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【北村コラム】ドイツの最新データで見る、再エネ電力の拡大と熱・交通の脱炭素化の停滞

2024年も4分の3が過ぎ、各国でエネルギー関連の統計などが発信されている。今回のコラムでは、2024年に起きている脱炭素化の特徴とその原因について、ドイツの最新データから解説する。

再エネ電源の1割近い増加と
熱・交通分野での停滞はなぜ起きたのか

ドイツでは、連邦環境庁や連邦ネット庁などが共同で、ドイツ国内の再エネの年初から9か月間のデータをまとめた。資料では、最終エネルギー消費の3つの構成要素(電気、熱、交通)での暦年の変化について、特徴的な動きがわかった。欧州などで表出する脱炭素の進行状況とほぼ同一の傾向で、再エネ電力の順調な拡大に対し、熱・交通分野での停滞がはっきりしている。

下のグラフは、ドイツの複数の連邦機関がまとめた報告書の冒頭に登場する。
最終エネルギー利用の3つの構成分野での再エネによるエネルギー供給量を、2020年から2024年までの5年間分を第3四半期までに限定して、比較している。

第3四半期までの最終エネルギーでの再エネ利用状況の変化(2020年から2024年) 出典:AGEE Stat「Entwicklung der ERNEUERBAREN ENERGIEN in den Sektoren Strom, Wärme und Verkehr」

それぞれ、電力(左:青)、熱(中:オレンジ)、交通(右:緑)の分野での変化が示されているが、2024年の2023年との比較では、分野ごとでの明らかな違いがみられる。
今年の再エネ電力はここまで216.9TWhが作られ、前年に比べ9%増加した。

一方、熱での再エネ利用は、前年比マイナス4%と2021年から3年続いた拡大から昨年、今年と反転している。また、交通部門でも昨年比マイナス0.4%とやや後退し、再エネ電源の好調さとの差が顕著に見られた。

背景には、2021年後半から起きた化石燃料の価格高騰と需要家の脱炭素対応がある。

まず、電力では、CO2の排出に加え値段まで上がった化石燃料に対し、脱炭素ツールとして最も手軽で安価となった再エネが優位に立つのは必然である。今年は、ドイツの全電力需要のうちほぼ3分の2が再エネ電源となっている。

熱では、化石燃料の高騰によってロシアの天然ガスからの脱却が進み、ヒートポンプによる一般家庭での暖房システムへの移行が流行した。ヒートポンプは電気による暖房であるが、補助金を含めると電気代の値上がりがあっても利便性が高くなると判断された。熱での再エネ利用量が、2022年、2023年と右上がりだった理由は、ここにある。EVも同様に手厚い購入時の金銭補助があって、ドイツでは一時期、EVが新車の3割程度になったこともある。

ところが、ヒートポンプは、政府の法案(化石燃料による暖房新設の禁止)が、可決の後に一転延期になるなど政策の腰が定まらず、事業投資に不安が生まれるなどでブームが急激に冷え込んでしまった。

また、EVは財源の関連で、昨年末、1年も前倒しで補助金が打ち切りとなり、EVの売れ行きが落ち込んでいる。欧州の他の国でも、補助金の縮小やEVを急激に伸ばす中国に対抗する追加関税の導入などによって、欧州でのEV拡大は全体としては「踊り場」状態となっている。

しかし、国際機関や世界的シンクタンクなどは、現状のEVなどの停滞は一時的なことだと見ている。家庭や低温を中心として熱のカバーはヒートポンプ、乗用車など近距離の交通手段としてはEVという解決策が最も適切で、他の代替手段は現状では考えられないとされている。補助金や対中国政策など、一定期間いわば人為的な要素が作用しても、いずれ本来の道に戻ると考えられている。
例えば、ドイツではすでにEVに対する補助金の復活話が起きている。

再エネ電源拡大を、
力強くけん引する太陽光発電

拡大を続けるドイツの再エネ電力について、もう少し詳しく見ていきたい。
以下のグラフは、月ごとの再エネ電力の発電量を昨年と比較しながら示したものである。

月毎の再エネ電力の電源別内訳の変化(2023年と2024年) 出典:AGEE Stat「Entwicklung der ERNEUERBAREN ENERGIEN in den Sektoren Strom, Wärme und Verkehr」

グラフの下の段には、左から1月~12月の再エネの発電量が並び、一か月月毎に、昨年(全体に色が薄い)と2024年(濃い)が棒グラフとなっている。棒の色分けは、再エネ電源の種類で、最も上が太陽光発電(オレンジ)、次いで陸上風力発電(青)、洋上風力発電(紺)、バイオマス発電(緑)と続いている。全体の発電量(ここでは1~9月まで)は右端にあり、昨年の198.5TWhから今年の216.9TWhへの拡大がわかる。電源別に見ると、9月までのトータルで太陽光発電による発電量が、昨年比9TWhほど伸びており、増加分の半分と占め、再エネ電力拡大の主役であることを示している。

細かいが、ドイツの太陽光と風力発電のバランスを知るためにも個別の月にも入り込みたい。

例えば、月ごとの再エネ発電量が、今年の3月と7月だけ昨年比でマイナスになっていることがわかる(グラフ上部の赤い下向きの矢印)。内訳を見ると、その2つの月の陸上風力発電による今年の発電量が、昨年を大きく下回っている。これは、昨年の風況がかなり良かった(もしくは、今年が悪かった)ためと推測される。一般的に、太陽光発電は初夏から夏に稼ぎ、風力発電は風の強くなる冬に発電量を伸ばす。

また、グラフ全体で気づくと思うが、月毎の再エネ発電量の差はあまりなく、年間で見るとなだらかになっている。実際に太陽光と風力発電の得意、不得意月がそれぞれあまり重ならないため、トータルで見るとバランスが取れて来るのである。

再エネ電力の発電総量と電源別内訳の変化(2020-2024、月別) 出典:AGEE Stat「Entwicklung der ERNEUERBAREN ENERGIEN in den Sektoren Strom, Wärme und Verkehr」

上のグラフは、月毎の変化を5年間分横に並べている。
全体の発電量は、緩やかに上がっているが、月毎にはほぼ平準化されていることが見て取れる。実は、再エネの導入、拡大にとって、これがとても重要なことなのである。

日本では爆発的な拡大を
大前提に、効率的なバランスも

国内の電力需要に対して、再エネの電力供給が大きく乖離すると、余剰や不足が生まれやすい。解消のためには、蓄電池を入れるなどの新たな費用負担やDR(デマンドリスポンス)導入の技術的対応なども求められる。つまり、手間やお金がかかるのである。

ドイツでは、太陽光と風力発電のバランスによってそれが節約できる。例は、季節変動だけ示したが、一日のうちの変動(昼と夜のバランス)でもこの法則は活きてくる。“お天気任せ”が自然に解決すると言ってもよい。

問題は日本で、太陽光発電だけが先に普及した結果、導入量が少ないにもかかわらず、出力抑制が拡大するなどの問題が早めに起きている。もちろん、再エネの絶対量でまだまだ足らないので、太陽光発電ももっと増やす必要があるが、洋上風力発電を中心に風力の拡大も強く期待したいと考える。

プロフィール

エネルギージャーナリスト
日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表
埼玉大学社会変革研究センター・脱炭素推進部門 客員教授

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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