世界では「買取価格3円」も!? FIT低下で日本はどうなるのか(後編)
2019/05/01
FIT価格の低下により、「コスト削減」が叫ばれている太陽光発電。とはいえ、原子力発電は超高コスト、火力発電は環境面において有り得ない。今後、太陽光発電が主力となることは容易に想像できるのだ。環境経営コンサルタントの村沢義久氏による連載コラム第5回(後編)。
世界では「買取価格3円」も
「買取価格がこんなに下がるとコスト削減が追い付かない」という意見も少なくないが、それは準備不足によるもの。買取価格は、(少なくとも建前上は)現場でのコストの低下を見ながら下げてきている。つまり、コスト低下の方が先行しているのだから、努力している事業者にとっては対応できるのが当然だ。今、慌てている事業者は退場せざるを得なくなるだろう。幸い、筆者が親しくしている企業の中では当分脱落者は出なさそうだ。
諸外国を見渡すと、買取価格3円、5円という例もある。コスト後進国である日本ではそこまでは難しいが、「8円ぐらいまではやれる」と言う元気な企業もある。考えてみれば、太陽光パネルもパワコンも、買取価格の低下以上のペースで下がってきているのだから不思議ではない。
経産省は、14円という買取価格を決定するにあたり、目標IRRを2018年度の5%から4%に引き下げた。前編(リンク貼る)で述べた西日本の案件は、思惑通りいけば、年間日照時間1150時間想定で、IRR4%が可能。その場合の発電コストは地代、メンテ費用を含む総コストベースで9.8円/kWhになる。
実際には、この地域の日照時間は1300時間以上なので、IRRは6%以上、発電コストは8.6円/kWhになりそうだ。このレベルだと、全ての電源エネルギーの中で太陽光発電が最も安いことは明白だ。
海外案件全滅の原発は
超高コスト電源
対照的に、主要な電源の中で最高コストであることが明確になったのが原発であり、「低コスト」という神話は完全に崩壊した。
政府は、原発コストについて10円強/kWhと言っているが、実際にはその数倍になるはずだ。その証拠に、日本メーカーによる海外原発案件が全滅している。
当然、原発をインフラ輸出の主力に、という政府の目論見も崩壊した。東芝、日立、三菱重工が、それぞれ、アメリカ、イギリス、トルコで進行中の原発案件から撤退することになった。原因はいずれもコストが当初想定の2倍程度に膨らんでいることだ。
これら日本メーカーは「世界最高水準」のはずの安全対策を提示したのだが、世界では全く通用しなかった。十分な安全対策を採れば原発は高コストというのが世界の新しい常識だ。しかも、追加コストは安全対策に留まらない。
例えば、廃炉のための引当金、空中攻撃を含むテロ対策や事故の場合の避難場所の確保。それらを考えると原発は「超高コスト」となり、もはや商業的に使える電源でなくなっている。
原発は高コスト
出所:各種データから筆者が作成。
太陽光発電しかない
火力発電も限界に達し、特に石炭火力は終わりだ。安倍首相は「日本の石炭火力発電所は世界一クリーン」と言い、その輸出を進めようとしているが、大きな間違いだ。
そもそも、発電量1kWh当たり、石炭は天然ガスの2倍以上のCO2を発生する。日本製はそれがほんの少し少ないというだけで、非常にダーティーな電源であることには変わりない。
解決策として、CO2地下貯留との組み合わせを提唱する声もある。確かにそういう技術は世界で一部活用されてはいるが、コスト的に到底見合うものではない。
そんな中で、石炭火力発電所の国内での建設のみならず、輸出まで進めようとする日本に海外NGOなどから非難が集まっている。このような状況から、今後の電源は自然エネルギーに頼らざるを得ないことは明白だ。
その中で、風力については、日本では風況が悪い上に騒音問題などもあり、小型風力も含めて普及は停滞している。小水力とバイオはクリーンであり経済性も悪くないが、資源量が限られる。
今後のエネルギー源は、太陽光が主力であることに議論の余地はない。
プロフィール
環境経営コンサルタント(合同会社 Xパワー代表)
村沢義久
東京大学工学修士。スタンフォード大学MBA。経営コンサルティング会社日本代表、ゴールドマンサックス証券バイスプレジデント(M&A担当)などを歴任の後、2005年から2010年まで東京大学特任教授。2010年から2013年3月まで同大学総長室アドバイザー。2013年4月から2016年3月まで立命館大学大学院客員教授。現在の活動の中心は太陽光発電と電気自動車の推進。Twitterは@murasawa。