編集部からのお知らせ

太陽光の主力電源化に向けた“O&Mのあるべき姿”とは?

O&Mの在るべき姿を考える本連載。前回に引き続き、新エネルギーO&M協議会専務理事の大門敏男氏、運営委員・普及推進委員の奥山恭之氏の話をお届けする。これからの太陽光発電事業に求められる“O&Mのあるべき姿”を聞いた。

前回の記事『太陽光発電所のO&Mが新たなフェーズに突入する!』

O&Mの全面的な見直し

新エネルギーO&M協議会では、「発電所の長期安定稼働を実現し、適正な収益を確保し続けるためには、これまでの『O&M』を正しく再定義する必要がある」と訴えている。同協議会専務理事の大門氏は、次のように語る。

「『O&M』は『Operation&Maintenance』(運転・維持管理)の略語ですが、保守点検や除草、洗浄等の現場作業を中心に、外注の『O&Mサービス』と混同されている感があります。例えばメガソーラーなど、企業が自社の製造部門として管理し、内製/外注を仕訳したうえで現場作業を中心に外注リソースを活用しても、それはこの業界に限らず、一般的なことです。しかし、事業としての取り組みがなされていない多くの低圧発電所等に、現場作業中心の外注のO&Mサービスをそのまま適用すると、肝心の『経営管理』の要が欠落してしまいます。

太陽光発電システムに限らず、設備の不具合の中には、立地の選定を含め、そもそもの設計・施工・材質に起因するものがあります。電気事業法の下では、そうした不具合も一義的には発電事業者の責任なのですが、発電事業者と設備の販売者・建設者との関係でいえば、後者には『まっとうな発電所』を引き渡す義務があります。これは、法的責任を云々する以前の、企業としての社会的責任です。発電所の運転・維持管理を『O&M』と呼ぶのであれば、こうした不具合への対応が出発点になります。自社で対応できない多くの低圧発電事業者等へは、O&Mサービスの中に、販売者・建設者への修補請求なども含めたいですね。もちろん、いちO&Mサービス事業者で全てができるとは限りません」。

太陽光発電所の不具合の種類は多様だが、目視で確認できる事例をいくつか紹介してもらった。この中には、引き渡し前の事由に起因している可能性が考えられるものや、個人の発電事業者でも容易に視認できるものが多い。ということは、近隣住民にも不安を抱かせかねないということだ。

目視で分かる不具合の数々

フェンスが不適切
フェンスの高さが低すぎて、子供でも侵入が容易。フェンスの役目をはたしていない。

PF管の接続で手抜き
配線を保護するPF管が脱落している。水が入ったり、虫が侵入したりして電線にダメージを与えかねない。

インシュロックで結束
対候性のないインシュロック(結束バンド)を使った場合、数年で破断してしまう。

配線の汚さ
電気配線の取り回しに気を配っていない。

雑草の放置
雑草を伸び放題にしていると、パネルの上に影がかかり、発電量を大幅に下落させる。

パネルの汚れ
太陽光パネルが汚れてしまうと、発電量が大幅に下がることがある。

パネルの割れ
太陽光パネルの強化ガラスも割れることがある。放置していると発電量の下落だけでなく、ホットスポットが発生し火災要因になる危険性もある。

パネルの焼損
太陽光パネルは不具合を放置するとホットスポットが発生し、焼損することがある。

ボルトの緩み
経年でボルトの緩みが発生。放置するとパネル飛散の原因になる。

バックシートの傷
パネル裏側のバックシートに傷があると、雨水等が浸入してパネル破損につながったり、漏電の原因にもなる。

土砂流出
法面設置の場合は厳重な注意が必要。雨水が地盤を削って、下流に土砂を流してしまう場合もある。基礎の埋設部分がむき出しになれば、当然強度は下がり、基礎ごと倒壊する危険性も高まる。

O&Mで発電所の
“将来コスト”にメスを入れる

低圧発電所を例に、一定の前提で運転・維持管理に必要な費用を試算すると、不意の修繕費用を除いても、20年間を平均して年に50万円を超えるという。FIT制度開始からまだ10年を経過していないが、20年間を10年で区切り、大きく前半・後半としてみた時、11年目以降、この費用の問題が顕在化してくる可能性がある。

