早稲田大、世界初の小売電力市場メカニズムを開発! 送配電網の最適運用へ
2020/06/17
太陽光発電や蓄電池の登場によって、送配電ネットワークは複雑さを増している。その最適な運用は、日本だけでなく世界の課題だ。早稲田大学が、この運用をリアルタイムで最適化する画期的なメカニズムを開発したと発表。世界初の快挙に注目が集まる。
複雑化する送配電ネットワーク
小売電気市場の運用方策は世界初
送配電ネットワークでは近年、再生可能エネルギー発電や蓄電池など、分散型電源が急速に増えている。これは、ネットワークが構築された当初には想定されていなかったものだ。加えて、新規の小売電気事業者が参入し取引が活発化することで、電力の取引形態も複雑になっている。
実は、こうした状況は日本だけでなく世界でも問題視されている。分散型電源のような物理的制約を加味した小売電気市場の運用方策は、各国で模索されているところだ。
早稲田大学が5月25日に発表したのは、包括的な小売電力市場メカニズムの枠組み。前述した課題の解決につながる、世界初のシステムだ。複数の地点における電力量の変化や、小売電力市場の参加者の意思などを反映しながら、リアルタイムで最適な電力需給調整が可能となる。
このメカニズムは、経済分野の市場メカニズムと、システム制御分野の分散最適制御の理論を、電力分野に応用したものだ。同大学理工学術院の和佐泰明講師、内田健康名誉教授、米国マサチューセッツ工科大学のアヌラドハ・アナスワミ博士らの研究グループによって開発された。
今回発表された枠組みは、日本だけでなくアメリカの電力市場にも適用可能とされる。複雑化する電力マーケットの解決策として、大いに期待されている。
国内の実送配電データで検討
送配電網の“省エネ”になるか?
世界初とされるこの新技術について特筆すべき点は、実運用に展開しやすいところだ。検討に当たっては、日本に実際にある配電系統モデルを用いた。この配電系統モデルは、2017年に公開されたもので、当時の東京電力パワーグリッド、中部電力、関西電力が運用する実際の配電線データに基づいて構築された(参照:『配電系統モデルに地理情報を追加、早稲田大学が公開』)。
こうした詳細な検討の結果、電力の供給に合わせて需要を変化させるデマンドレスポンスを実施することで、電力消費量を約5%削減できることが明らかになったという。つまり、送配電ネットワークの運用次第で、消費する電力量を低減でき、大きなエネルギーの節約につながるといえる。
今後は、日本の制度により適したメカニズムにするため、実証実験などを通してエビデンスを蓄積する予定だという。国内はもちろん、海外の電力システムにも適応できる画期的なメカニズムへの眼差しは熱い。
DATA
早稲田大学プレスリリース:包括的な小売電力市場メカニズム開発
文:山下幸恵(office SOTO)