政策・制度

危機感募る地域脱炭素のこれから。知への尊敬の欠如が失敗を呼ぶ

20年の歴史がある、環境省による地域エネルギーの取り組み。脱炭素先行地域の公募では、どのような点が変更されているのだろうか。環境エネルギー政策研究所 所長の飯田哲也氏が語る。

地域エネルギー20年の歴史
顔の見える人を地域のハブに

脱炭素先行地域の第1回公募で選定された地域は、事業のリアル化にそれぞれ苦労しています。そのため、第2・3回公募では、一般送配電事業者やエネルギー大手の参加する計画が優先的に採択されるようになりました。これは地域主導と逆向きで、環境省自らの経験を見失っているように見えます。

環境省による地域エネルギーの取り組みには20年の歴史があり、第一弾は2004年の「平成のまほろば事業(環境と経済の好循環のまちモデル事業)」でした。「地域エネルギー環境事務所」という地域の継続的な主体の設立に対して、EUと各国政府がそれぞれ3分の1を補助するデンマークや欧州の取り組みに学んで、全国20地域に3年間で5億円の補助を行いました。そのうち、今も順調に事業を続けているのは、補助金のルーツの仕組みを理解して地域エネルギー会社を立ち上げたおひさま進歩エネルギー(長野県飯田市)と備前グリーンエネルギー(岡山県備前市)だけです。2社が成功したのは、どのような設備を作るかではなく、どのような人とチームで取り組むかに焦点を当てたからです。地域の連結の要(ハブ)となる人とチームで事業をスタートしたからこそ、紆余曲折があっても今も続いているのです。

このまほろば事業の教訓に学んだ環境省の第二弾は、ハードではなく人とチームの立ち上げに焦点を当て、2011年に開始した「地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」です。全国7地域にそれぞれ1000万円の全額補助を行って、ほうとくエネルギー(神奈川県小田原市)、自然エネルギー信州ネット(長野県)、しずおか未来エネルギー(静岡県)、徳島地域エネルギー(徳島県)などが生まれました。FIT施行年と重なる幸運にも恵まれましたが、本質は人とチームを作り上げることを重視したことで、これらの地域エネルギー会社は今も積極的に活動しています。

分断された過去の成果や教訓
大企業頼みの構図に危機感

今回の脱炭素先行地域の公募では、行政の執行力の低さを旧一般電気事業者など大手企業の力で挽回しようとしているように見えますが、それでも苦労していると伝え聞きます。そもそも、大企業頼みにすると域外への利益流出もありますが、それ以上に地域の主体的な人とチームの形成が損なわれ、自立的な継続性が期待できません。環境省の内部で過去の成果や教訓が十分に継承されないまま、大企業頼みにシフトしているように見えます。

また「地域エネルギー会社」と「地域新電力」との混乱も見られます。地域エネルギー会社には、電力小売以外に太陽光発電事業、省エネサービスなどいくつもの機能がありますが、地域新電力だけに焦点を当てているように見えます。今、もっともリスクを抑えて取り組むことができるのは太陽光のオンサイトPPAです。行政施設を活用した20年間のオンサイトPPAなら、地域主導型でも進めやすいでしょう。

世界では急激にテクノロジーが進化し、凄まじい勢いで太陽光、風力、蓄電池が主流になっています。日本だけがこの流れに完全に取り残されている理由を深く掘り下げると、政策決定者の考え方が古く、新しい知識や技術に対する理解が追いつかないという点に行き着きます。中長期的な施策を実行するには、政府や自治体のもつ情報をできる限りオープンにして説明責任を果たし、健全なネットワークを築きながら政策を高めることが重要です。


※第4回公募では重点選定モデルに「生物多様性の保全、資源循環との統合的な取組」が新設された。
出典:環境省WEBサイトより筆者作成より筆者作成 

PROFILE

認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP)
所長

飯田哲也氏

自然エネルギー政策の革新と実践で国際的な第一人者。持続可能なエネルギー政策の実現を目的とする、政府や産業界から独立した非営利の環境エネルギー政策研究所所長。
X:@iidatetsunari


取材・文:山下幸恵(office SOTO)

SOLAR JOURNAL vol.46(2023年夏号)より転載

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