「設備の償却資産税は年々減っていきますが、その他では、パワーコンディショナ(PCS)その他の設備機器の寿命、3Gサービス終了による遠隔監視システムの代替え、損害保険料の大幅アップ、雑草の強草化・木本化による草刈りの困難など、費用増要因が多々あります。O&Mは本来、こうした“将来コスト”にもメスを入れ、予め対策を視野に入れたものであって欲しい。発電事業者にとって、FIT期間中は良くても、21年目以降、50万円を超える費用は負担できないのではないでしょうか。新エネルギーO&M協議会では、この点に関しても様々な提案を行っています。

例えば、PCSの寿命であれば、メーカーの延長保証の問題も大きく影響してきます。一般に、家電製品のメーカー保証は自然故障を対象にしていますが、PCSは、数社の保証書を見る限り『瑕疵の保証』であって、字面どおりであれば経年劣化や寿命は対象になりません。『瑕疵』の定義が明確になっていないことに加え、発電事業者および販売店・施工店側では、瑕疵の立証ができないという根本的な問題があります。

さらに、不具合が生じても原因調査をせずに、経験則で保証対象か否かを切り分けているメーカーも見受けられます。メーカー保証外で代替えすると、延長保証期間の開始前でも、延長保証料が返戻されないようです」と大門氏は話す。

また、大門氏は、「雑草対策であれば、『草刈り』でしのぐのではなく、物性および施工品質の両面からきちんと評価して選定した『防草シート』を敷設するのが、長期的には安上がりで効果も大きい」という。次の図は、低圧発電所について、一定の前提で草刈り、防草シートおよび除草剤の20年間の費用の累積を試算したものだ。

※新エネルギーO&M協議会では、今年1月に、「防草シート選択のポイント」を作成している。

経営管理だから
ハード面の対策だけでは不十分

「O&Mが適正な収益の継続に貢献するためには、発電量の長期的傾向の管理が欠かせません」と語るのは、同協議会運営委員・普及推進委員の奥山氏。

「一般的な遠隔監視システムは日々のアラート監視が中心なので、発電量の長期的傾向を把握するためには、人手をかけてCSVデータを解析する必要があります。毎年2%の低下でも5年経てば10%ですから、大きな問題です。パネルの汚れや雑草の影響など、故障でなくても発電量が徐々に減っていくことはありますし、季節によっても変わります。これを外注すると、システム手当てがないと、相当な人工が発生します。

ただ、CSVデータの解析は、やり方さえ知っていれば発電事業者自身でできます。当協議会では、そうしたノウハウの提供を含め、『発電事業者向けDIY研修』を4月より開始します」(奥山氏)。

発電量の長期的な傾向の把握は、定期点検等とも連動する。予め発電量の長期的傾向を押さえ、定期点検等では、その視点で原因を探す。出来合いの点検チェックリストでは、こうしたポイントが深堀りできないという。

「経営管理の観点からは、リスクファイナンスも重要です。リスクファイナンスの手段としては、『損害保険』が通常ですが、低圧発電所の多くは、新設から10年間は商品付帯方式の動産総合保険が付保されています。この保険は、直接的には発電設備価格の内法で提供されるため、多くの発電事業者は、これまでのところ保険料を意識することが少ないかもしれません。

しかし、ここ数年の自然災害により、太陽光発電設備について、損害保険会社の収益が大幅に赤字になっており、2019年10月に保険の引き受けを厳格にした損害保険会社もあります。保険料のアップだけでなく、事故のあった発電所は補償内容を制限される、あるいは、そもそもの立地や施工等に問題のある発電所などは保険を引き受けてもらえなくなる、といったことも想定されます。

対策としては、何よりも『まっとうな発電所』にすることです。そして保守点検、修繕等をしっかり行い、その記録を残すことが最低限必要になってきます。今後は、この種の管理ができる発電所の履歴システムが重要になってくるのではないでしょうか。

適正な発電所をつくり、安全を確保するとともに売電金額を最大化するためのO&Mを継続的に実施し、運転維持費を削減する努力をすれば、太陽光発電は今後も儲かる事業であり続けます。それは、国が目指す方向性である“太陽光発電を主力電源にする”ための“長期安定的な発電の継続”と同一歩調となります」(奥山氏)。

太陽光発電のさらなる発展に向けて、O&Mの重要性は増すばかりだ。

画像・グラフ出典:新エネルギーO&M協議会

DATA

新エネルギーO&M協議会
専務理事 大門敏男氏
運営委員・普及推進委員 奥山恭之氏

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