全国初の事業用発電パネル課税導入の行方は? 岡山県美作市が条例案を上程
2020/04/08
岡山県美作市が審議中の「事業用発電パネル税」。導入が決定すれば、全国初の課税となることから注目を集めているが、一方で太陽光発電事業の障害になるという反対の声もある。パネル税発案の背景とその影響を調査した。
課税導入は継続審議に
全国初の「事業用発電パネル税」導入の是非に注目が高まっている。岡山県の北部に位置する美作市(萩原誠司市長)は、法定外目的税として事業用発電パネル課税の条例化を市議会で審議している。
事業用発電パネル税は、市内に設置した太陽光発電パネルの面積に応じて課税する。課税基準はパネル面積1㎡当たり年間50円の案となっている。標準的な50kW未満の低圧太陽光発電所で年間2万~2万5000円の課税となり、市の税収としては年9400万円を見込むという。
美作市は2019年6月に条例案を議会に上程したが、まとまらず、6月議会、9月議会、12月の議会、2020年3月の議会と、4議会連続で継続審議となった。2020年6月の定例議会での結論が注目されている。
条例が可決されれば全国に普及する可能性が高く、太陽光発電事業の今後の導入拡大に強いブレーキとなる。美作市の条例案が仮に全国に適用されると、年間計2000億~3000億円の税収になるとの試算もあり、太陽光発電コストをさらに引き上げる。
太陽光発電の主力電源化に
ブレーキ
美作市は2018年7月の西日本豪雨などにより被災。市内で稼働する計約200MWの太陽光発電事業でも、損壊などが発生して市が対応に追われた。2019年5月に経済産業省OBの萩原市長は、それら対策費用の財源確保として「事業用発電パネル課税条例案」を議会に提案したことが契機となっている。
条例案は全部で21条と附則からなり、課税対象と納税義務者、課税標準と税率(1㎡当たり50円)、課税標準の特例などを規定。議会で可決されれば法定外目的税として課税し、総務大臣の同意を得た日から3ヶ月後に施行するとしている。課税税率の1㎡当たり50円は、太陽光発電の1kWh当たりの発電コストに換算すると0.3円程度の負担になるとされる。
自治体が独自に法定外目的税として課税している例には、原子力発電所に対する使用済核燃料税や別荘税などがすでに存在し、国の政策と大きく矛盾しなければ、総務省の同意はそれほど難しくないといわれている。しかし今回のパネル税は、経産省が進める再生可能エネルギーの導入拡大と太陽光発電の主力電源化にブレーキをかけることになる。
太陽光発電事業者連盟が
反対表明
美作市によるパネル税条例案に対しては、業界団体の太陽光発電事業者連盟が法人事業税等との二重課税であり、特定の発電方式のみを対象とすることで電気事業の公正な競争を阻害するなどとして、反対を表明。
太陽光発電事業者連盟は、2019年11月下旬にパネル税の問題点の理解を広めるためのシンポジウムを美作市で開いている。
法定外目的税の創設は自治体固有の権利であり、それなりの合理性が認められれば総務大臣も同意せざるを得ないが、国が進める施策に支障をきたすと判断されればノーとなる。
一方で、美作市のパネル税は、市内の特定課税対象者が創設する「課税額に相当する寄付金」を市に提供すれば、課税義務を免除する規定があるため、条例化によって影響を受ける事業者との事前交渉で、それが首尾よく運べば制定が回避されるのではないかという見方もある。
太陽光発電は急速に普及拡大したために、残念ながらいくつかの発電施設は地域住民と軋轢が生じ「地域の迷惑施設」扱いをされているものも散見される。そうした認識に立つならば、太陽光発電業界自身が自己努力で地域経済の振興に役立つ開発方式を編み出す必要がある。
美作市のパネル税案騒動は、地域に歓迎される太陽光発電事業に一刻も早く脱皮する契機ととらえるべきだ。
DATA
取材・文/南野彰