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地域主導の脱炭素実現の手引き『地域脱炭素ロードマップ』とは何か

「地域脱炭素ロードマップ」は、地域の成長戦略ともなる地域脱炭素の行程と具体策を示したものだ。その具体的な中身とは? エネルギージャーナリスト・北村和也氏が解説する、連載コラム第27回。

改正温対法が今年5月末に成立した。2030年の脱炭素の目標「二酸化炭素46%削減」に対し、地域に主導権を委ねて実現を図ろうとする指針である。環境省は「地方創生につながる再エネ導入の促進」とし、脱炭素が地域活性化につながるという一石二鳥的なメリットもあるとしている。

改正法では、自治体に脱炭素の具体的な目標を立てるよう促したうえで、地域の民間と一緒になってまず促進区域での再エネ拡大を進める。ここまでは、前回のコラム(参考『改正温対法が求める「地域主導の脱炭素」』)で示した。今回は、2030年に向け、地域での脱炭素の具体的なガイドとなる「地域脱炭素ロードマップ」の話をしたい。

脱炭素重点対策のトップ
自家消費型太陽光発電

脱炭素ロードマップの冒頭に、キーメッセージとして、以下のようにある(要約)。「今ある技術で取り組み」「再エネなどの地域資源の最大限に活用することで」「地域課題の解決に貢献」する――と。2030年と、目標までにすでに10年を切った現時点で、できることからやるしかないとの表明でもある。

ロードマップの脱炭素の基盤となる重点対策は以下のようなものだ。

①屋根置きなど自家消費型の太陽光発電
地域共生・地域裨益型再エネの立地
③公共施設など業務ビル等における徹底した省エネと再エネ電気調達と更新や改修時のZEB化誘導
住宅・建築物の省エネ性能等の向上
ゼロ・カーボンドライブ(再エネ×EV/PHEV/FCV)
⑥資源循環の高度化を通じた循環経済への移行
⑦コンパクト・プラス・ネットワーク等による脱炭素型まちづくり
⑧食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立

①にあるように、トップに上がるのは、屋根置きなど自家消費型の太陽光発電となっている。

また、③、④に見られるように、本来、脱炭素のベースとなるのは省エネである。ただ、ここでいう省エネは、エアコンの設定温度を暑さや寒さに耐えて変える我慢ではなく、日本が世界からはるかに遅れている家屋などの断熱性能を上げるなどのエネルギー効率化のことである。しかし、このような省エネの実現にはかなり時間がかかるため、とても2030年には間に合わない。

かくして、技術的には全く問題なく、スペースさえあれば実現可能な自家消費型の太陽光発電に頼ることになった。②にある「地域共生型の再エネの立地」も、太陽光発電を念頭に置いている。

膨らむ、太陽光発電への期待

環境省は、7月6日の再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会で、環境省としての取り組み方針を明らかにした。ここでは地域脱炭素ロードマップで掲げる自家消費型を含む大量の太陽光発電導入の具体的な数字などを明らかにしている。


自家消費型と地域共生型の太陽光発電
出典:「再エネの更なる導入に向けた環境省の取組方針」(環境省)

まず、上図のように、ロードマップの重点対策にもある自家消費型と地域共生型の太陽光発電を前面に押し出した。それぞれ、目標の数字が挙げられている。

①公共部門の率先実行(自家消費型、地域共生型)
国・地方公共団体が保有する設置可能な建築物屋根等の約50%に太陽光発電を導入することを目指し、2030年度までに6.0GWの導入を見込む。

②民間企業での自家消費型太陽光
2030年度までに少なくとも10GWの導入を見込む。

③地域共生型太陽光発電
約1,000の市町村が公有地や脱炭素促進区域等において導入に取り組むことにより、地域と共生する太陽光発電を2030年度までに4.1GW導入することを見込む。

①でいう50%とは、「2030年には設置可能な建築物等の約50%に太陽光発電設備が導入され、2040年には100%導入されていることを目指す」というロードマップでの目標を前提にしている。さらっと話したが、これが決定的に自治体を拘束することになる。

現状の自治体に自費で太陽光パネルを設置する余裕はなく、ロードマップでもPPA(第三者所有型)の太陽光を勧めている。この結果、自治体から莫大なPPAの発注が生まれることになる。改正温対法でも明記されるように、その需要に対応すべきは、地域の力である。地域の施工事業者と地域の新電力、地域金融がコラボすることが求められている。

始まった
脱炭素先行地域を目指す争い

合計20GWにもおよぶ太陽光発電の数字について、早くも議論が沸騰している。

経産省は、これを難しいと考えてか、電源構成の基礎には取り入れていない。政府の方針・施策に対して、様々な議論があるのは当然である。しかし、最大限の再エネ導入を進める必要がある中で、実現性よりもまずは宣言のほうが重要ではないだろうか。

地域脱炭素ロードマップの目玉は、この項目のタイトルにもした「脱炭素先行地域」である。2025年までに100を超える地域に脱炭素先行地域を設定し、2030年度までにカーボンニュートラルを先行して実現しようというものだ。これをいわゆる「脱炭素ドミノ」で全国に広げる意図がそこにはある。

ただし、脱炭素先行地域のハードルはかなり高い。「民生部門(家庭部門及び業務その他部門)の電力消費に伴うCO2排出実質ゼロを実現し、運輸部門や熱利用等についても、国全体の2030年度目標と整合する削減」と示しており、2030年までに当該地域の電力を100%脱炭素化し、熱利用や交通ではCO2排出量をマイナス46%に持っていくということになる。

一方で、国などの施策も手厚いものが用意されることになる。今、予想されている強力な支援策が、「再エネ交付金」である。原発に対するサポートに比して語られ始めたが、エネ特(エネルギー対策特別会計)が用いられる可能性もある。複数年度にわたる支援で個別事業対応でないため、自治体にとっても使い勝手が良い。先行地域限定といわれている。
 
すでに、脱炭素先行地域を志向する動きが、少なくない自治体で始まっている。改正温対法もロードマップも、脱炭素の達成は地域活性化がセットになるとうたっている。先行地域に選ばれるかどうかが、地域の将来を左右すると考える向きがあってもおかしくない。

地域主体を肝に銘じる

忘れてならないのは、先行地域でも地元が主であるということである。ロードマップにも、「地域が主体となり、地域特性に応じた効果的な手法を活用し、地域特性に応じて実現」と明記されている。

しかし、これは無理をしてでも地域だけでやれということではない。何より、地域の自治体や民間が地域の情報を最も持っていること、また、地域の業者が最も安価に施工できること、そして、地域の金融が与信を含めたデューデリジェンスを行うことができるという基本条件が整っているからである。こと技術が確定した太陽光発電やコスト削減が前提のPPA、また荒廃農地などの利用など具体的な案件を考えれば自明である。もちろん、EVのVPPやDR利用など高度な技術で地域外の力を借りるのはまったく問題ない。

このように、2030年に向けた国の脱炭素の進め方はほぼ固まった。地域は、早急にこれに対応すべきである。スピードと地域内での連携、この2つが重要なキーワードである。
 

プロフィール

エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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