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洋上風力導入が日本で本格発進! 経済波及効果は15兆円との試算も

新型コロナウイルス禍による不況から回復する「グリーンリカバリー」をするのならば、日本では洋上風力発電の導入加速がうってつけだ。欧州の洋上風力発電における環境整備にならい、日本でも導入拡大のための準備が進んでいる。

洋上風力発電が
日本にもたらすメリット

洋上風力発電開発は多くの新規事業を創出し、関連事業を振興する。例えば、海上に風車を備えつける工事をするのに、SEP(自己昇降式作業台)船などの専用の船を日本でも新しく造る。さらに長年の潮風に耐えられる炭素繊維強化プラスチック製ブレード(風車の羽根)の生産や、100m以上のタワー、基礎部分の海洋設置工事、送電ケーブルなど多種多岐にわたる。これらの事業は、日本のものづくり産業の強みを十分に発揮できる。

日本風力発電協会は、2030年までに累計1000万kWの洋上風力を日本に導入すれば、経済波及効果が13~15兆円程度になると試算している。欧州のように新型コロナウイルス禍による不況から回復する「グリーンリカバリー」をするのならば、日本では洋上風力の導入加速がうってつけといえよう。

日本風力発電協会の加藤仁代表理事は、「日本政府は、2050年度に国内の温室効果ガスを8割減する目標を掲げている。この目標を実現するためには、CO2を排出しない30~50万kW規模の大型発電所を次々と建設・運転開始しないといけない。現実的に考えると、その発電所は洋上風力しかない。実際に欧州ではどんどん建設を進め、発電コストが想定以上に下がっている。好循環を生み出している」と訴える。

IoT活用により
風車の効率を高める

再エネ発電所は、新型コロナ禍の影響で開発が滞っている。しかし、長期的にみれば主力電源に向けて発電コストの低減と高性能化を両立させながら、着実に導入拡大していく環境整備が進んでいるといえる。

風力発電を長年研究している大学教授は、「デンマークの風車メーカー大手のべスタスは、ビッグデータやAI(人工知能)などによるIoT(あるゆるモノがオンライン化)を活用して風力発電の稼働率を飛躍的に高めている。世界中に納入した風車をオンラインで接続、稼働状況の情報を収集してビッグデータにしている。そのビッグデータをAIで分析し、風車の壊れそうなカ所を事前に予測する。事故が起きてから修理・補修作業をすると時間、コストがかかる。事前にわかれば風の弱い時期に、前もって予測故障カ所を取り替えることができる。事故を未然に防ぐことができるのだ。」と強調する。

この環境整備は、PM(プリベンティブ・メンテナンス=予防保守)といわれる手法だ。海上の遠い場所もオンラインで常時、機器の状態を監視・診断するCMS(コンディショニング・モニタリングシステム)によりいまあの風車はどんな状態なのか、振動があって歯車の調子が悪いかなどを分析できる。

また、洋上風力が急拡大する風力発電産業は今後、大量のメンテナンス要員が必要になるという。1000kW当たり2~2.5人で、日本だけで20年から24年に2500人くらいだ。人材を育成するのには時間がかかる。

そこで、日本では全国の大学がエンジニア、メンテ要員の人材育成に取り組んでいる。長崎県と長崎大学、日本財団は産学官で海洋開発人材育成を進めており、北九州市立大学は洋上風力発電の産業集積拠点であるドイツのブレーマーハーフェン市の大学と提携。足利大学では風力の専修コースを大学院でつくり、青森県の弘前大学でも風力の専修コースを設置する準備が行われている。

欧州の買い取り価格
10円/kWhを切る

政府もようやく日本の洋上風力普及に力を入れはじめた。2020年7月に初会合を開いた洋上風力発電官民協議会は、洋上風力発電を今後の主力電源化とするため、「導入の拡大、関連産業の競争力強化と国内産業集積、インフラ環境整備、コストの低減」などの課題を官民で共有し、その対応策を具体化する。

協議会は会長と執行部を置かず、大手電力会社はじめ再生エネ事業者、機器メーカー、土木工事等を担う建設業、金融関係、これに風力に詳しい有識者が名を連ね、官主導で舞台を回す。

日本が洋上風力産業の“後進国”と指摘されるのは、現在の開発規模から見ても明白だ。欧州全体では2019年の導入規模が約2300万kW(出力ベースで原子力発電所23基分)近くあり、30年には6500~8500万kWの目標を掲げる。すでに年間導入平均は約100万kW(01~17年)の水準という勢い。この落差は発電コストにも表れ、欧州の最近の落札額は10円/kWhを切る事例が出ており、日本のFIT価格36円/kWhとは大差がついている。

日本のこれからの巻き返しに期待する。


長崎県五島市沖では洋上風力発電の導入が先駆けて進んでいる(筆者撮影)


取材・文/南野彰

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