進都市として本市がこれまでに培った技術を活かし、脱炭素社会の実現に向けて、持続可能なまちづくりを進めてまいります」。川崎市の福田紀彦市長は2023年度の施政方針演説で、脱炭素に向けての取り組みを加速する考えを強調した。
川崎市議会は今年3月、一戸建て住宅を含む新築建築物に太陽光パネルの設置を原則義務化する条例改正案を賛成多数で可決した。関連予算を盛り込んだ2023年度当初予算案も可決、成立した。
川崎市は、京浜工業地帯の中核として重工業を中心に発展してきた。市内には、鉄鋼や化学、電機、精密機械、エレクトロニクス、情報通信、食品、科学技術などの多種多様な工場や事業所が集中している。このため、産業系の二酸化炭素排出量が全体の76%を占めている。2019年度の温室効果ガス排出量(暫定
値)は2,139万t―CO2と、全国の政令指定都市の中でワースト1となっている。
川崎市は約9割が市街化されており、2050年までに新規導入可能な再エネの約99%が住宅用・事業用の太陽光発電設備と想定されている。これから新しく建てられる建築物のほとんどが2050年にストックとして残ることを踏まえ、義務的手法を導入することにより、住宅用・事業用建築物への太陽光発電設備の導入施策を強化していくこととした。
川崎市条例施行規則等の改正の考え方
新築住宅は
建築事業者に設置義務
太陽光パネルの設置をめぐっては、東京都で2022年12月に全国で初めて一戸建て住宅を設置義務化の対象とする改正条例が成立した。国内2例目となる川崎市の新しい制度は、延べ床面積2000㎡以上の事業所などを新築または増築する場合、その事業所を保有する建築主などにパネル設置の義務を課す。2000㎡未満の建築物を新たに建てる場合、1年間に「一定量」以上の総床面積を供給しているハウスメーカーなどの「特定建築事業者」に設置義務を課す。義務化の対象から外れた新築と増築の建築物についても、設計士が太陽光パネルについて説明することを義務づける。いずれも罰則規定はない。
「一定量」の具体値は未定だが、「5,000㎡以上」が例示されている。この場合、対象事業者は2020年度実績で23社となり、川崎市全体の56%(一戸建て住宅は60%)がカバーされる。新築住宅の中には、日当たりが悪い場所や太陽光パネルを設置しにくい狭小な物件もあることから、全戸対象としない方針。建築士の説明義務については設置義務に先行して2024年度の開始を目指す。
川崎市の試算によると、太陽光発電設備を一般住宅に設置する場合、発電容量が4kWの初期費用は約114万円、2kWの初期費用は約72万円。30年間設置して売電すると、4kWの設備は約133万円、2kWの場合は約38万円の収支差額が出るとしている。現行の制度では、設備を導入する際に1kWあたり2万円、上限10万円を交付する市独自の補助制度がある。リースやPPAなどを活用して、初期費用を抑える方法もある。
東京都と川崎市の制度を比較
特定建築事業者の
設置義務量は
ハウスメーカーなどの「特定建築事業者」による太陽光発電設備の設置基準量は、以下の計算式により算定される。
「年間供給棟数」×「1棟当たり基準量(kW)」×「算定基準率 (%)」
素案では、計算式の1棟あたり基準量は2kW、算定基準率は70%としている。これは、建築主の意向や土地形状などの事情により、太陽光パネルの設置ができないケースを考慮し、個々の建築物ではなく全体として設置基準量の達成ができればよいとする考え方である。なお、FIT制度による太陽光発電設置容量の平均値は4kWを超えており、2kWという基準量は、かなりの余裕をもった数値であるといえる。
川崎市の素案をもとに試算すると、市内で供給する住宅が年間100棟である特定建築事業者の場合、再エネ利用設備設置基準量は140kWとなる。太陽光発電を設置しない建物が一定程度あったとしても、年間の合計で140kW以上を設置することにより、義務を果たすことになる。下の図のように、100棟のうち45棟で太陽光パネルを設置しなくても、義務量に達し基準に適合することがわかる。
対象事業者の基準適合イメージ
市内で供給する住宅が100棟の事業者の場合
東京都の制度は
算定基準率を3分類
東京都は、「1棟あたり基準量」を川崎市と同じ2kWに設定している。「算定基準率」は、都内の区市町村を3つに区分けし、都西部と千代田区、中央区が30%、中央部が最も高い85%、東部は70%としている。都内一律の算定基準率である85%を適用することも可能だ。義務対象となる「特定供給事業者」は、都内で年間に延べ床面積の合計で2万㎡以上を供給するハウスメーカーなどの建物供給事業者だ。対象となる事業者は約50社で、年間新築棟数の約5割をカバーする。年間供給5000㎡以上の事業者またはグループのうち、希望者は、「任意参加者」として制度に参加することができる。
川崎市は2022年11月に条例改正の素案をつくり、パブリックコメントを募集した。その結果、1864件の意見が寄せられ、地球温暖化などへの配慮から賛同する意見が半数を超えた。その一方で、災害時の水没や火災などによる感電リスクを指摘する内容の意見が145件あった。太陽光パネルの設置費用や維持費用、廃棄費用の負担を心配する声も58件あった。福田紀彦市長は「義務化という形をより効率的に効果的に発現させていくという意味では、川崎の特徴に合った何らかの支援制度を考えていく必要がある。今後しっかりと皆さまのヒアリングなどを行いながら検討していきたい」と話している。
東京都 区市町村ごとの算定基準率
取材・文/高橋健一
SOLAR JOURNAL vol.46(2023年夏号)より転載