【工場脱炭素の進め方①】設備導入を超えたエネルギー戦略、月星製作所に見る脱炭素経営の進展
2026/05/13
工場に太陽光を導入するとき、重視すべきポイントは何か。月星製作所の事例を通して、課題解決に挑んだ3社(WEE、AIKO、シングナリオ)のソリューションを紹介する。明日を見据えたディスカッションも必読!
1.脱炭素目標が書き換える エネルギー投資の判断軸
2.既存設備と立地制約 複合課題への挑戦
3.ホールアースエナジーが提案したトータルソリューション
4.導入効果の定量化と次ステージへの展望
5.最前線の3社が見据える 脱炭素工場の現在地と次の一手
脱炭素目標が書き換える
エネルギー投資の判断軸
工場の脱炭素化に取り組む月星製作所
製造業におけるエネルギーは、いまやコストではなく経営戦略そのものになりつつある。電力価格の高騰に加え、サプライチェーン全体でのCO₂排出削減が求められるなか、企業は「単にどの電力を使うか」ではなく、「エネルギーとの向き合い方そのもの」を問われている。
創業79年、オートバイ用スポークで世界シェア約90%を占める、石川県加賀市の月星製作所は、その問いに対して明確な解を持つ企業である。2030年までにCO₂排出量を30%削減(2020年度比)し、2050年のカーボンニュートラル達成を目指すという目標を掲げ、それを実現するためのロードマップを着実に履行してきた。
オートバイ用部品で圧倒的な世界シェアを誇る月星製作所の生産ライン
その第一段階として導入されたのが、約500kWの太陽光発電設備(第1期)である。これにより再エネ活用の基盤はすでに存在していたが、電力使用量に占める割合は約5%にとどまり、目標達成に対して十分とは言えなかった。
さらに同社は、生産効率の向上と老朽化対策を目的とした工場再編にも着手している。長年にわたる増改築によって複雑化した建屋配置や物流動線を見直し、工場全体の最適化を図る取り組みである。この再編は単なるレイアウト変更にとどまらず、エネルギーの使い方そのものを見直す契機ともなった。
既存設備と立地制約
複合課題への挑戦
第2期として計画されたのは、約1MW規模の太陽光発電設備の増設である。対象となったのは、全22棟ある工場建屋のうち、生産拠点として稼働する複数棟の工場屋根。しかしこの計画は、単純な太陽光パネルの追加設置とは性質が異なる。
月星製作所の加賀工場全景(太陽光発電設備の施工前の様子)
第一の課題は、既設設備との関係だった。月星製作所としては、太陽光パネルもパワーコンディショナーも既存設備に縛られず、最もパフォーマンスに優れた製品を選びたかった。しかし、メーカーの異なる設備を導入することには、運用面でのリスクと複雑性が伴う。新旧の設備をいかに統合し、一元管理するかが問題となった。
第二の課題は、立地に起因する制約である。石川県という積雪地域においては、単にパネルを設置するだけでは安定した発電は見込めない。積雪荷重への対応や発電効率の維持といった、いわば“雪国仕様”での設計が不可欠となる。
さらに、工場再編と並行して進められるという条件もあった。屋根面積には限りがあり、物流動線や建屋配置の変更とも整合させながら、最大の発電量を引き出す必要があった。この点について、プロジェクトの陣頭指揮をとった月星製作所イノベーション推進室の森山氏はこう振り返る。
「既存設備を活かしながら拡張する必要がありましたし、設置条件も決して恵まれているとは言えませんでした。その中で、単純な増設ではなく、発電効率の最大化と運用の安定性、さらに将来拡張までを同時に成立させることが大きなテーマでした」
ホールアースエナジーが提案した
トータルソリューション
こうした複合課題を解決に導いたのが、ホールアースエナジー(WEE)が提案したトータルソリューションだった。同社は、パネルメーカーのAiko Solarと遠隔監視のシングナリオ(thingnario)とアライアンスを結び、両社製品のシナジーを最大限に発揮させるシステムを構築した。
Aiko Solarは独自のN型バックコンタクト技術を用いた高効率パネルにより、限られた屋根面積と北陸特有の日照条件に対して、発電量の最大化で応えた。多雪条件下でのパフォーマンスという観点においても、同社の製品は抜きん出ていた。シングナリオ(thingnario)は、既存設備と新規設備という異なる系統を横断して統合監視できるシステムを構築し、最大の課題であったマルチベンダー管理を解決した。そして、ホールアースエナジーは両社のシステムを統合し、ソリューションの全体設計を担った。
「他社の提案は個別の課題には対応していましたが、ホールアースエナジーの提案はそれらを1つのソリューションとしてまとめ上げていました。既存設備との統合や将来の拡張までを含めて、一貫した考え方が示されていました」と、提案を受けた森山氏は話す。
導入効果の定量化と
次ステージへの展望
その結果として構築されたのが、総出力約1MW、年間発電量約2,034,740kWhの太陽光発電システムである。このシステムの自家消費率は89.62%に上り、電力自給率は22.02%に達する。CO₂削減量は年間約400トン、カーボンクレジット換算では1,850万円相当の環境価値を創出する見通しだ。第1期設備と合わせて、同社の脱炭素ロードマップは前倒しで履行されることになる。
ただし重要なのは、これが到達点ではないという点だ。「今回の導入はゴールではなくスタートです。既存設備を含めて全体を見える化できたことで、次にどこをどう伸ばすべきかが明確になりました」と森山氏は言う。
将来的には総出力約2.6MW、電力自給率30%規模への拡張、さらには蓄電池やソーラーカーポートの導入も視野に入る。今回のプロジェクトは既存設備と新規設備を統合した“脱炭素基盤”を構築し、次の領域にスムーズに繋いでいくための出発点なのである。
