日本の電力流通が変わる? エネルギーは”集中型”から”分散型”へ
2018/11/09
これまで電力システムは、大手電力会社がそれぞれの発電所で発電し、その電力を各地域に送配電する「中央集権型」。しかし、再生可能エネルギーの普及および仮想通貨に使われているブロックチェーン技術の応用で、電力の歴史が大きく動こうとしている。
ブロックチェーンで分散型へ
日本では今、電力システムが劇的な転換点を迎えている。これまで大手電力会社が独占していた電力事業において、まさしく「電力シェアリングエコノミー」とも呼べるような状況が生まれつつあるからだ。
シェアリングエコノミー(共有型経済)とは、物・サービス・場所などを所有・独占するのではなく、多くの人と共有・交換して利用するというもの。例えば、一般人が自分の空き時間と自家用車を使って他人を運ぶ「Uber」などが代表的な例だ。
固定価格買取制度(FIT)で普及した太陽光発電は、FIT価格の低減とともに売電型から自家消費型へとシフトしている。FIT以降はメガソーラーなど産業用の大規模集中型が主流だったが、今後は住宅や工場の屋根上を使うような小型・分散型が新たな主戦場となっていくだろう。
2019年以降、住宅用において余剰電力買取制度の買取期間が終了することも、自家消費型、分散型へのシフトに拍車をかける。蓄電池の導入コスト低下なども、その流れを後押しする。
そんな中、下の図のように、在来型の電力流通構造が大きな変化を遂げ、電力シェアリングエコノミー時代の幕開けとなりそうだ。その理由は、仮想通貨で世間に知られるようになった「ブロックチェーン技術」の発達である。
これまでは大手電力会社が火力、原子力など大規模集中型の発電施設で電気を作り、送配電網を通じて需要家(一般家庭などの電力消費者)に小売りされていた。
だが再生可能エネルギー、特に太陽光発電が普及したことに加え、仮想通貨で使われるブロックチェーン技術の発達が、既存の流通構造に大きなインパクトを与えた。
電力会社や、需要家の電力需要を束ねてエネルギーマネジメントをする「アグリゲーター」のような第三者を介さず、安価で安全な電力取引が可能になったからだ。
その詳しい仕組みについて、みずほ銀行産業調査部の調査レポートをもとに見てみよう。
在来型電力事業と電力P2P取引のバリューチェーン
【在来型の電力流通構造】
電力は現在、電力会社が大規模集中型施設で発電し、送配電網を通じて一般家庭など電気を使う需要家に小売りされる流通構造である。
【電力P2P取引の流通構造】
プロシューマ―の余剰電力を近隣の需要家に売電する際、ブロックチェーンなら仲介者がいなくても直接電力の価値を移転できる。
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
例えば、太陽光パネルを保有する「需要家A」が発電した電力を自宅で消費し、余った電力を近隣の「需要家B」に売電するとする。ここでAとBが近隣であっても、現状の電力システムでは、電力会社やアグリゲーターがいったんAの電力を買い取ってからBに売電せざるを得ない。そこには中間マージンが発生する。
これがブロックチェーン上の取引なら、仲介者がいなくてもAからBに対して直接電力の価値を移転することができるのだ。このような取引を、電力のPeer-to-Peer(以下、P2P)という。
さらにIoT(モノのインターネット)と組み合わせれば、より安価な電力を提供する「プロシューマー」を見つけ出し、直接売買を実行できる。ピークタイムなどで電力会社から購入する電気料金が高くなると予想される時に、スマートメーターがその判断を下す。
ここでいうプロシューマーとは、自宅で発電した電気を自家消費し、余剰分は他の住宅などへ売電するという、電力を生産も消費もする生産消費者のことだ。
取引の資金決済は「スマートコントラクト」により、ブロックチェーン上で完結できる。スマートコントラクトとは、商品購入から支払いまでの間に仲介者を必要とせず、中間の手続きが全て自動化され、契約内容も改竄されにくい、安全な取引を実現する技術だ。
こうした技術革新が、これまでの「中央集権型」の電力供給システムを、需要家間で電力を融通しあうP2Pの「自律分散型」システムへと変貌させるのだ。
これは、需要家側のエネルギーリソースをIoTなどの活用で統合制御する仮想発電所「Virtual PowerPlant」(VPP)よりも、さらに分散化を進めた姿でもある。
電力は集中型から分散型へ
電力システムは、集中型の大規模な発電事業から、ブロックチェーン技術を活用した分散型の電力P2P取引に移行していく。
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
そんな時代が来るのをすでに見据え、ベンチャーから大手まで入り乱れて、電力シェアリングエコノミーのビジネス化を推し進めている。次回からは、その具体的な事例について紹介したい。
取材・文/大根田康介
SOLAR JOURNAL vol.27(2018年秋号)より転載