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FIP移行前に課題が山積み! 規制強化だけでなく再エネ導入のインセンティブを

2020年度末に向けた「FIT制度の抜本的な見直し」の審議が進められている。しかし、現状の課題が解消されないままでは、再エネの普及に黄色信号がともるだろう。FIT見直しの際に留意すべきポイントを、エネルギー政策研究所(ISEP)所長・飯田哲也氏が紐解く。

FIPへの移行には
卸電力市場の整備が必須

経済産業省において、2020年度末に向けた「FIT制度の抜本的見直し」の審議が進められています。見直しの時期として、今はふさわしいといえるでしょう。しかし、既存の問題点が十分に解消されないままでは、今後の普及に対してネガティブな流れを生み出す危険性があります。

ドイツの先例にならって、固定価格のFITから市場価格と連動させる「FIP」へと進むことが、1つの選択肢ではあるでしょう。ただ、ドイツで成功したのは、その前提として完全にオープンな電力市場が成立していたからです。

日本においてFIPを成功させるには、卸電力市場の取引規模が小さ過ぎることだけでなく、「メリットオーダー」となっていないことも大きな課題です。大手電力会社の発送電分離と同時にメリットオーダーを導入しなければ、FIPの十分な成果は望めません。



FIT見直し“以前の”課題

● 卸電力市場の整備
● 出力抑制の低減
● 系統運用システムのアップデート
● 蓄電池の導入促進
● プラスのインセンティブ強化

実潮流ベースの出力抑制で
過度な実施を防ぐ

出力抑制についても課題が残されています。

九州電力管内では、今年の3月から5月にわたって出力抑制が頻発されました。石炭火力の発電が多すぎることや、揚水発電や連系線が十分に活用されていないなど、見直すべき点が多くあります。実施された内容が適切だったのか、十分な検証が必要です。

先着優先の定格容量ベースではなく実潮流ベースで実施を判断するなど、過大な抑制を慎み、現実とのズレを解消するべきです。そうしなければ、他の電力会社にも出力抑制が無用に広がってしまうでしょう。

系統制御にはITを活用
蓄電池普及への配慮も

系統の問題についても改善が必要です。

記憶に新しい北海道でのブラックアウトでは、現場の技術者の皆さんは全力を尽くされたことと思います。それでも、人の手では不可能な領域もあります。電力システム全体を危機管理できるIT化・AI化された系統システムがあれば、危機的状況を免れられたかもしれません。

蓄電池を後付すると発電所全体の買取価格が下がるという条件がありますが、蓄電池の普及にネガティブな影響を与える可能性に配慮すべきでしょう。たとえば、蓄電池による増設分を切り分けて価格設定するなど、コストダウンが進んで蓄電池の導入が現実的な選択肢となる中、より良い方法を模索するべきです。

蓄電池が普及することは系統の安定化につながります。
 



テスラ製の大規模蓄電池を導入したオーストラリア・南オーストラリア州で、2018年8月には全州ブラックアウトが起こりかねない状況に陥りながら、大規模蓄電池が瞬時に周波数の変動を吸収して事なきを得ました。

VPPやP2Pの電力取引もいずれ始まります。需要と供給の双方向を制御できるように、系統システムと運用思想のアップデートが求められています。

再エネ導入を促進する
プラスの動機づけを

FITを見直すにあたっては、規制の強化だけでなく、プラスのインセンティブを設けることも重要です。

例えば、地産地消につながる設備は優遇する、ソーラーシェアリングは農業者が営農しやすいように農業設備として認める、再エネの優先的な系統連系を約束するなど、内容は様々に考えられます。決して再エネ叩きや負のインセンティブが強化されないよう、“正しく”見直されることを期待します。

 



PROFILE

認定NPO法人 環境エネルギー
政策研究所(ISEP)所長

飯田哲也氏

自然エネルギー政策の革新と実践で国際的な第一人者。持続可能なエネルギー政策の実現を目的とする、政府や産業界から独立した非営利の環境エネルギー政策研究所所長。
Twitter:@iidatetsunari


SOLAR JOURNAL vol.30(2019年夏号)より転載

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