政策・制度

北海道登別市 罰則付きの再エネ規制条例案を議会に提出、6月施行へ

北海道登別市は、大規模太陽光発電などを規制する条例案を2月17日に開会した定例市議会に提出した。正当な理由なく命令に従わない場合、5万円以下の過料を科す罰則規定が設けられている。北海道湧別町でも昨年7月に同様の条例が施行されている。

メイン画像:北海道登別市の登別温泉

<目次>
1.300以上の自治体で再エネ規制条例を制定
2.北海道登別市は禁止・抑制区域を設定
3.命令違反に罰則規定 再エネ事業の適切な導入を推進
4.持続可能な再エネ事業成立に地域共生への投資は必須に

 

300以上の自治体で
再エネ規制条例を制定

観光名所として知られる登別地獄谷(北海道登別市)

近年、全国的に再生可能エネルギーへのバックラッシュが目に付くようになった。住宅隣接地に建設された太陽光のパネル反射光による光害、景観の悪化、山肌や森林の伐採に伴う環境の変化、土砂流出や濁水発生といった問題が発生していることに加え、太陽光パネルのリサイクルにおける重金属類汚染への懸念なども加わり、環境に良いはずの再エネが岐路に立たされている。一部の事業者による住民の意向を無視した姿勢や、自然環境を破壊して事業を強行するケースもみられる。

こうした状況に対して全国の自治体では、地域環境と再エネとの共生を目指した条例制定が相次いでいる。一般財団法人地方自治研究機構(RILG)のまとめによると、全国の自治体が制定した再エネの規制に関する条例は昨年12月までに300を超えている。最近では青森県が再生可能エネルギー地域共生条例案をとりまとめ、2月21日に開会した県議会で審議が行われている。

 

 

北海道登別市は
禁止・抑制区域を設定

登別市再生可能エネルギー発電事業と地域との調和に関する条例案(出典 登別市)

北海道の中南部にある登別市は支笏洞爺国立公園の中核に位置し、自然が豊かで北海道有数の観光地である。このため、登別温泉の観光関係者などでつくる市民団体が、大規模太陽光発電設備の規制に関する条例制定を求めて署名活動を展開していた。登別市は昨年11月に条例制定についての意見公募(パブリックコメント)を実施し、2月17日に開会した定例市議会に条例案を提出している。

登別市が制定を目指している条例の名称は、「登別市再生可能エネルギー発電事業と地域との調和に関する条例」。10kW以上の再生可能エネルギー発電設備(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスおよび系統用蓄電池も含まれる)を規制の対象としている。再エネ発電事業を禁止あるいは抑制するエリアを設定するほか、事業可能な区域でも事業者が配慮すべき事項を盛り込んでいる。

登別市再生可能エネルギー発電事業と地域との調和に関する条例案(出典 登別市)

再エネの規制にあたっては、「禁止区域」と「抑制区域」を設定する。このうち「禁止区域」では、原則として再エネ発電事業を禁止する。これには地すべり防止区域や急傾斜地崩壊危険区域など危険性が伴う区域のほか、砂防指定地、国立公園、特別緑地保全地区、保安林区域,特別保護区、河川区域、史跡・名勝・天然記念物が存在する区域、さらに同市として文化財のある区域を対象にしている。災害リスクの排除と、自然環境保全、文化財への悪影響の排除を主要な目的としている。

また「抑制区域」については、「国立公園と一体的で、自然豊かな山間の温泉地を形成する登別温泉からカルルス温泉を結ぶ区域」を対象としている。「禁止区域」と「抑制区域」の合計面積がどの程度になるのかは明示されていないが、登別市の多くの割合を占めている。

命令違反に罰則規定
再エネ事業の適切な導入を推進

登別市再生可能エネルギー発電事業と地域との調和に関する条例案(出典 登別市)

ここで注意すべきなのは「禁止区域」においても、地すべり等防止法や砂防法、自然公園法などの関係法令に適合している場合を除くとしていることで、決して全ての事業を排除しているわけではないということだ。また「抑制区域」についても「協力を呼びかける」という形としており、それほど強制力は高くない。青森県の条例案が、再エネ事業の実施にあたって「共生区域」の指定を得なければ課税するという内容に比較すれば、穏当と言える。

一方、事業者が配慮すべき事項としては、①自然環境、景観、生活環境の保全、②防災および安全対策、③地域住民への対応、④発電設備設置後の維持管理――などを挙げている。そのほか、市との事前協議や、地域住民への説明会の開催を求めており、市が必要に応じて事業者に指導・助言または勧告できるとしている。正当な理由なく従わない場合は再エネ事業者に命令することもできる。さらに命令に従わない場合には罰金を課す方針だが、その額も5万円以下と低く抑えられている。

登別市としても「再エネの利用は積極的に取り組む」としており、条例そのものは決して再エネ事業の排除を目的としたものではない。パブリックコメントでは、波力や鉄道回生エネルギーなども規制対象とすべき、外資や外国人の事業者を排除すべきといった意見が寄せられたが、市はそうした意見については条例に反映しなかった。

持続可能な再エネ事業成立に
地域共生への投資は必須に


これまで再エネ事業は、一部で問題案件があったことも事実であり、住民の生活環境や自然環境の保全、災害の予防の観点から一定の規制は必要だ。しかし、規制が強すぎると再エネ事業の導入を阻害することになる。登別市の条例案はその点、バランスが取れているように見えるが、それでも事業コストを引き上げることは間違いない。こうした動きは今後も続くとみられ、再エネ事業における地域共生にはより多くの時間や手続きが必要となる。再エネ事業者はそのための資金や手間、時間をかけざるを得なくなったと言えるだろう。北海道では、オホーツク海沿岸の湧別町が24年7月に罰則規定を盛り込んだ条例を施行している。

登別市の小笠原春一市長は、2025年度の市政執行方針のなかで、「定例市議会に上程した 『登別市再生可能エネルギー発電事業と地域との調和に関する条例』の運用を通じ、自然環境や景観、生活環境の保全などを図りつつ、脱炭素の取り組みとして、再生可能エネルギーの導入を進めるなど、その両立が図られよう取り組んでまいります」と決意を述べた。

3月14日(金)に開催する「ケーブル盗難対策ウェビナー」では、一般社団法人 再生可能エネルギー長期安定電源推進協会(REASP)事務局長の川崎雄介氏が「太陽光発電業界団体における盗難対策への対応」というテーマで講演します。



太陽光発電所オーナー向けにケーブル盗難対策ウェビナーを3月14日に開催します。被害状況や行政動向の最新情報、そして増えつつある低圧発電所の被害、対策ガイドライン解説、費用対効果まで、盗難対策の最新情報とノウハウを3時間で網羅します。


DATA

盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律案


DATA

登別市再生可能エネルギー発電事業と地域との調和に関する条例(案)に係る意見公募(パブリックコメント)の実施結果について


取材・文/宗 敦司

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