ホールアースエナジーが提案した
ソリューションプラン

脱炭素経営において問われるのは、単発の最適解ではない。制約条件を織り込みながら、将来に向けて拡張可能な基盤をいかに構築できるかが大きなポイントとなる。本事例は、その問いに対する明確な答えを示していると言っていい。続く各論では、月星製作所の脱炭素基盤構築を支えた3社それぞれの取り組みを紹介する。
・【工場脱炭素の進め方②】最適解を導く統合力でエネルギー戦略を具現化:ホールアースエナジー(WEE)
・【工場脱炭素の進め方③】発電量の最大化を追求! 雪や影の影響を抑える新機軸:Aiko Solar
・【工場脱炭素の進め方④】発電設備を統合し 遠隔監視で運用価値を最大化:シングナリオ
最前線の3社が見据える
脱炭素工場の現在地と次の一手
月星製作所の太陽光プロジェクトは、単なる設備導入ではない。設計・発電・運用という異なる領域を担う3社が連携して、最適解を導き出した。ホールアースエナジー(WEE)、Aiko Solar(アイコソーラー)、シングナリオ(thingnario) は、それぞれに何を考え、何を重視してこのプロジェクトに取り組んだのか。3社のディスカッションを通して、製造業における脱炭素のこれからを展望する

3社連携で成立した
全体最適のプロジェクト
ホールアースエナジー・中嶋氏「今回のプロジェクトは、単に設備を組み合わせるのではなく、月星製作所様の脱炭素目標から逆算して全体を設計した点に特徴があります。どの技術をどう組み合わせれば目標達成に最も近づけるかを考え、その結果としてAiko Solar様やシングナリオ(thingnario)様とパートナーシップを組むことになりました」
Aiko Solar・菅野氏「私たちの役割は非常に明確で、発電量の最大化です。特に今回は積雪や部分遮蔽といった条件がある中で、どれだけ実際の発電量を確保できるかが重要でした。カタログ上の効率ではなく、年間でどれだけ電力を生み出せるかという観点で評価いただいたと感じています」
シングナリオ・黄氏「今回の案件では、既設と新設で異なるメーカーの設備が混在することが前提でした。その中で、全体を一つのシステムとして管理できるかどうかが重要なポイントになりました」
ホールアースエナジー・中嶋氏「様々なメーカーの製品を比較検討させていただきましたが、両社の製品は今回のプロジェクトに最適なものでした。発電量を最大化するAiko様の技術と、その運用を支えるシングナリオ様の遠隔制御がなければ、月星製作所様の課題を解決することはできなかったと実感しています」
Aiko Solar・菅野氏「実際の屋根環境では、影や雪による影響は避けられません。その中で発電ロスをどこまで抑えられるかが、年間発電量の差につながります。今回のような条件は、弊社モジュールのABC構造の強みが最も発揮されるケースだったと思います」
運用と可視化で高める
発電価値の最大化
シングナリオ・黄氏「発電量が最大化できても、それを適切に管理できなければ価値は最大化されません。異常検知や遠隔制御、データ分析といった機能を通じて、発電した電力を無駄なく活かすことが重要です。もう一つ大きいのは、やはり“見える化”です。今日では発電量を把握するだけでなく、それを社内外にどう伝えるかという点も重要になっています。ESGの観点でも、データを活用して価値を示していくことが求められています」
ホールアースエナジー・中嶋氏「導入して終わりではなく、その資産をいかに活用するかが、ますます重要になってきています。私たちが導入後の運用や将来の拡張まで含めて提案しているのは、そのためでもあります」
Aiko Solar・菅野氏「モジュールの側でも同様です。初期性能だけでなく、長期間にわたって安定して発電し続けることが重要です。劣化率や安全性といった要素は、運用を続けていくほどに効いてくる価値だと考えています」
拡張前提で進化する
脱炭素工場の将来像
ホールアースエナジー・中嶋氏「月星製作所様については、すでに追加導入や蓄電池の活用といった次のステップが見えています。太陽光だけで完結するのではなく、どう全体としてエネルギーを最適化していくかが、今後いっそう重要になってきます」
Aiko Solar・菅野氏「はい。発電・運用・設計が一体となることで、初めて全体最適が実現します。今回のプロジェクトは、その一つのモデルケースになったのではないでしょうか。太陽光発電の導入を検討している製造業の皆様の参考にしていただければ幸いです」
シングナリオ・黄氏「蓄電池やEMSと連携することで、自家消費やBCP対策はもちろん、電力市場での運用により新たな収益を生む機会も生まれます。工場においても、より高度なエネルギーマネジメントが求められる方向に進んでいくことは間違いないでしょう。私たちに求められる役割も大きくなるばかりです」
ホールアースエナジー・中嶋氏「製造業における脱炭素は、すでに次の段階に入ってきています。それは企業の競争力そのものに関わるテーマだと言えるでしょう。これからもAiko Solar様、シングナリオ(thingnario)様とともに、製造業ほか需要家企業の課題解決に向けて、全力で取り組んでまいります」
・【工場脱炭素の進め方②】最適解を導く統合力でエネルギー戦略を具現化:ホールアースエナジー(WEE)
・【工場脱炭素の進め方③】発電量の最大化を追求! 雪や影の影響を抑える新機軸:Aiko Solar
・【工場脱炭素の進め方④】発電設備を統合し 遠隔監視で運用価値を最大化:シングナリオ
取材・文/廣町公則
SOLAR JOURNAL 脱炭素号(2026年夏)より転載
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