地域資源を活用、目指すは「世界一快適な雪国」
2016/07/29
分散型えエネルギーインフラプロジェクト第3回目は、地域のエネルギー資源を活用し、世界一快適な雪国を目指す弘前市のケースを紹介する。
インフラプロジェクト
・第1回「分散型エネルギー・インフラプロジェクトって何?」
・第2回「「低炭素化社会」の実現は地域の慎重な資源整備から」
地域エネルギーサービスを核に
雪国型コンパクトシティへ
3.11をきっかけに、弘前市は自然エネルギーの資源がないことに危機を感じ、地域エネルギーを考えるようになった。また雪が、多い時で平均80cmの積雪になるので、その解決に地熱・バイオマスによる熱供給にも着目したという。すなわち冬の奥深い雪対策や地域活性化も含めた「スマートコミュニティ」を作ることへの取り組みであり、再生可能エネルギーの効率歴利用や、ICT(=Information Technology 情報・通信の総称)の活用を目的とした。そういったスマートシティ構想を掲げて、弘前市では現在?名のスタッフが奮闘中だ。弘前市都市環境部・スマート推進室のスタッフの1人坪田幸治さんはこう説明してくれた。
「東日本大震災の時、揺れによる直接的な被害は少なかったものの、ガソリン不足や灯油が入手しにくい事態に陥りました。それにまだ寒い時期でしたから、市民は大きな不安に見舞われました」。 これを教訓に地域エネルギーとは何かと考え、災害に強く暮らしやすい街づくりに着手した。そこで、「くらし」「エネルギー」「ICT」という3つのカテゴリーの下で8つのプロジェクトを位置づけて、取り組みを進めている。当然、自治体の力だけではスマートシティの実現は難しいことから、弘前市では民間事業者と弘前型スマートシティ推進協議会を組織して、市内外114社の会員企業と連携して取り組みを進めている。
高齢化や人口減少を見据えて、
行政や市民の大きな負担である
雪に対する危機感が
スマートシティ構想を後押しした。
「現在は6名いるスタッフも、最初はスマートシティ推進室として2名からのスタートでした。エネルギー分野を含めて、さまざまな市町村を見学にいって学ぶところから始めました」。
しかし雪解け用に、すでに碁盤の目のように、整備された城下町の道路に地域温水を送る熱配管を敷くのは容易なことではない。
「お手本として、国内では札幌市に見学に行きました。他には岩手県など限られたところで行われていますね。ドイツなどでも雪の多い地方が参考になります」。
春は、うつくしい弘前城のさくらで有名な弘前、初夏から秋にはりんごの花や実がたくさん成っているイメージだが、冬になると積雪も平均で80cm。それを融かすだけで13億円もかかり市の財政を圧迫してきた。また除雪作業など市民への負担も重い。
「弘前は雪さえ降らなければ本当に住みやすい街なのに、と話す市民は多いです。私もUターンする際に、雪のことでは大いに悩みました。今年で熱配管による雪対策を始めて?年になります。その取り組みの?つとして、今回の総務省の分散型エネルギーのインフ
ラプロジェクトに参加していますが、こちらはまだ計画中です。来年度以降に向けて試作しているところです。その実現によって、安心・安全な雪国が実現できます」。
スマートシティ弘前の構想では、中心市街地にエネルギーセンターを設置して周辺の病院や大型施設に熱や電力を供給する地域エネルギー事業を展開し、その熱導管の敷設と併せて大規模な融雪イフラを同時整備して、将来的には一般家庭への供給も目指す。これによって除雪等の負担を軽減しながら中心市街地の住みやすさや安全性を高める考えだ。また冬季など熱の需要が増える際のバイオマスボイラーの燃料として、近隣地域からも木質チップを調達して、広大なエリアの経済循環を生み出していくことも目標としている。
思い描くのは、雪国でも快適に暮らす、国型コンパクトシティ、その実現を目指している。
次回は、日本初の内陸型森林バイオマスモデルを紹介。
文/金田千里
取材協力・総務省/北海道下川町役場・青森県弘前市役所