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緊急コラム第一弾「JEPX高騰の問題点と対応策」

2021年の年明けは、エネルギー関係者にとって、嵐の幕開けとなった。昨年末から始まったJEPX高騰は年明けさらに拡大し、システムプライスのピークで250円、一日平均でも150円を超えた。もはや狂乱といってよい。昨年1年間の平均価格の20倍を付け、それが1か月近くは続く勢いである。今回は、昨年末に前編を記した「FIT電源は誰のものか」をいったん横に置き、JEPX高騰について深堀りする。

※2021年1月15日執筆※

高騰の原因と深刻な影響

あちらこちらで、今回の高騰についてのコメントや論評が見受けられる。原因に関しては、「LNG(液化天然ガス)の不足」と「厳寒」が挙がっており、この2つがきっかけだったことはほぼ間違いないであろう。しかし、高騰のレベルが先に挙げたように異常な数値であり、原因と結果を単純に結び付けるだけでは無理があるように見える。

また、新電力を中心とした小売電気事業者の大量破綻の可能性だけでなく、エネルギー燃料の調達や市場システムを含んだエネルギー安全保障の機能不全の露呈や脱炭素へのマイナス効果など問題は、多岐、かつ深刻である。

一部で聞かれる新電力の準備不足や再生エネ拡大悪玉論のようなレベルの問題ではない。関わりの度合いは様々であるが、私の知る20社ほどの地域、自治体新電力のうち、ほぼ無傷であるのは、3社だけである。そのうち2つは、「運」がもたらしたと言える。一定の割合のヘッジをしていたところも多いが、このレベルの高騰に対しては、「暖簾に腕押し」でしかなかった。

限られた字数の中なので、ここではある集まりでの提言を元にして、今回の高騰を考えてみる。

1月14日、雑誌「日経エネルギーNext」が主催した緊急オンラインミーティングが開かれ、およそ160社の新電力などが参加した。筆者は参加資格である小売電気事業者のライセンスを持たないため、参加者からの間接的な情報でこれを書いている。よって、内容の正確性に欠けるところもある。どちらかといえば、議論のポイントを元に筆者が論評を行う形になっていることを了解いただきたい。

議論が示す、JEPX高騰の示す問題点と背景

緊急ミーティングでは、JEPX高騰への対応などで、以下のような意見が出たという。

① 市場取引の停止
② LNG不足の実態の情報開示
③ JEPXの価格決定過程の情報開示
④ 災害時と同様な救済措置
⑤ 発電事業者、送配電事業者による巨利の還元
⑥ (発電事業者)可燃費限界費用を上限値に設定
⑦ (FIT電源)買取固定価格を上限値に設定

①が緊急対応措置、②と③が今回の事象の原因究明のための情報開示、④と⑤が新電力に対する救済措置、⑥と⑦が今後の予防措置となるだろう。

緊急事態の収拾と原因究明

今回起きた高騰は、同時進行で起きていた電力需給のひっ迫、つまり停電危機と表裏一体であった。資源エネルギー庁の担当部署も、実際に徹夜で対応にあたっていた。必要なやり取りを行ったメールの先方の発信時間が午前3時であったのに驚いた記憶がある。

表立った節電要請や計画停電の話もなかったが、実際には綱渡り状態であったと聞く。また、東日本大震災には計画停電が実施されたが、その時の市場は、20円以下に収まっている。

①のJEPX取引の緊急停止は、需給ひっ迫の停電防止の観点からも求められてよい可能性がある。異常な価格高騰が一定期間続いた時点で、同様の措置があっておかしくない、との意見である。

②のLNG不足は、前述した今回の事象の原因の一つである。どのような過程、背景で不足したかは、必ず解明されなくてはならない。電源の4割を占め、現状での主力電源である天然ガスの不足は、まさにエネルギー安全保障の根幹に係る問題である。長期保存がきかないことなどの条件も含め、一定量で一定期間の保管に関しては誰がどうやってどのように費用を負担するかも合わせて議論しなければならない。

