日本政策の盲点とは!? 再エネ100%は現実なのか
2017/04/19
“非化石価値”ではなく“再エネ価値”を。デンマークと比べると2周回遅れの電力政策が展開されているという、日本の政策の盲点とは? 政府や産業界から独立した非営利の環境エネルギー政策研究所所長が語る。
新市場は意味がない
環境価値の見直しが必要
アメリカ大統領となったトランプ氏は、これまでオバマ氏がじわじわ立て直してきた環境政策をぶち壊すでしょう。しかし、勝ち馬に乗りたい人はすでに再生可能エネルギーに走っており、その大きな流れは止まりません。グーグルやフェイスブックなど多くのグローバル企業が「再エネ100%」を実現しようとしていることからも、それが分かります。
そんな企業のある日本法人の担当者と話した時、「再エネ100%は中国だってできるのに日本ではなぜかできないんですよ」と頭を抱えていました。それほど日本の制度は歪んでいるのです。
日本では、固定価格買取制度(FIT)における純粋な「環境価値=再エネ付加価値=CO2排出削減価値」は、今や自家発電による再エネ分くらいしかありません。それはなぜでしょうか。
現在のFIT電力は、電力会社が負担する「回避可能原価」プラス、全国民が薄く広く負担する「環境価値」を含む「再エネ賦課金」という2階建て構造です。その上で経産省が、「環境価値は全国民に帰属するため、電力会社が再エネ電気であることを付加価値とした表示・販売を認めるべきではない」と、再エネも原発も同じ電気として扱おうとしているからです。
FIT制度では「再エネ賦課金」は理論上いずれゼロになるため、現行制度のままでは「環境価値=「再エネ付加価値」もゼロになってしまう。制度設計が最初から間違いなのです。
政府はこんな過ちの上に、さらに「非化石価値取引市場」という過ちを重ねようとしています。「非化石電源」とは、原子力発電、水力発電、再生可能エネルギーのこと。その比率を2030年度に44%以上にするため「非化石価値」を証書化し、取引する新市場をつくるということですが、こんなものを通用させたらそれこそ世界の笑いものです。
問題解決には、「再エネ賦課金」と「環境価値」を分けて、「回避可能原価」を加えた3階建てにすれば良い。そうすれば原発を混在させた「非化石価値」など作る必要はなく、「再エネ付加価値」も非常にきれいに整理できるのです。
先行くデンマーク
取り残される日本
日本の再エネについて見ると、たとえばバイオマス発電は急速に計画が形になろうとしている一方で、材木不足など国内の資源問題が出てくるでしょう。各バイオマス事業者に聞くと、「燃料となる海外のパームヤシは長期的に契約して安定している」と言いますが、どう考えても不足します。日本のバイオマスは制度設計が悪すぎるのです。
たとえばデンマークは、熱源から電力と熱を生産し供給するコジェネが発達しており、むしろピークアウトしつつあります。バイオマスを使うにしても、バイオガスを天然ガスにグレードアップして使います。また、国内を循環するバイオガスパイプも作ろうとしています。しかも、全電力のうち風力発電のシェアが43%で、しかも圧倒的に安いのです。
デンマークはコジェネを卒業して、あとは風力を高めればいいという状態。一方の日本は、コジェネも地域熱供給もできておらず、2周回遅れくらいの電力政策が展開されています。これは政府方針もさることながら、それを社会に普及させるベースとしての知識と技術レベルの差ですね。日本は再エネ政策が非常に目づまり状態なのです。
プロフィール
認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP) 所長
飯田哲也
自然エネルギー政策の革新と実践で国際的な第一人者。持続可能なエネルギー政策の実現を目的とする、政府や産業界から独立した非営利の環境エネルギー政策研究所所長。
Twitter:@iidatetsunari
取材・文/大根田康介
『SOLAR JOURNAL』vol.20より転載