ISEP飯田氏が紐解く「再エネのパラダイムシフト」新たな対立とは
2018/10/12
地球温暖化が深刻化し、再生可能エネルギー市場は日々変化している。再エネの価値やカーボン・オフセットの位置づけ、原発問題……エネルギーを取り巻く様々な「対立」とは? 環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長・飯田哲也氏が紐解く。
集中型と分散型の
新たな二項対立も
世界にはESG投資やRE100といった流れがありますが、ここで大事なのは、気候変動の視点だけから再エネ投資を見ると、本質を見誤る可能性があります。
もちろん、地球温暖化は年々深刻化しており大事な問題です。その気候変動がエネルギー問題の中心に躍り出たのは1990年でした。しかし、2015年のパリ協定の頃を境に、太陽光や風力などを軸とする再エネの時代へとパラダイムが大きくシフトしました。「気候変動中心史観」(気候変動対策のために再エネ普及)から「再エネ中心史観」(驚異的に成長する再エネが結果として気候変動も解決する)へと主客が逆転したのです。
再エネには、エネルギーの自給自足、ナショナル及びローカルセキュリティといった多面的な価値があります。そして、何といっても大規模集中型から地域分散型のエネルギー構造へと破壊的変化を促していく側面があるのです。
これまで、エネルギーはごく一部のパワーエリートが仕切ってきました。しかし、最近はプロシューマーに代表されるように、無数の非パワーエリートが自分事として、自らの意志でエネルギーに取り組む動きが出ています。そのおまけで、地球温暖化が解決される部分もある。カーボン・オフセットはそういう位置づけです。
かつて、グローバルの枠組みでは、原子力発電も温室効果ガスを削減し地球温暖化問題を解決するという変な位置づけの存在でした。しかし、そうではないと決着はすでについています。また、原発派VS反原発派という二項対立も再エネがまとめて解決しつつあります。では、二項対立が解決すればハッピーかというと、そうではありません。今度は再エネの中で、大規模集中型VS地域分散型という対立構図が生まれています。
前者の代表的な存在が洋上風力です。これは、パワーエリートの人が巨大な投資をしている典型で、私は懐疑的に見ています。むしろ後者の、圧倒的大多数のより小さなお金がより地域で回るご当地電力のような取り組みを増やすべきです。私はデンマークやドイツなどでエネルギー自立地域をいろいろと見てきました。実現する前は夢物語のように扱われますが、実現した後はどこも豊かになっています。今や、現実に手の届く形で目に見えるターゲットになっているのです。
また、最近ではエネルギーのデジタル化の動きも加速化していますが、そこでも上からのアグリゲーションないしバーチャルパワープラントVS「sonnen」に見られるような地域をつなぐボトムアップ型のシステムという二項対立の構図が出てくるでしょう。
エネルギーを取り巻く二項対立
原発 VS 反原発
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大規模集中型 VS 地域分散型
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バーチャルパワープラント VS ボトムアップ型システム
太陽光発電市場で注目する
サードマーケットの動き
今後、太陽光発電市場について考える場合、投資目線とエネルギー目線というズレがあるのが気になります。セカンダリーマーケットは施工のリスクを抑えられ、ファイナンスが付きやすいといったメリットがありますが、広がりを見せるかは疑問です。
むしろ、12年後にFITが終了した後の、運転可能な太陽光発電所がどうなるか。終了と同時に廃却される可能性がありますが、今は蓄電池の価格もかなり下がったので、サードマーケットとして蓄電池を整備しながらアグリゲーションする方向性も十分あります。投資家が甘い汁を吸い尽くした後のサードマーケットがどうなるか。こちらの方が面白いと思います。
プロフィール
認定NPO法人 環境エネルギー
政策研究所(ISEP)
所長 飯田哲也氏
自然エネルギー政策の革新と実践で国際的な第一人者。持続可能なエネルギー政策の実現を目的とする、政府や産業界から独立した非営利の環境エネルギー政策研究所所長。Twitter:@iidatetsunari
取材・文/大根田康介
SOLAR JOURNAL vol.26(2018年夏号)より転載