③の高騰した価格決定の情報は、特に分析が求められる。年始には、欧州の市場でも価格の上昇が見られている。一時期には平均で10ユーロセント近い通常の倍近い価格を付けている。様々な条件の違いはあるにしても、日本の20倍という数字の異常性は際立つばかりである。この一週間ほどのうちに、いくつかの新電力や、発電事業者にヒアリングを行った。相対契約で縛られず、余裕のある発電側もかなりあることも分かったが、今は、市場での利益を優先している実態もはっきり見えた。

日本の市場の非対称性は、何度も繰り返して取り上げられている。圧倒的な発電と小売りのシェアを占める旧一般事業者系の存在がそこにある。今回の出来事は、日本のマーケットシステムの信頼性にまで入り込んでいる。単純な陰謀論などではなく、今後の対策のために、何が起きたのかを知らなくてはならない。

電力自由化を逆行させない措置を

14日の会議では新電力に対する救済が強く求められた。現時点(1月15日)で、JEPXのシステムプライス(16日引き渡し)はやや落ち着いてきてはいるが、最高100円、平均で50円とまだ異常が続いている。規模の小さい、地域や自治体新電力でも、億に達する融資が必要なところも珍しくなく、「瀕死」と書く向きもある。

せっかく進めてきた電力自由化に失敗というラベルを貼られないためにも、④の救済策を検討してもらいたい。具体的には、インバランス料金の支払いの先延ばしや減免、また、緊急融資などが考えられる。

一方で、⑤で示されているのは、今回生まれた莫大な利益の使い道である。燃料の値上げや緊急に発電に要したコストは確かにあるが、狂乱のシステムプライスとのバランスは全くとれていない。激変緩和措置後のFIT電源については、市場価格がこのところずっと固定の買取価格を上回っていて、送配電事業者が大きな利益を上げている可能性がある。救済策の財源にすることも想定した緊急ミーティングの提言の背景になっている。

脱炭素推進を見据えて

今後、同様な事態を起こさないためには、燃料の確保だけでなく、市場の安定性確保が必要である。⑥と⑦で売り買いの上限値を設定するのは、自由市場とは言えないと考える向きもあろうが、今回起きたこと自体が自由なマーケットといえるかどうかの問題でもある。

容量市場との関係で、化石燃料による発電事業者は卸売市場では燃料などの変動費を回収するとの議論がなされており、なんらかの形で俎上に上げてもよいと考える。

また、日本のエネルギー政策との関係で懸念されるのが、脱炭素推進への影響である。今回、特に“被害”を受けたのが、エネルギーの地産地消や再生エネ普及を掲げ、FIT電源を多く取り扱う新電力である。激変緩和を受けないFIT電源は、JEPX市場との価格と連動するため、市場の高騰の波を正面からかぶっている。また、買取価格を市場価格が上回る逆転現象も起きていて、本来発生しないはずの利益と損が起きている。

⑦で示したように、こうした矛盾の解消のためにもFITの買取価格という上限を設けることは検討に値すると考える。ただし、既に存在するFIT電源の扱いだけでなく、今後は非FITの再生エネ電源をどう増やしていくかが、脱炭素の重要な道筋になることは間違いない。

今回のコラムでは、緊急的にJEPX高騰を取り上げた。一刻も早い事象の収拾だけでなく、今後、日本のエネルギーの在り方やシステム設計について、根本的な議論を行うことを呼びかけておきたい。また、地域や自治体新電力による地域活性化を勧めている立場から、地域の灯を消さないためにさらなる努力を傾けることを宣言しておく。

プロフィール

エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。

北村和也

エネルギーの存在意義/平等性/平和性という3つのエネルギー理念に基づき、再エネ技術、制度やデータなど最新情報の収集や評価などを行う。
日本再生可能エネルギー総合研究所公式ホームページ

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