バイデン新政権の大規模インフラ投資計画|脱炭素への近道は「ソーラー」?
2021/08/26
米国が「脱炭素」に向けて大きく舵を切り出した。バイデン新政権は2兆ドル強の大規模インフラ投資計画を発表、さらに米国エネルギー省(DOE)も太陽光発電コスト削減に向け2030年までキロワット時当たり2セントという目標を設定した。
メイン画像:脱炭素化に取り組むバイデン大統領 出典:The White House
コロナ禍で記録更新
米国の太陽光発電市場
米国太陽エネルギー産業協会(SEIA)によると、2020年米国太陽光発電市場は昨年比43%増の19.2ギガワット(GW)で、年間導入量の記録を更新したという。2020年はCOVIDー19の感染拡大とパンデミックによる景気後退が世界中に広がり、さらに、前トランプ政権は気候変動に懐疑的であった。この記録更新は、そのような困難な状況の中でも、米国太陽光発電市場が高いレジリエンスを発揮した結果といえるだろう。クリーンエネルギー革命と先進的な温暖化対策を公約に掲げる新バイデン政権では、更なる市場拡大が期待されている。
大規模インフラ計画には
ITCの長期延長も
そんな期待の中、バイデン米大統領は3月31日、東海岸ペンシルベニア州で演説を行い、「米国雇用計画(アメリカン・ジョブス・プラン)」と銘打った8年間で2兆2500億米ドル(約250兆円)を投資する大規模インフラ計画を発表した。気候変動に対応して、2035年までに100%カーボンフリー電力、より弾力性のあるグリッド(電力網)構築、電気料金削減、大気質と公衆衛生改善、そして、より良い雇用の創出など、国内のインフラ改善・整備を目的としている。
この計画では、老朽化した送電網インフラは太陽光発電を含むクリーンエネルギーへの転換を妨げるとし、少なくとも20GWの高圧送電線の建設を奨励する。また、電気自動車市場の拡大を目指して、電気自動車の充電ステーションを2030年までに50万ヶ所設置、電気自動車の税制上の優遇措置や助成制度が含まれる。
太陽光発電に直接関係するのは、再エネ設備の「投資税額控除(ITC)」の延長提案だ。SEIAによると、2006年にITCが実施されて以来、米国太陽光発電市場は10000%以上にも拡大し、過去10年間で年間平均50%の成長を遂げている。市場拡大に貢献してきたITCは今後数年間で段階的に廃止される予定だったが、バイデン大統領の大規模インフラ計画にはITCを10年間延長する提案が含まれている。10年という長期の延長は異例だが、太陽光発電業界は長期間に渡り安定した投資が促進できると、大いに歓迎している。
2030年までに
太陽光発電コスト60%カット
この大規模インフラ計画が発表される数日前、米国エネルギー省(DOE)は、太陽エネルギー技術の展開を加速するために1億2800万ドルの資金を注入し、今後10年以内に太陽エネルギーのコストを60%削減する――という野心的な目標を発表した。ジェニファー・グランホルム米エネ省長官は、この発表と同時に行われた同省主催の「100%クリーン:どのようにエネルギー省のソーラーへの投資が意欲的な脱炭素の目標達成を支援するか」と題するウェビナーで次のように語っている。
「これは世界におけるクリーンエネルギー市場でアメリカのシェアを主張し、さらに何百万人の雇用を創出する機会です。バイデン大統領はこの戦いに全面的に取り組んでいます。そのため大統領は『2035年までに100%クリーンエネルギー』と『2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロ』という野心的な目標を設定しました。そしてもちろん、これらの目標に最も早く、最も簡単に達成する方法はソーラーです!」。
「2035年までに100%クリーンエネルギーに最も早く、最も簡単に達成する方法はソーラーです」と語るジェニファー・グランホルム米エネ省長官 出典:DOE
米エネ省は太陽光発電のコスト削減を加速させるため2011年に「サンショット・イニシアティブ」を設定し、技術革新研究に助成提供を開始した。同省は2020年までに発電事業用太陽光発電のコストをキロワット時(kWh)あたり6セントにまで引き下げることを目標に掲げた。
「このコスト削減目標が3年前倒しで達成できそうだったので、我々は新たな目標を設定しました。それは(2017年時点の)コストを2030年までに半分、つまり3セントにすることでした。現在の進展の速さからすると、2025年までに3セントを実現できそうです。なので、更なる『新しい・新しい』目標として2030年までに2セントとすることにしました。この目標を達成すれば、米国においてソーラーはどの電源よりも『安く』なります。大統領の現在の目標を早期に満たすだけでなく、加速させるかもしれません」と、グランホルム長官は大きな笑顔で語った。
太陽光発電のコスト削減だけでなく、米国製造企業がクリーンエネルギー革命をリードする新しい機会をもたらすこの米エネ省の資金は、主に研究開発に提供される。例えば、①カドテル(CdTe)薄膜テクノロジーの導入量は現在米国市場のわずか20%であるため、技術革新、リーダーシップと競争性を高めるために2000万ドル、②「ロール・ツー・ロール方式」という印刷方式で低コスト化が大いに期待できる次世代太陽電池・ペロブスカイト太陽電池の研究開発と国内製造技術の拡大に4000万ドル、③ペロブスカイト技術の商業化を加速するためにペロブスカイト・スタートアップ企業へ300万ドルーーなどが含まれている。
本格的な脱炭素化社会に向けてバイデン新政権は、設備投資税額控除をはじめ、技術革新への資金提供、送電網の改善・拡大などの包括的な計画で、太陽光発電の導入拡大への障害となる安定供給やコストの面の課題に取り組んでいる。
2020年時点でkWh当たり4.6セントの事業用太陽光発電コストを2030年までに2セントに削減する目標を掲げる米国エネルギー省 出典:DOE
PROFILE
モベヤン・ジュンコ
太陽光発電電池メーカーで7年間産業経験を積んだ後、2006年から太陽光発電調査会社米ソーラーバズでシニアアナリストとして活躍。2013年よりジャーナリストとして、米国の太陽光発電政策や市場トレンドに関する記事を日欧米のメディアに多数執筆。
取材・文:モベヤン・ジュンコ
SOLAR JOURNAL vol.37(2021年春号)より転載